リープフロッグは可能か~2030年のヒストリアンとビジョナリスト

(リープフロッグで、日本が、デジタルシフトに飛躍する可能性はありますが、ジョブ型雇用の実現が鍵になっています)

 

日本は、(1)経験的証拠、(2)科学理論、(3)計算科学、(4)データサイエンスのうち、まだ、(1)経験的証拠のレベルが多くあります。

 

(3)計算科学は特殊なので、除外すると、次のレベルになります。

 

(1)経験的証拠、(2)科学理論、(4)データサイエンス

 

デジタルシフトは、(4)のレベルです。

 

順当に進めば、(1)ー>(2)ー>(4)のステップを踏むことになります。

 

要するに、日本はとんでもなく遅れています。

 

野口悠紀雄氏は、後発の経済が、ステップをとびこす(リープフロッグ)ことで、先行の経済を追い抜くことがあると言います。

 

つまり、(1)ー>(4)のパラダイムシフトができれば、日本は、デジタルシフトの遅れを一気に、取り戻すことができるはずです。

 

これは、現在の教育の(2)科学理論の部分は、不十分で(1)経験的証拠が跋扈する悲惨な状態にある訳ですが、その場合に、(2)科学理論を教育カリキュラムに入れなおすのではなく、(4)データサイエンスに、カリキュラムの中心を置き換える方法です。

 

カリキュラムの入れ替えは、教科や教師の入れ替えでもあります。

現在の教科を(1)(2)(4)のどのパラダイムに対応しているかを判断すれば、(4)は、ほとんどなく、(1)と(2)が、主流でしょう。それでは、デジタルシフトはできそうにありません。

 

大学の博士課程の就職が悪い。だから、博士課程進学希望者が減っているといいます。

日本と欧米と比べて、日本の博士課程進学率が低いのが問題であるという人がいます。

しかし、そこには、何のために進学するのかという視点、ビジョンが抜けています。数字を並べて比較するヒストリアンの手法です。

 

デジタルシフトした社会では、(4)データサイエンスのスキルのある人材がないと企業は立ち行かなくなります。(4)のパラダイムの博士課程卒業生は、就職に困っていないと思われます。実際に、優秀な学生であれば、日本企業が採用しなくとも、Googleなどの外国企業が採用します。(1)と(2)のパラダイムの博士課程卒業生は、就職が難しいと思います。なぜなら、そのスキルは企業の役に立たないからです。

 

デジタルシフトは、経済活動を変えてしまいました。(4)がない時代であれば、企業が外国語の情報を利用するためには、その外国語のスキルのある人材を雇用する必要がありました。現在は、自動翻訳機をつかう、自動翻訳機を作れる人材を使うなど、選択の幅が拡がりました。その結果、外国語のスキルのある人材の市場は、縮小しています。

 

特異的な外国語は英語です。現在は、全ての情報は英語に変換されます。英語ができないことは、情報にアクセスできないことを意味するようになりました。ドイツ語やフランス語の情報は、英語に変換されているか、自動翻訳で変換できます。自動翻訳には問題はありますが、何が書いているのか判断するレベルであれば十分な精度があります。

 

昔からある議論に、漢文が必要かというものがあります。中途半端な漢文を教えるより、中国語を教えるべきであるという議論です。漢文は面白いですし、履修したい学生が履修することはかまわないと思います。しかし、これは、(1)のパラダイムの教科のように思われます。ジョブ型雇用であれば、(4)のパラダイムのプログラミングをならった方が、生涯賃金は高くなるはずです。

 

リープフロッグを行うということは、このような、大胆な組み換えを行うことに他なりません。

 

1かゼロかではなく、市場経済に合わせて、カリキュラムが変動するようにできれば、こうした変動は自然に起こります。

 

2022/02/13の現代ビジネスで、野口悠紀雄氏は、「東京大学のコンピュータ科学の定員は農学部の4分の1にすぎない。 農学部の定員が多すぎることが、日本でIT革命が起こらない原因の一つである」と主張しています。

 

「リープフロッグ」の著者としては、当然の発言だと思われます。

 

問題は、指摘された農学部の教員自身も、状況は把握しているが、変え方がわからない点にあります。

 

農学部で、バイオインフォマティクスなど、(4)カテゴリーの内容を担当している教員もいますが、1割以下です。9割は、(1)と(2)に属しています。

 

欧米では、大学も企業もジョブ型雇用ですから、変わる仕組みが内蔵されています。

 

日本の大学は、年功型ですから、教員は自ら変えることはできない仕組みになっています。

 

企業も、年功型雇用で、専門に関係なく、東大卒であれば、採用するところがあるので、学生も、カリキュラムの内容に、神経質になりません。少なくとも、カリキュラムで生涯賃金が大きく変わると考えている学生は少ないと思います。

 

ここでの結論には、飛躍があるので、他の可能性も考えられますが、筆者は、リープフロッグ実現の鍵は、ジョブ型雇用であると考えています。

 

引用文献

 

東大が19世紀の大学では、日本でIT革命が起こるはずはない 2022/02/13 現代ビジネス 野口悠紀雄

 

野口悠紀雄 リープフロッグ 逆転勝ちの経済学 2020/12 文春新書