観察・実験と独立性の補足

前回は、観察について、「出来れば、独立性が望ましい」とだけ、書きましたので、この点を補足しておきます。

因果モデルにおいては、パラメータ間の独立性は、仮説を識別する上で、決定的な意味を持ちます。特に、1原因、1結果モデルにおいては、交絡条件の排除が必須になります。

この制約条件は、仮説作成と仮説検証の2つの段階で必要になります。

前回は、仮説作成過程を観察、仮説検証過程を実験と整理する方法を提案しました。

実験については、マニュアルが準備されていたりして、手法の整理や、標準化が、進んでいますが、観察については、手法の整理や標準化は実験程はすすんでいません。とくに、観察からどうして良質の仮説が導出されるかは、ブラックボックスであると考えられていて、セレンディピティに例えられることもあります。

典型的な実験は、原因の条件がある(with)とない場合(without)を準備して、原因がある場合には、予想された結果が生じ、原因がない場合には、予想された結果が生じないことを示します。このときに、実験では、with/without以外の条件を制御して、差がないように揃えます。

こうすることによって、原因として、疑われる条件をwith/withoutのパラメータに集約します。

ここで、独立性がないとは、with/withoutのパラメータを変更すると、他のパラメータが連動して、動いてしまう場合を指します。

実は、観察においては、一般には、1つのパラメータだけが変化することはなく、複数のパラメータが変化します。これが、「出来れば、独立性が望ましい」と書いた理由です。

逆に、実験で十分な検証をするためには、with/withoutのパラメータ以外は、完全にそろっている必要があります。言い換えれば、実験は、原因となる1つのパラメータ以外は、完全に一致させることができる、あるいは、要因間は独立していて、それぞれを調整することが可能であるという前提の上に成り立っています。要因が、ルービックキューブのように、1か所を変更すると、他も変ってしまうことはないという前提が置かれています。ここでは、こうした点を強調する場合には、「要因間の独立性を前提とした実験」と呼ぶことにします。

この前提が成り立たない分野もあり、その場合に、どのようにして、仮説を検証できるかが、統計学の大きなテーマになっています。ここでは、この点は追及しません。

次に、実験によって検証された科学的な知識は、そのままでは、まったく有益性はありません。科学的な知識を有益性を生むように活用する必要があります。科学の応用の問題です。この応用においては、設計(design)によってモノを作り出すことになります。より、経済学的に正確にのべるのであれば、モノとサービスを作り出すことにになります。

この場合、設計に、実験で検証された科学的知識が用いられる場合には、設計にも、「独立性の前提」が伝播してしまいます。次回にこの問題を考えます。