組織学習能力の課題(1)

組織が技術革新に遅れずについていき、新しい技術を使った製品やサービスを提供するためには、組織学習能力が重要です。企業が常に競争力のある製品やサービスを提供し続けるためには、組織の学習能力をどのように維持し、レベルアップするかは重要課題のひとつです。

たとえば、学校教育の目標は、古くは、読み書きそろばんだったのですが、個人が組織で働き、技術革新が進んでいく現代では、組織学習能力を考慮しないこうした教育目標では役に立たないと思われます。つまり、学校教育の目標は、組織学習の能力を考慮したものでなければいけません。

そこで、今回は、望ましい組織学習能力を考えてみます。

まず、組織学習の目的は、新しい製品やサービスを提供することですから、常に、どんな新製品やサービスを提供すべきかを考えるマインドセットを組織の全員が共有する必要があります。これは、教科では「リーダーシップ」です。

  • 組織学習の学習先

次に、組織がどこから学習するかです。なお、組織の学習は、個人がセンサーのように、個別に学習した内容を、組織として深化させることで学習がなりたちますが、まずは、個人の学習を取り上げます。

  1. 既存の製品、サービスがあります。これは、売れている製品やサービスの特徴を研究する方法や、内部構成を研究するリバース・エンジニアリングがあります。

  2. 人間から学ぶ(社内の人間から学ぶ)。専門的な能力は高いのに、言語化の能力の低い人もいます。例えば、有能なシェフが料理本を作れるわけではありません。シェフの行動を観察して、言語化してレシピに落とし込む作業が必要です。こうした、ノウハウは持っているが言語化されていない場合は、原因は社内にあると思われます。

  3. 過去の失敗から学ぶ。失敗学のコンセプトですが、意外に、行われていません。分析結果はレポートなどでまとめます。失敗事例のデータは公開されないので、社内の事例が重要と思われます。

  4. 文献調査や展示会を活用する。これは、目を通すだけではなく、しっかり、理解できていないと力にはなりません。文献というと数枚の論文程度を想定されがちですが、AIなど新分野が起これば、教科書を数冊読破するくらいのボリュームを消化することが必要です。

  5. 教育・研修コースを利用する。上記で、自習ができない場合には、コースを活用します。また、情報が目からでなく、耳から入る人にも有効です。

  6. 共通知識テキストから学ぶ。組織学習は、全員が厚い教科書をマスターする必要はありませんし、名人からヒアリングする必要もありません。基本は分業です。しかし、相互のコミュニケーションには、その中から、共有すべき最低限の知識をまとめておく(共通知識テキスト)必要があります。テキストを作るのは、学習先ではなく、「学習の分担と統合化」ですが、テキストを学ぶことはここに入ります。

  • データを保存し、知識を共有する

学習した内容は記録保存します。知識の共有には記録を検索して参照することと「共通知識テキスト」をつくることの2つがあります。NHKの番組アーカイブのように著作権の問題で、再利用が全くできないこともあります。データの保存範囲と方法、著作権の処理、参照可能範囲の設定、個人情報の取り扱いなどが課題と思われます。

  • 学習の分担と統合化

これは、組織の大きさ、分野の特殊性により、状況が大きく異なります。とはいえ、これがまともに働かないと会社がつぶれてしまうのはIT企業です。ソフトウェアはパーツに分けて開発し、つなぎ合わせて製品にします。販売やデザインは他のグループが担当します。一番シビアな業界で、現在最も支持されているツールはGitHUBなどのバージョン管理と共同開発ツールです。現在の業務をGitHUBに乗せるにはどうしたらよいかを考えるだけで、学習の分担と統合化のヒントは見つかると思います。

  • 組織の大きさ

分業するためには、ある程度の組織の大きさは必須です。小さな組織は、統廃合するか、共通部分をアウトソーシングする必要があります。

  • 業績評価と人事評価

組織学習に参加し、その中で重要な貢献をすることが業績評価(給与)と人事評価(ポスト)に結びつかなければ、上手くいきません。

まとめ

IT化がうまくいっていない組織は多くあります。コロナの集計も依然としてファックスから抜け出せない場合も多いようです。しかし、こうした表面的な問題をモグラタタキしても、組織学習能力の問題としてとらえないと、付け焼刃で、すぐに、元に戻ってしまうと思われます。

次回は、具体的な問題をとりあげてみます。