日本の産業の競争力の課題

ベーシックインカム政策の収束性

オリンパスがカメラ部門を売却する第1の原因は、売り上げの減少にあるといわれていますが、直接的には、高コスト体質で、黒字化が出来なかった点にあります。売り上げが減少しても黒字であれば、事業継続は可能だったはずです。もちろん、もっと大きな黒字部門があり、そこに、人材を集中するために、黒字部門でも利益率の低い部分からは撤退する戦略もありますが、それは、人手不足の場合の選択肢で、オリンパスには該当しないと思われます。

コロナウィルスの影響で、売り上げが低下している企業は沢山あるので、オリンパスのカメラ部門と同じように、撤退を検討している企業も多いと思われます。

日本のカメラメーカーは、コロナウィルスの影響で、カメラとレンズの売り上げが落ちて、赤字の企業が続出しています。ここで、カメラメーカーを日本の企業の1つのタイプの典型例と考えてみます。これは製品輸出型の企業で、現在は苦境にありますが、自動車メーカーほどではないにしても、家電メーカーに比べれば、国際競争力は高い方と思われます。

日本のカメラは、基本的には、海外工場生産です。キャノンは国内生産の比率が高いと思われますが、その場合は、ロボット工場での生産を目指していますので、海外工場と同じように、製品製造にともなう国内での雇用は生まれません。オリンパスの場合には、ベトナムで生産しているようです。

これは、筆者の推測ですが、つまり、次のような構造問題があるのではないでしょうか。カメラとレンズはもともと、日本国内生産でした。しかし、生産拠点を海外に移すと、過剰な雇用が発生します。しかし、年功序列では、倒産の危機に面しないと、過剰な雇用を吐き出すことができません。そうすると、海外生産にシフトしたにも関わらず、製品価格を大幅には下げられません。しかし、これでは、安くて性能のいい製品という汎用品市場では、国際競争力がありません。一方では、雇用安定のためのコストを企業が負担することになり、経営上は決定的に不利になります。企業内では、少数の稼げる人が稼げない人の給与を払っているような構造になります。しかし、そうなると、お金を稼げる人は、他の企業に行ってしまいます。というわけで、現在は、年功序列は完全に崩壊しています。

問題は、今まで比較的簡単な仕事でも稼げたのですが、今後そうした単純な仕事は減少し、賃金の上昇も見込まれないことです。現時点では、単純な労働は、賃金が安い非正規の仕事に集中しています。この部分の労働をどのようにするかが、労働市場設計のポイントになります。そして、単純な労働が企業内に存在する場合でも、正規社員として雇用している人には高い賃金を払い続けています。正規雇用と非正規雇用の賃金は約2倍違います。企業からすれば、正規社員が、非正規雇用と同じ仕事をしていて、給与を非正規社員の倍払っているのであれば、できれば、正規社員の給与を半分まで下げたいと思っているはずです。

この点を考えると、年功序列を守らなくとも、裁判で負けることがなく、非正規と同じ仕事をしている正規社員をレイオフにできれば、差額が企業の収益になります。かりに、ベーシックインカムが実現した場合に、企業がレイオフを簡単にでき、企業がベーシックインカムに伴ういくらかの負担が増えても、それよりも、雇用の流動化による利益がはるかに大きければ、企業はベーシックインカムを推進するはずです。

つまり、企業の収益の点で見ると、労働市場の流動化とベーシックインカムの2つのベクトルの間には、収束点が見いだせる可能性があります。

企業が、ベーシックインカムの導入は収益性を確実に上げると判断すれば、思ったより簡単に、そちらに社会がなびくと思われます。