5)The Japan Timesの記事
The Japan Timesは、2023年の洪水被害について、8月4日に、次の様にまとめています。
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中国では今年に入り、洪水被害に遭った人が延べ3000万人以上に達している。ここ数日で20人以上の死者が出ており、気候変動によって拍車が掛かる異常気象への備えを巡っては疑念も生じている。
北京に隣接し、16年からスポンジ都市の取り組みを進めていた河北省の邢台市も豪雨の被害を受けた。2日間で2年分となる39.5インチ(約1000ミリメートル)の雨量を記録し、洪水が発生。中国メディアの財新によると、1日時点で5人が死亡し、4人が行方不明となっている。
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2日間で、1000mmの洪水の確率はわかりませんが、Sponge cityの計画は、30年に1度のサイズの豪雨です。
日本の洪水対策は、10年か20年に一度程度なので、これよりはハイレベルです。
Bloombergの記事は次の様になっています。
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中国の「スポンジシティ」は、30年確率を超える洪水に備えて建設されていない
北京を拠点とするグリーンピースの研究員リー・ジャオ氏によると、この戦略に基づく水管理設計は2014年までの30年間の降雨量に基づいており、異常気象は現在、システムが対応できるよう設計されたレベルをはるかに超えているという。
北京の環境研究機関で、非営利団体公共・環境問題研究所所長のマ・ジュン氏は、「スポンジ」戦略は有用であり、より広く採用されるべきだが、極端な場合にはこの戦略だけでは十分ではなく、他の手段と組み合わせる必要があると述べた。
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The Times of Indiaも、The Japne TimesやBloombergと同じ論調で、30年確率を超える場合には、Sponge city以外の対策が必要だろうという記事です。
6)日本の現状
日本の洪水対策は、10年か20年に一度程度というの数字は、正常な対策が出来ている場合です。東京都の神田川、横浜の鶴見川流域では、10年水準は達成できず、7年に一度以上の湛水リスクがあります。
2021年10月26日の東洋経済で、リチャード・カッツ氏は次ように指摘しています。
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財政刺激策:気候変動と教育に投資を
気候変動がもたらす激しい洪水が避けられない国のリストでは、日本はトップに近い位置にいる。こうした中、政府の需要刺激策としての公的支出は、河床の舗装や海岸線のコンクリート堤防建築といった福島第一原発の壁並みに役に立たない、建設業界向けの無駄な公共工事に向けられるべきではない。
代わりに、気候が誘発する洪水が引き起こす災害の軽減など、真のニーズに資金を費やすべきだ。新型コロナウイルスで生じたサプライチェーンの混乱は将来待ち構えているものと比べたら非常に穏やかなものに見える。同時に3500万の人々が洪水の危険性がある地区に現在住んでおり、その多くが貧困な高齢者で避難できないが、保険で保護されていない。
にもかかわらず、日本はそれに備えていない。再保険会社のスイス・リーは、世界で最も脆弱な大都市圏として東京横浜地域を挙げている。最近建設された地下水貯蔵場は、1時間当たり50mmの豪雨しか想定していないが、2018年、日本の多くの都市ではその4倍の雨が降っている。(注1)
こうした取り組みが、建築会社への新たな「贈り物」にならないよう、環境省は災害に備える計画を立てる必要がある。
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現代ビジネスの記事では、「海綿都市は、巨額予算だけを吸い込んで水害には役に立たなかった習近平主導の防災プロジェクト」でるあるかのように書かれていますが、これは事実誤認です。
東京の気候区分は、上海に近く、北京では雨は少ないです。
日本の平均年降水量は、1500mmくらいです。梅雨がなく、雨の少ない、北海道でも、年間1000mm以上の雨が降ります。
中国の平均年間降水量は、1000mm以下です。
中国のSponge cityよりも、東京横浜地域の洪水対策ははるかに、脆弱です。
これは、日本以外の国では、洪水対策の第1は、土地利用計画や土地利用規制だからです。
日本では、全総からはじまる土地利用計画は、全て、失敗しています。
土地は、無秩序に開発され、住宅があれば、コストを無視して、コンクリートの洪水対策が行われてきました。
2011年の東日本大震災の津波被害でも、昭和三陸津波の被災エリアに立てられた住宅が大きな被害を被りました。ハイリスクエリアは、外国では、flood planeに指定され、できるだけ、湿地帯をのこした環境保全エリアになります。この部分は、洪水をためるスポンジエリアになります。河川の水質浄化エリアでもあり、鳥や魚の餌場と生息域になります。
英国の場合には、「Surface Water Management Plans」として、制度化されています。
7)洪水対策の因果モデル
英国の「Framework and tools for local flood risk assessment: project report 2014」には、「delivering benefits through evidence」というサブタイトルがついています。
英国の政策は、現在では、エビデンスに基づく、効果の検証が行わています。
一般の因果モデルは、「原因ー>結果」の形式をとります。
洪水の場合には、「原因(The source)ー>媒介(pathway )ー>結果(receptor)」で整理されます。これは、 「The source-pathway – receptor (SPR) concept」とも呼ばれます。
津波であれば、「津波が沿岸に到達する( 原因、The source)ー>防波堤が津波を弱める(媒介、pathway )ー>被害が発生する(結果、receptor)」と考えます。
洪水であれば、「豪雨が発生する( 原因、The source)ー>ダムやスポンジが豪雨の一部を吸収する(媒介、pathway )ー>被害が発生する(結果、receptor)」と考えます。
ここで、ダムとスポンジという2種類の媒介(pathway )を考えます。同じ原因に対して、同じ結果(被害)が発生するのであれば、2種類の媒介(pathway )の効果は同じと見なせます。
この公式を使えば、同じ効果を発揮するために、ダムとスポンジのどちらが経済的かを判断できます。
また、ダムとスポンジでは、環境便益の大きさが違いますので、これも比較することが可能です。
8)エビデンスの欠如
国内に問題が多い場合には、外国を悪者にして、「日本は、海外より、まだましだ」という宣伝をすることは、政治の常套手段です。
中国は、対日感情を制御してきましたが、最近の日本は、ほとんど同じレベルになりさがっています。
中国は、土地バブルの問題を抱えています。日本のマスコミは、その問題を習近平政権の失政にあるように宣伝しています。
しかし、遠藤誉氏の解説をみると、習近平政権は早くから、土地バブルの問題を認識していて、それなりの対策を打っています。
一方、2022年1月11日の東洋経済のリチャード・カッツの記事は次のように伝えています。
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約半世紀前、1978年から財務省は政府が抜本的な歳出削減と増税をしない限り「日本は崩壊ししかねない」と、首相を脅し続けて自分たちのいいなりにしようとしてきた。最近は国債市場の暴落を”ネタ”にしている。財務官僚たちは影で、首相を次々と「犠牲」にすることで消費増税を繰り返せると影でジョークを言っているほどだ。
財務省は、今のままでは高齢化が進むにつれ、社会保障費や医療費などの支出がGDPに占める割合が大きくなっていくと主張している。しかし、数字のうえではそうではない。高齢者への支出はたしかに増加し、2013年には対GDP比12.5%でピークに達した。だがその後、これは横ばいになり、2019年には12.4%になっている。
これはどのようにして起こったのか。プリンストン大学経済学部のマーク・バンバ教授と、コロンビア大学経済学部のデビッド・ワインスタイン教授による指摘どおり、高齢者の数が増えたにもかかわらず、財務省は高齢者1人当たりの支出を大幅に削減することを推し進めた。結果、高齢者1人当たりの社会保障費は、1996年のピーク時には192万円だったのが、2019年には149万円と約20%減少している。
医療費はどうか。1999年のピーク時には高齢者1人当たり52万円だったのが、2019年には44万円とこちらも、15%削減された。
これらの削減は、65歳以上の1人暮らしの女性の貧困率が50%近くにまで上昇した理由の1つだ。また、2018年には、主に3000円相当の万引きの疑いで4万5000人の高齢者が逮捕されており(1989年は7000人だった)、多くは収監されないが、刑務所に入る人の3分の1以上は60歳以上が占めている(1960年には全体の5%だった)。多くは1年ほど刑務所で過ごした後、解放されるが、その後同じ罪で再び刑務所に戻る。刑務所には温かいご飯、ベッド、医療があって、仲間がいるからだ。
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これを見ると、日本の政策が、習近平政権よりマシとはいえません。日本が住みやすくて、中国は住みにくいとは、必ずしもいえません。
鄧小平氏は、習近平氏の父親の習仲勲を冤罪で16年間牢獄生活をおくらせたので、習近平氏は、反鄧小平氏です。
それでも、習近平氏は、猫理論の生産性が重要なことは認識しています。
リチャード・カッツ氏は、財務省の財政破綻リスク論には、根拠がないと批判しています。
筆者は、その批判が、どこまで当たっているかを判断できるだけの情報を持っていません。
しかし、財務省は、政策の効果をエビデンスをもとに計測して、無駄な政策を中止して、予算執行の効率化をはかることを一切行っていませんので、その点だけでも、財政破綻リスク論はナンセンスだと考えます。
引用文献
日本がずっと「停滞」から抜けられない4つの要因 2021/10/26 東洋経済 リチャード・カッツ
https://toyokeizai.net/articles/-/463987
日本の問題をはき違えている「財務省」の大きな罪 2022/01/11 東洋経済 リチャード・カッツ
https://toyokeizai.net/articles/-/500817
巨額予算だけを吸い込んで水害には役に立たなかった習近平主導の防災プロジェクト「海綿城市」、壮大な手抜きの実態 2023/09/07 現代ビジネス 北村 豊
https://gendai.media/articles/-/115790?imp=0
中国の「スポンジ都市」も吸収しきれず-異常な豪雨で洪水被害 2023/08/03 Bloomberg
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-08-03/RYSZJMT0AFB401
なぜ中国経済はなかなか崩壊しないのか? 不動産問題の遠因は天安門事件後の日本の対中支援 2023/09/06 遠藤誉
Turning Cities Into Sponges to Save Lives and Property Newyork times 2022/03/28
https://www.nytimes.com/2022/03/28/climate/sponge-cities-philadelphia-wuhan-malmo.html
BUILDING CLIMATE RESILIENCE AND WATER SECURITY IN CITIES: LESSONS FROM
THE SPONGE CITY OF WUHAN, CHINA. UNIVERSITY OF LEEDS
China’s ‘sponge cities’ are not built for extreme flood event 2023/08/02 The Times of India
China’s ‘sponge cities’ are not built for extreme flood events 2023/08/04 The Japne Times
https://www.japantimes.co.jp/news/2023/08/04/asia-pacific/china-sponge-cities-extreme-weather/
Framework and tools for local flood risk assessment: project report 2014
Surface Water Management Plan Technical Guidance March 2010
Moving towards inclusion of coastal wetlands in the UK LULUCF inventor 2022