(日本の教育情報の公開度は、許容できる限度を超えています。これは、科学技術立国の障害になっています)
七五三問題について触れたついでに、日米の高等学校の教育情報の公開度を比較しておきます。
大学で、環境関係の学科の教育をしている教員に知り合いがいますが、大学の教員は、高等学校のカリキュラムを丁寧に追いかけているわけではありません。特に、教養学部がなくなって、高等学校と大学のカリキュラムの接続を専門にする教員がいなくなりましたので、その傾向はつよくなっています。
それでも、2022/05/03の日経新聞の1面の「空洞化する卒業証書」というタイトルの記事に書かれているように、計算が必要な学科は、計算ができないと先に進まないので、数学や物理の補習をしています。本当は、入学試験に、物理を必修科目にしたいと考えている教員も多いのですが、それは、できません。物理を受験の必修科目したある学科では、物理が受験生に敬遠されて、4次募集までかけて定員を埋めるはめになりました。(注1)
学科の定員割れが続くと、定員削減や、補助金のカットにつながりますので、受験で、物理や数学を選択しない学生を大量に入学させています。七五三問題は、2000年頃から基本的に、変わっていませんが、高等学校卒業者数が、減っているので、更に、誰でも入学できるようになってきています。ここで、誰でも入学できるというのは、受験して、落第しないという意味ではありません。試験の成績は、その時の問題の出題範囲の違いなどによってバラツキます。このバラツキの範囲内であれば、入学試験は、できる生徒とできない生徒を識別する能力はありません。つまり、入学試験は、抽選と同じレベルの精度しかないことになります。実際に、コストをかけて受験をする意味のない試験も多くあります。
表1 高等学校卒業者数
年 高等学校卒業者数 学部入学者数 進学率
2000年 1,328,940人 599,655人 45.1%
2019年 1,055,807人 631,267人 59.7%
補習に追われている大学教員も、高等学校の最新の教科書で何を教えているのかは、フォローしていません。
一般の市民の方も、最近の高等学校で何を教えているかは、知らないでしょう。
それでは、現在の高等学校では、何を教えているのでしょうか。
わからないことがあれば、Google先生に聞いてみるのが、基本です。
ところが、高等学校の教科書は公開されていません。
Google先生はなにも教えてくれません。
これは全く理不尽です。教育は公共財なので、税金を投入します。
義務教育や、義務教育化が検討されている高等学校の基本的なカリキュラムは、日本国民であれば、誰もが理解できていることで、労働者の質があがり、国が豊かになります。
もしも文字の読めない労働者がいれば、仕事の手順書を読むことができないので、誰かが、代わりに読んで伝える必要があります。これでは、労働生産性が上がらないので、国が豊かになれません。このため基礎教育は義務教育として無償で提供されています。
義務教育に、英語やプログラミングが入っているのは、仕事の手順書が、英語やプログラミング言語でかかれていても、理解して実行できる人材が公共材として求められていることを意味します。
この点で考えれば、中学校や高等学校の卒業証書に価値があるのは、10年程度です。
基礎教育は公共財なので、中学校や高等学校で学んだときには、プログラミング教育がなかったので、年寄りは学習する必要がないとはいえません。卒業後に追加された新しい知識について学びなおすチャンスがあるべきです。そして、そのカリキュラムが義務教育の範囲であれば、公共財として、無償で学習する機会があってしかるべきです。(注2)
こうした情報が、Google先生の聞いても返ってこないのでは、情報の公開度は、インターネットの情報統制をしているどこかの国と変わりません。
今回は、生物学の中の生態学のカリキュラムを探しました。
結局、得られた情報は、次のものだけでした。
高等学校生物/生物II WIKIBOOKS
英語圏の場合には、そもそも教科書検定がありませんが、CK12財団、カーンアカデミーなど数多くのフリーの自習コースや教材があります。
カーンアカデミーには日本語版もありますが、生物学は翻訳されていません。なお、英語版には、生物学もあります。(注3)
情報は英語で、教科書検定のカリキュラムにこだわらないのであれば、お金をかけずに、学習する機会は、インターネット上に、ほぼ、無尽蔵にあります。
しかし、学習者が中学生以下であったり、高校生でも英語が不得意な場合には、フリーの学習機会がほとんどありません。
ここに、デジタル教科書や、生徒一人一台のパソコンの配布の前にやるべきことがあると思います。
教材が無償でインターネットで入手できれば、今まで、教材や学習塾にかけていた費用でパソコンを購入することができます。つまり、パソコンの配布は不要になります。その結果、一部の企業の儲けは減るでしょうが、公共財とは、企業利益を圧縮しても、国が供給すべきものですから、その点を正しく理解すべきです。
注1:
経団連は、インターンによる採用を認める方向に変化しています。教育と就職は独立すべきだという人もいますが、筆者は、その意見には同意できません。物理学や数学を習得することで、高い収入が期待できれば、物理学や数学を履修する学生は増えるはずです。入学試験に、物理学や数学を必修科目にすることもできます。大学では、物理学や数学の補習をせずに、より進んだ内容を教えられます。教育がジョブマーケットにリンクしていない国は、先進国では、日本以外にありません。日本では、就職しても、ジョブマーケットがないので、物理学の取得する経済効果はないのです。
ジョブマーケットの形成と、ジョブマーケットへの教育へのリンクなしに、科学技術立国はありえません。
注2:
大学レベルの公開講義には、MOOCsがありますが、今回の話題の範囲外です。
MOOCs(ムークス)の公開講座は、原則無料で受講できます。
日本でMOOCs(ムークス)で講義提供を行っている大学は、2015年3月時点で国立大学4校・私立大学15校の全体で19校あります。
注3:
カーンアカデミーについて、HPに一部を引用して、補足説明しておきます。
特に変わったところはありませんが、自分のアバターをつくることができます。
また、スタートしてから時間がたつので、細部に改良がされているので、使いやすいと思います。
特に変わったところはないのですが、マグロウヒルのような力のある会社はないので、日本の教科書会社で、このレベルのサービスを提供できるところはないと思います。
電子教科書とは、紙の教科書をPDF等に変換した本体だけではなく、以下のカーンアカデミーのように、「 練習問題の自動生成機能、自動採点機能、 進捗管理ツール、質問箱、基準を満たす正解率に達しないな場合には、自動的に、そのレッスンを再履修する機能」などが総合的についているものを指します。
この点も、正しく理解されていないのではないでしょうか。
なお、CK12財団の電子教科書本体は、最近は、PDFからWEB版に中心を移しています。
また、一部の電子教科書本体は、アマゾンでも、無償で配布しています。
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Khan Academy(カーンアカデミー)は個人だけでなく、学校の授業の一部等でも使用されています。
そのため、教材には
練習問題の自動生成機能
採点機能
進捗管理ツール など
指導者や教育者のためのツールも搭載されています。
Khan Academy(カーンアカデミー)の学習は、
講義の視聴
わからないところを質問
演習
という、3つのステップで行われます。
始めに約10分の講義動画を視聴します。
授業内容は、特別な工夫がされているというわけではなく、画面に文字と表・図を使いながら淡々と説明するという内容です。
講義終了後、実際に課題をこなし、設定された基準を満たす正解率を達成するとポイントをゲットできます。
ポイントは、自分のアバター本体の変更やパーツの購入などに使うことができます。
講義ごとに、疑問点を質問できる掲示板が用意されています。
自分が掲示板に書き込んだ内容や、質問に対する返答はマイページの「Disscussion」で確
認することができます。
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引用文献
CK12財団
カーンアカデミー
Khan Academy(カーンアカデミー)とは世界中で600万人が学び、学校教育にも活用されるオンライン学習サービス
https://education-career.jp/magazine/data-report/2016/khanacademy/
MOOCs(ムークス)とは、インターネットを通じて無料で世界中の有名大学の授業を受けられる学習環境
https://education-career.jp/magazine/data-report/2016/moocs/