アメリカと中国が似てきた理由(7)~コロナウィルスのデータサイエンス(87)

補足1:教育の課題

ここで、書いているような、将来の産業構造がどうなるかという議論は、不毛な議論であると感じる人も多いと思われます。

将来の産業構造が予測可能であれば、株式投資に成功することも難しくないので、そもそも、予測不可能なのだからやめておいた方が良いという意見もありえます。

しかし、教育は、本来は将来必要となる資質を身につけされるものです。

将来を見る目を失った教育は悲劇です。

たとえは、wikiの「曽野綾子」には以下の記載があります。

中学教科書において必修とされていた二次方程式の解の公式を、作家である自分が「二次方程式を解かなくても生きてこられた」「二次方程式などは社会へ出て何の役にも立たないので、このようなものは追放すべきだ」と発言したことを夫・三浦朱門が紹介している(この後、三浦朱門が教育課程審議会で削除を主張し、現行中学課程で「二次方程式の解の公式」は必修の事項ではなくなった)。

数学者の岡部恒治は、西村和雄編『学力低下が国を滅ぼす』中でこれに異議を唱えている。

また自身もゆとり教育の導入を決定した、中曽根政権における臨時教育審議会(臨教審)のメンバーを務めた。

ここには、教育は、将来必要になる知恵を提供するという視点が欠如しています。作家として成功するための資質は「今、何がベストセラーになるか」ですので、主張が「今」を中心になるのは、ある意味では、当然ではありますが、この視点をカリキュラムに持ち込めば、量を減らしても、結局、今後不用になる知識を詰め込むことになります。この問題は、曽野綾子さんの問題発言として取り上げられることが多いです。しかし、筆者は、委員会のミッションに対する無理解に問題があると思います。つまり、これは、個人の意見の問題でなく、委員会が、将来の視点を保持できなかったのですから、ミッションが理解できなった委員会の問題です。

これを、現在の「計算論的思考」を教育に取り入れる視点とは隔世の感があります。

とはいえ、現在のカリキュラムには、問題が多くあります。

少なくとも、将来の社会経済を見通して、提供する教育組み替える意思が見られません。

特に、社会経済モデルとの関係で考えれば、最大の課題は、大学教育にあると思われます。

課題1

課題の第1は、世界の大学教育の科学技術重視に流れに取り残されてしまった点にあります。

1990年代には、世界的に大学改革があり、技術系の大学部門が拡充されました。1991年には、香港科学技術大学と南洋理工大学シンガポール)が創設されました。現在、これらの大学の卒業生がIT企業を牽引しています。この時期日本では、少子化に対応すために、大学の大学院化がすすめられます。大学4年間の教育を6年間にすることで、総学生数を確保することで、大学教員の首切りを避ける対策です。この時期には、日本は、雇用維持が最優先で、新たらしい大学を作って、将来の産業に必要な人材を供給するという意識はなかったと思われます。

 

  • 香港科学技術大学(wiki)


1991年に設置された。QS世界大学ランキング2020ではアジア8位 (日本では13位の東京大学が最高)。最新のQS世界大学ランキング2021では世界27位にランク付けられるなど、1991年の創立以来急成長を遂げている国際的に著名な世界トップクラスの研究大学とされている。



1991年に設立されたシンガポールにある国立大学である。QS世界大学ランキング2020年版では世界11位と評価され、シンガポール国立大学とともにシンガポールで双璧をなす名門大学である。


 

課題2

課題の第2は、日本の大学が教育システムではなく、ラベリングシステムでしかなかった点にあります。そして、改善はいまだ、道半ばです。

日本の大学は、退学者が異常に少ないです。いったんに、入学すれば、不祥事でも、引き起こさなければ卒業できます。成績不良で留年した退学する学生もいますが、授業に全く出てこないか、試験が白紙に近い学生に限られます。大学は、入学時の成績のラベリング効果しかなく、企業も、大学教育に役に立つ教育を期待してきませんでした。就職は新規採用一括で、体が丈夫で、精神的にタフであれば、社内教育で、先輩が、後輩を指導して鍛えなおす方式です。初任給は、大学時に成績に関係しませんし、採用時の大学による差別も、指定校による推薦を除けば、ありません。大学の卒業証書さえあれば、年功序列の階段にのることができるのです。

このシステムの結果、大学生は勉強しませんし、高等学校から大学が全入になってしまったので、高校生も、医学部を目指すような職業意識が高い集団以外は勉強しません。現在の大学生多くは、大学の定員を増やす前の高等学校卒業以下のレベルになっています。

この年功序列と結びついた大学教育システムは綻びだしたのでは、2015年頃からです。パナソニックソニー年功序列賃金をやめました。2000年からの20年間で、世界はインフレであったのに、日本だけデフレでした。そのギャップは、円の高いドルレートでバランスが取れていたのですが、円安政策をとった結果、20年間で、日本の賃金は、世界の半分の水準に下がりました。海外採用者にくらべ、国内採用者の賃金は半分になってしまい、優秀な人材は、海外に流れました。その結果、年功序列は維持できなくなりました。新卒一括採用は、年功序列でなければ維持できません。業績給の場合には、採用時に能力を評価する必要があり、企業にとって望ましい採用法は、ドイツなどで使われているインターン方式です。今年になって、経団連インターン方式を採用するといっています。

これ反対するのは、既得利権を守りたいグループで、許認可権で、食べている文部科学省と、食べられないカリキュラムを提供している大学という構図になっています。

ただし、大学の人気と教育内容が食べていけるかは対応していません。自分で、売れるだけのノウハウがある人は、大学にいかなくとも、Kagel,gitHUBなどで、就職活動ができますので、卒業資格は2次的な価値しか持ちません。ぎゃくに、大多数の大学生は、こうした実態を理解しておらず、入学試験が難しくなく、見栄えのするカリキュラムで、簡単に卒業資格が得られる大学を選んでいます。

英語で構わなければ、これだけ、色々な教材が、インターネットで、無料または安価に入手できるので、本当のところ大学の必要性がどれだけあるのか、筆者は最近疑問に思っています。典型的なAIのツールでなあるScikit-learnのモジュールに採用される手法の条件は、発表されてから3年経っていること、関連論文が300本以上あることです。Scikit-learnを使っているグループで問題になっている議論は、Scikit-learnには最新の手法はのっていないので、その分は、自分で補って使う必要があるということです。つまり、3年経った手法は古く、それだけでは置いて行かれるので注意しろという意味です。大学のカリキュラムは、学生の募集前に、募集要項に書きます。大きく変更するのであれば、その前に、文部科学省に届けをします。教育の中心となる3年次のカリキュラムの場合には、カリキュラムを作ってから、3年次の授業までに、5年くらい時間がかかります。卒常時で数えれば、6年かかります。文部科学省は、シラバスを見て、コメントを入れて、修正を求め、修正に応じれば認可されます。これがないと、許認可権限がなくなるためと思います。しかし、まともな教員であれば、シラバス作成後に、よりよい新しい手法があれば、シラバスを変えて授業をすると思いますので、シラバスのチェックは、役人に給与を払う他には、意味のない作業です。文部科学省は、シラバスを変えてはいけない。公式には、認可したシラバス通りに授業すべきであるというでしょうが、それは、それで、世界から取り残されるために税金を投入していることになりますので、恐ろしい話です。

大学では、実際には、英語が読めない学生さんに、資料を日本語に翻訳しているようなケースがおおいと思われますが、これは、専門教育ではなく、高等学校の英語教育の補習をしているだけなので、大学とはいえないと思います。

文部科学省は、このような実態を知っていると思いますが、今のところ、新しいビジョンは出していないので、既得利権を変えたくないといっているように見えます。あるいは、大学の組織改革のような火中の栗を拾うことはせずに、大学が自ら変化するまで、待っているように思われます。しかし、こうした対応が、課題1でのべたような世界的な大学改革に対する遅れを拡大していることも事実と思われます。

課題3

課題の第3は、大学教育に限りませんが、撤退のビジョンの欠如に問題があります。特に、教育は時定数が大きいので、早期にビジョンを作る必要があります。

少子化、高齢化が進む中では、年功序列のように、市場と組織の拡大を前提としたシステムは維持できません。合理的な撤退のビジョンが必要です。最近では、安定した就職先と思われていた銀行も、早期退職をおこなっています。ここには、維持できなくなったので、縮小するという対処療法しかみられません。日本の社会福祉システムが、年功序列を前提とした、会社内社会福祉システムに多くを依存していることはよく知られています。非正規社員などが、このシステムから、あぶれてしまうと、満足な社会福祉サービスを得られません。これは、定年延長で解決できる問題ではありません。ある原因が、結果を生じるまでの時間遅れは、時定数と呼ばれます。少子化対策の時定数は、20から30年ですが、大学教育も、教育を受けた人が、社会の中心になって働くまでには、20年くらいの遅れが生じます。時定数が大きいのです。その点では、少子化が始まる前に、少子化に対応した大学にシステムの変更がなされても早すぎることはありません。しかし、実際には、撤退を避けて、逆に動いてしまいました。撤退と組み替を可能にする社会ビジョンを確立し、大学教育もその中で組み替える必要があります。

 

 

曽野綾子 wiki

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9B%BD%E9%87%8E%E7%B6%BE%E5%AD%90

香港科学技術大学 wiki

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A6%99%E6%B8%AF%E7%A7%91%E6%8A%80%E5%A4%A7%E5%AD%A6

南洋理工大学 wiki

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%97%E6%B4%8B%E7%90%86%E5%B7%A5%E5%A4%A7%E5%AD%A6