コロナ対策と逆向き推論~帰納法と演繹法をめぐる考察(6)

コロナ対策と逆向き推論

今回は、演繹法が重要であることを、バックキャストと逆向き推論の点で説明します。ついでに、コロナ対策の事例も述べます。

とはいえ、内容は、当たり前のことです。この週末に、新しい共通テストがありました。共通テストが例えば、半年後にあることが分かっていれば、受験勉強は、半年後に、試験範囲をどこまで解ける実力が必要かを決めて、そこから逆算して、期間の半分の3か月前までに、達成すべき目標を決めます。さらに、3か月を細分して、次の1か月までに達成すべき目標を決めて、1か月後に向けて、今週、あるいは、今日は何をすべきかを考えるはずです。もちろん、共通テストの全範囲を6か月で消化できる学生は、特別、優秀な学生だけですから、通常は6か月ではなく、2年程度はかけて計画するはずです。

こうした計画を立てずに、試験の直前になって、勉強を始める方法は、一夜づけと呼ばれ、勉強をしなくとも、できる特別な学生を除けば、落第に近い方法として、避けるべきものとされています。

計画的な受験勉強の方法は、言うまでなく演繹法で、過去から現在を推論しますので、逆向き推論になります。一方、一夜づけは、計画を立てずに、現在の延長性で、行動しますので、帰納法にあたります。

現在から、先の時点に目標を設定して、逆向き推論する方法は、バックキャストと呼ばれることもあります。

さて、なぜ、一夜づけ勉強は良くないという当たり前のことを振り返っているかというと、実は、現在のコロナウィルス対策は、一夜づけの連続だからです。

図1に、コロナウィルスをイメージしたバックキャストと逆向き推論をしめしています。

半年前に、1月の感染者数を推定して、そのシナリオ毎に、逆向き推論で対策を練っておくことは可能でした。実際に、病床を増やし、病院間連携を図って、準備してきた自治体もあります。しかし、そうした対策をしなかった自治体や医療関係者もいます。いわば、一夜づけの対策を繰り返してきた組織です。そうした組織は、立ち行かなくなってきていますが、それは、当たり前のことです。

マスコミは、一夜づけの対策ばかり報道しています。実際に、過去に、病床を増やし、病院間連携を図って、準備してきた自治体もあるのですから、そうした優良事例を報道して、一夜づけの対策をしている組織に改善を求めるべきでした。しかし、そうしたことはしていません。危機をあおって、視聴率をかせぐことに熱心です。

図1をコロナ対策に、過去にさかのぼって、適用しても、過ぎ去った時間はとりもどせません。そこで、将来に当てはめてみます。例えば、半年後にオリンピックを開催する場合を想定します。図1をたとえば、東京都に当てはめた場合には、シナリオD、または、シナリオCで、オリンピックを行うことはできないでしょう。そうすると、シナリオA、または、シナリオBしか選択肢はないことになります。過去に東京都の感染者数が100人を切ったのは、5月と6月だけです。10人未満が続いたことはありません。これを達成するのであれば、恐らく東京都の人口の半分以上にPCR検査をして、ウィルスをあぶりださないとだめです。しかし、政府の対策は、このような逆向き推論を使っていません。

コロナ対策を小出しにして様子をみるという思考形態は、帰納法であり、ヒューリスティックです。この方法は、一夜づけの対策ですから、解決すべき問題が簡単な場合を除いて、ほぼ成功が見込めない方法です。

 

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図1 逆向き推論(水色矢印、人数は日感染者数)