「経路依存」の問題

デジタル庁がデジタル化が進むかといえば、「デジタル庁が今までのデジタル化の障害を取り除くことができれば」、デジタル化が進むとしかいえません。1990年頃から、国会では、「Xが問題になるとX解決組織やX解決予算」を組んできました。例えば、少子化が問題になれば、少子化担当大臣を置くといった具合です。この方式は、問題の中身を気にしないで、対策を行っているというポーズを作ることには有効ですが、予算と組織の増大を招くだけで、実際の問題解決にいたることはあまり多くありません。

デジタル化が進まない原因には「経路依存」の問題があります。これの有名な例はタイプライターのキーボード配列で、まったく不合理な左上がQWで始まる配列が定着しています。実は、日本語の場合には、富士通親指シフトキーボードを開発して、ワープロが使われていた時代には、このキーボードがかなり普及しました。競技の上位入賞者を親指シフトキーボード利用者が独占したこともあります。ちょっと前までは、富士通のパソコンであれば、このキーボードを選択することも可能でしたが、現在は、製造中止になっています。「経路依存」とは現在あるシステムは効率的だから普及しているのではなく、一旦普及したことによって、より合理的なシステムへの乗り換えを阻害して、現在のシステムが居座り続けるということを指します。

中国のように、固定電話がない場合には、固定電話という経路依存システムがないためにいっきに、スマホが普及します。CADも日本国内では2DのCADが使われますが、中国は、2Dを飛ばして、最初から3DのCADに入っています。学校の授業も、オンラインの講義を使えば、不要と思いますが、入れ替わりません。これは、教員がさぼっているということではありません。You Tubeで人気の物理の講義は1コマの授業のために、ほぼ1週間(40時間)をかけて準備しています。現役の教員で、1コマの授業にこれだけの時間をさける人はいませんので、よく準備されたオンライン講義に勝てる教員はいないので、精選されたオンライン講義を使うべきです。しかし、コロナでオンライン授業になっても、こうした外部の講義は使われません。今までの授業がオンラインで流れるだけです。これは、学校も文部科学省の担当科も経路依存から抜け出せないためです。

経路依存をすぐに断ち切ることは困難ですが、弱めることは可能です。企業や官庁のOJT(On the Job Training)や前例主義は経路依存を強化することになります。省庁の縦割りも同じ傾向があります。つまり、容易ではないのですが、恐らく、ここがクリアされないと、デジタル化の進展は難しいと思われます。