アブダクションと逆問題~2030年のヒストリアンとビジョナリスト(9)

アブダクションの説明には、ひどいものが多く、昔、岩波から出ていた某翻訳では、「あてずっぽう」という用語があてられていました。

 

論理的推論(ウィキペディア)は、次のように書いています。

 

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演繹

 

    演繹は「結論」を規定することを意味する。この推論は「規則」と「前提条件」を用いて「結論」を導くことである。例えば、「雨がふると芝生は湿る。雨がふっている。したがって、芝生は湿っている。」数学者は通常、この種の推論にかかわっている。(注1)

 

帰納

 

    帰納は「規則」を規定することを意味する。この推論は「前提条件」の次に起こる「結論」の諸事例の一部から「規則」を学ぶことである。例えば、「これまで、雨がふるといつも芝生は湿ってきた。したがって、雨がふると芝生は湿る。」科学者は通常、この種の推論にかかわっている。

 

アブダクション(仮説形成)

    アブダクション(仮説形成)は過去事象についての「前提条件」を推定することを意味する。この推論は現在確定される「結論」と「規則」を用いて「ある『前提条件』が『結論』を説明することができるだろう」ということを裏づけることである。例えば、「芝生が湿っている。雨がふると芝生が湿る。したがって、雨がふったに違いない。」歴史科学者や診断専門医、探偵は通常、この種の推論にかかわっている。

 

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筆者は、上記の「科学者は通常、この種の推論(帰納)にかかわっている」は、オブジェクト・アーティフィッシャル(人工物)の場合には、方法論上の間違いであると主張します。

 

例えば、自動車を調べて、帰納を使うと、どうも自動車というものは、120㎞以上の速度は出せないらしいという命題を作ることができます。これは、過去の自動車には、当てはまりますが、その理由は、道路交通法にあるだけですから、ラッセルの七面鳥と同じエラーが含まれています。

 

経験科学と呼ばれる分野には、ラッセルの七面のエラーが多数含まれています。

 

さて、今回の話題は、アブダクションです。

 

池田光穂氏は、「アブダクションとは、ベイズ確率を確立する個々の(均質な)手続きのような気が、私はします」といっています。

 

ベイズ確率は、結果から原因を推定する手法です。最初に、主観で事前確率をきめて、エビデンスのデータに基づいて、確率の更新計算をします。

 

ベイズ確率が多用されるのは、原因から、結果が推定できるからです。

 

今、命題を「y=f(x)」とかけば、xが原因で、yが結果です。

逆関数をf(-1)で書けば、x=f(-1)(y)になります。

逆関数が簡単に計算できない場合には、結果yから原因xを推定する逆問題は、解析的にはとけませんが、モンテカルロシミュレーションを行えば、数値解を求めることができます。

 

つまり、数学的には、アブダクションは逆問題にすぎないと思うのですが、そうした説明は見つかりませんでした。

 

逆問題を解く汎用の手法は、モンテカルロシミュレーションですが、これは、値が多次元のベクトルの複雑な場合です。1次元の場合は、非線形方程式の解を求めるには、ニュートンラプソン法など、簡便な方法もあります。その場合でも、y->xの(逆問題の直接解法)代わりに、xー>y(順問題)を繰り返すというモンテカルロシミュレーションと同じ構造に違いはありません。

 

上記の「帰納」の説明では、帰納で、関数形が決められるような説明ですが、実際には、逆関数が解析的に求まられることは稀です。

 

モンテカルロシミュレーションでは、最初に、xの値を与えて、yを計算します。xの値は、いい加減ですが、変化させることで、関数形がわかります。

 

「xの値を与えて、yを計算」するのは、シナリオ分析の手法です。つまり、原因が特定できない状況で問題解決を図るには、ビジョナリストになって、複数のシナリオを作成して、検討することが必要です。ビジョナリストの思考法は、基本的に仮説推論(アブダクション)です。ヒストリアンの帰納の視点では、問題が解決できません。(注2)

 

オミクロン株について、ニュージーランドのアーダーン首相は、新たな変異株出現を警告しています。これは、ビジョナリストの思考法です。

 

日本区内では、「出口戦略議論すべき」というヒストリアンの議論が、続いています。(注3)このアプローチでは、問題解決はできないと思われます。

 

ウクライナ問題についても、米国では、「56%が『ロシアは軍事力を行使する』と予想」とシナリオが議論されていますが、日本では、シナリオの議論は聞こえてきません。

 

さて、問題は、複雑なので、今回は、以下の対応の指摘に止めます。

 

ヒストリアン 帰納 順問題

 

ビジョナリスト アブダクション 逆問題

 

注1:

「雨がふると芝生は湿る。雨がふっている。したがって、芝生は湿っている。」は、全く自明ではありません。気象庁は、0.5㎜未満は、無降雨としています。時間、空間分布の問題もあります。t=0で、無降雨でも、t=ー1で、降雨があれば、芝生は濡れています。自然界では、時間空間的に連続な変量が普通です。いい加減な離散化をすると、間違った結論に達します。

 

注2:

アブダクションウィキペディア)「アブダクションは、推論した仮定が真であることを保証しない」と書かれています。この部分の筆者は、ポパーのような仮説と反証のパラダイムにとらわれています。ベイズ統計(アブダクション)では、仮説の信頼性は、確率変数なので、このような発想はしません。つまり、仮説は白黒で評価されるものではありません。

 

注3:

ここでは、「ヒストリアンは、簡単にビジョナリストにはなれない」と考えています。これは、カーネマンの立場であり、最近の脳科学の立場でもあります。この2つは、使っている脳の回路が違うので、簡単にスイッチはできません。





論理的推論 wiki

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%AB%96%E7%90%86%E7%9A%84%E6%8E%A8%E8%AB%96

 

アブダクション wiki

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%96%E3%83%80%E3%82%AF%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3

 

仮説推論(アブダクション)はどうして重要か?池田光穂

https://www.cscd.osaka-u.ac.jp/user/rosaldo/1609_Abduction.html

 

オミクロンで終わらない、NZ首相が今年の新たな変異株出現警告 2022/02/08 ロイター

https://jp.reuters.com/article/health-coronavirus-newzealand-idJPKBN2KD0FV

 

ウクライナ情勢、米専門家の56%が「ロシアは軍事力を行使する」と予想 2022/02/08 ニューズウィーク

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2022/02/post-98025.php

 

「まん延防止」3月6日まで 「出口戦略議論すべき」分科会 2022/02/10 FNNプライムオンライン

https://news.yahoo.co.jp/articles/53ffd7f10e3c4e4c3a59ec4cdb149d01e4f04ced