デジタルカメラの不都合な真実(1)

以前、デジタルカメラの性能について、別途、論じたいと申し上げました。

まだ、その全貌に達してはいませんが、その一部が頭の中で整理できたので、説明します。

今回は、先に、アイデアを図で説明した後で、実例を引いてみます。

図1は、センサーサイズ・ダイナミックレンジとカメラ性能を示しています。横軸は、ダイナミックレンジですが、ISO感度と考えてもよいと思います。縦軸は、センサーの場合には、SN比になりますが、写真写りと考えてください。センサーサイズだけでなく、解像度も問題になりますが、WEBに載せる写真や、A4(6つ切り)までの写真であれば、1000万画素あれば十分なので、1000万画素に揃えた図と考えてもらってもかまいません。要点は、センサーサイズが大きくなると、大きなダイナミックレンジでも性能が良くなる、一方、小さなダイナミックレンジでは、センサーサイズの差はでないということです。実際に、2013年頃まで、メーカーは、2.3型または、1.7型のコンデジを製造販売していました。これらのカメラは、昼間の野外の光の量が十分あって、ダイナミックレンジの小さな場面では、フイルムカメラに匹敵する画質を得られていたと思います。

図2は、図1にレンズ性能を加えたものです。レンズ性能を加えると縦軸の目盛りが、SN比でなく、写りになってしまいますが、ここでは、総合評価をするために、そのあいまいさを許容することにします。図2は、通常考えられているカメラの性能を表しています。つまり、センサーサイズの大きなカメラ程性能がよいというアイデアを表しています。センサーサイズの小さい2.3型では、コンデジの性能は、スマホの性能と変わらなくなった。携帯性と価格で、コンデジは、スマホにかなわなくなったので、コンデジは売れなくなり、撤退をしたという理解を説明する図でもあります。

図3は、図2に、レンズ性能の違いを加えたものです。図2では、センサーサイズにかかわらずレンズ性能は同一であるとしています。これは、センサーサイズが大きくなると連動して、レンズのサイズも大きくなりますが、それなりの価格のレンズであれば、センサーサイズが大きくなってもレンズ性能が低下しないという仮説に基づいています。価格など、投入できる資源が一定の場合には、レンズの性能は、センサーサイズが小さい方がよくなります。しかし、そのハンディは、投入資源を増大させることで補えるという仮説です。しかし、この仮説は、疑わしいです。大きなレンズの周辺になれば、歪みや収差が大きくなります。小さいレンズであれば、これらの問題を解消できます。仮に、「ハンディは、投入資源を増大させることで補える」と考えても、価格制約がなくても、携帯のサイズの制限があり、無制限に補えるとは思えません。そこで、図3は、レンズの性能は、センサーサイズで異なるという仮説を示しています。この図のポイントは、ダイナミックレンジの小さいエリアでは、よりセンサーのカメラの方がよく写るという点です。つまり、理論上、ダイナミックレンジの狭いエリアでは、フルサイズカメラの写りは、スマホのカメラに負けるということです。

この仮説は、カメラメーカーや、プロの写真家にとっては受け入れがたい不都合な真実です。このため、流布されることはないのでしょう。

図4は、センサー性能の変化に伴う図の変化を示しています。図4のオレンジ色の線より、左側のダイナミックレンジの狭いエリアでは、センサーの小さいカメラの方がよく写ります。逆に、オレンジ色の線より右側では、センサーサイズの大きなカメラの方がよく写ります。多くのカメラメーカーは、このオレンジ色の線の右側で、大型センサーのカメラの写りが良いことを宣伝しています。しかし、ここで比較したいのは、オレンジ色の線の左側の写りです。休暇村富士で富士山の写真を撮影したときのことです。(注1)筆者は、m43の小型のセンサーカメラで三脚なしでいい加減に撮影していたのですが、そのとき、フルサイズセンサーの重そうなカメラを抱えた2人のカメラマンが三脚を据えて撮影していました。そのとき、一人のカメラマンが、ぽろっと「これだったらスマホのカメラの方が雰囲気のある写真が撮れる」といっていました。つまり、スマホのカメラの方がよく写る場面があると体験しているカメラマンもいるのです。図4は、どうして、「スマホのカメラの方がよく写る」と感じるのかを説明できます。そして、オレンジ色の矢印で示したように、センサーの性能があがって、同一サイズのセンサーのダイナミックレンジが広がると、オレンジ色の線は、右に移動します。

最近は、m43のカメラを主につかっています。オリンパスは、「フルサイズに負けない画質である」ことを宣伝していますが、オレンジ色の線の左であれば、フルサイズに負けないことは当たり前です。主戦場は、フルサイズではなく、スマホのカメラと思われます。スマホのカメラには、マウント規格がありませんが、今後出てくる可能性があります。スマホとm43を比べると、スマホのカメラのフラッシュバックは小さいので、広角に有利です。m43も、広角レンズの場合には、センサーの位置を繰り出して、フラッシュバックを小さくするなどの工夫をしないと、スマホに勝てないかもしれません。

ダイナミックレンジは、センサーサイズが小さくなると小さくなりますが、これは、ブランケット撮影などの、マルチショットでカバーすることが可能です。マルチショットを行えば、通常のダイミックレンジでは、センサーサイズの問題はなくなるでしょう。マルチショットは、静止画にしか使えません。したがって、センサーサイズの大きなデジカメは動画用しか残らないかもしれません。ここで問題になるのが、LIDARと思われます。LIDARには、一秒間に130万データポイントを収集できるようなので、動画撮影には、LIDARを使いこなさないと生き残れないと思われます。この点でもスマホは強力なライバルであることは間違いありません。

スマホとの競合で、おそらく、カメラメーカーの最大の課題は、スマホでは、カメラ関係の機能は、スマホの機能の一部なので、その部分で利益を上げる必要が小さく、カメラ部分の利益率ゼロでも、性能向上ができることです。スマホのカメラは、クラウドエコシステム上の製品です。ですから、カメラメーカーは、カメラで利益を上げる構造(エコシステム)を変えないと生き残れないということです。

 

注1:

以前の記事

田貫湖の富士(静岡県富士宮市)~つくば市とその周辺の風景写真案内(259)(2020/12/17)

 

 

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図1  センサーサイズ・ダイナミックレンジとカメラ性能

 

 

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図2  センサーサイズ・ダイナミックレンジとカメラ性能

 

 

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図3  センサーサイズ・ダイナミックレンジとカメラ性能

 

 

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図4  センサーサイズ・ダイナミックレンジとカメラ性能