darktable事始めー最新版version3.2.1用(10)

補足(4)どうしてデジカメはシーン参照ワークフローを採用しないのか

シーン参照ワークフローは優れているにも関わらず、今のところ、カメラ内現像には採用されていません。今回は、この点を補足します。今回は話だけです。操作方法を知りたい人は、読み飛ばしてください。

カメラ内現像は、並列処理の専用ICを使って行います。これは、連射した時の現像に必須の条件になります。

デジタルカメラのセンサーを作っているメーカーは、ソニー、キャノンの他、数社になってしまいました。ICの場合には、量産化しないと価格を抑えられないので、カメラの種類に比べて使われている画像センサーの種類は驚くほど少ないはずです。

同じように、画像処理専用のICの種類も富士通の他、数社で多くないはずです。カメラメーカーは、専用の画像処理エンジンを積んでいるように宣伝しますが、画像センサーが内製できないメーカーが増えている現状では、画像処理専用のICの内製比率は更に低いと思われます。宣伝では各社が専用の画像処理エンジンを積んでいるように表現していますが、実態はOEMの画像処理専用のICをメーカーに合わせてチューニングしていることが多いと思われます。これは、RAWファイルを生成するカメラを購入した場合についてくるパソコンの用の現像ソフトをみれば明らかです。現像ソフトを内製できているメーカーは一部で、半分以上のカメラメーカーはOEMで済ませています。IC内製のハードルはソフト内製のハードルより高いので、画像処理専用のIC内製率は、パソコンのRAW現像ソフトの内製率より低いと思われます。

こうなりますと、シーン参照ワークフローをカメラ内現像で採用するか否かの決定権は、カメラメーカーにはなく、画像処理専用のICメーカーが持っていることになります。ワークフローがICで構成されている場合には、新しいワークフローを採用した画像処理専用ICを作っても、売れないリスクと向き合う必要があります。ICはロット単位で量産するので、売れない場合には、ロット単位で不良在庫が発生して、大きな赤字になることを覚悟する必要があります。

同じようなリスク問題は、iPhoneにもありました。iPhoneもICでできていましたので、最初の発売時に売れなければ、ロット単位の赤字を抱えるリスクを抱えていたわけですが、Appleの場合には、ジョブズがそのリスクをとって、製品化と発売にこぎつけました。

レンズ交換式デジカメの場合、シェアが小さかったソニーは、失うものが少なかったので、リスクを取って早くミラーレスカメラに重点を移しました。一方、ミラー付きカメラが売れていたCanonNIkonは、ミラー付きカメラを捨てるリスクをとらなかったために、ミラーレスカメラに出遅れてしまいました。

同様に、カメラ内現像がシーン参照ワークフローになるためには、カメラメーカーが表示参照ワークフローを捨てるリスクを取る必要があります(注1)。これは失敗すれば、カメラの売り上げがゼロになる可能性を持っています。

台数の売れているカメラメーカーがロットで買うという条件で、シーン参照ワークフローをファームウェアで組み込んだ画像処理専用ICを特注しない限りは、新しいワークフローへの移行は困難と思われます。

スマホメーカーの方が財政的には体力があるので、リスクを取りやすく、カメラ内現像で、先に、シーン参照ワークフローを採用する可能性もあります。もちろん、現在のセンサーでは、ダイナミックレンジが7EV程度なので、そのままでは、シーン参照ワークフローを採用するメリットはありません。しかし、合成でHDR画像をつくればシーン参照ワークフローのメリットが出てきます。その時には、大抵のデジカメは、ダイナミックレンジでもスマホに負けているかもしれません(注2)。

注1:同じ問題を、Lightroomも抱えています。Lab色空間のツールやサイドパーティの製品が増えてしまった現状では、切り替えは非常に困難です。darktableと同じように2つのワークフローを選択できるようにすることは技術的には簡単にできます。しかし、Lightroomを使うメリットは、Lab色空間の今までのノウハウやサイドパーティを含めた膨大なツールにあるのですから、これは自ら、Lightroomの優位性はなくなったと宣言することに等しくなります。ですから、それをすることはないでしょう。

注2:この意味では、今後のカメラ業界で生き残るメーカーは、マルチショットと動画を制したメーカーになると思います。マルチショットについては、規格化がとんでもなく遅れていてかなわないです。ある意味、RAWの規格化がとん挫した辺りから、規格化が遅れてたこつぼ状態になっているとも言えます。