コロナウィルスの危機管理がどうしてうまくできないのか
コロナウィルスの特別措置法が国会に再び提案されたようです。
提案の内容は、非常事態宣言が出されるまえでも、営業自粛を可能にするようです。
これで、
-
非常事態宣言下の営業自粛
-
非常事態宣言前の国による営業自粛
-
都道府県知事による「緊急事態行動」
の3種類ができてしまいます。
また、年明け以来、首相が頻繁に会見を開くのも、インパクトが低下します。
これは、オオカミ少年の効果が、有効になる条件です。
認知科学でみれば、認知バイアスが生ずる条件を次々に作っています。
対策を小出しにすれば、「オオカミ少年の効果」で、対策が特別だと認識できなくなるので、行動自粛ができなくなります。
マシュマロ実験でも知られているように、現在の欲求を我慢するには、
-
対象から目を離すこと
-
我慢したあとの将来の成功をイメージすること
の2点が必須です。
Go To事業は、1.を、完全に破壊してしまいました。
また、対策を小出しにすると、2.が見えなくなります。2.を実現するには、ワクチンの接種計画を明示して、そこまで、どのレベルに抑えると目標を明確に出す必要があります。
ところで、ここで、演繹法を問題にしたい理由は、演繹法で思考できるかどうかは、認知科学の問題で、脳の使いかたの問題だからです。
-
日本経済の失われた20年が30年になりつつある
-
コロナウィルスに対する危機管理計画が立てられない
-
高齢化・少子化対策ができない
-
etc.
これらの原因は、共通していて、脳の使い方が帰納的アプローチにとどまっているから起きていると思います。つまり、現れる事象は多様ですが、原因は、同じであると思います。対比でものを考えることは、間違いのもとになりやすいのですが、今回は、認知の問題なので、表1に、アプローチの違いを対比してみました。
この2つのアプローチの差は大きいです。
1990年頃に、日本経済が先進国に追いついて、「これからは、発展途上国に追われる時代になる。コピーではなくオリジナルな製品のつくれる独創性を生み出すことが必要だ。」と考えられました。それは、ゆとり教育になったり、企業の研究所建設ラッシュになりますが、結局、失われた30年になって、ゆとり教育は失敗し、企業は研究所を閉鎖します。この状況を振り返って、演繹的アプローチの重要性を主張しても、また、失敗を繰り返すだけだという反論が聞こえそうです。
しかし、認知科学や脳科学の進歩は、その違いを明確にしています。おそらく、1990年代に、コピー戦略がうまくいかなくなった時に、経営者は、新しい研究所を作って、今までの数倍(おそらく3から4倍)の時間、費用をかければ、独創的な新製品が出て、技術革新が可能になると考えたと想像します。あるいは、ゆとり教育を導入して、詰込みをやめて、教える内容を時間当たり半分に厳選すれば、独創性が育つと思ったのではないでしょうか。認知科学は、そうした夢を打ち砕きます。スロー回路は、ファスト回路の10倍は時間がかかります。企業の研究所で、演繹をして、複数の提案を相互に戦わせて、選別をする時間まで考えると、研究成果が独創的な製品になるまでには、コピー戦略の50倍くらいの時間がかかります。ゆとり教育も同じで、10倍、20倍時間をかけてじっくり理解することができないと、スロー回路は、作動しません。スロー回路が作動しても、落ちこぼれない条件は、ファスト回路の性能が良くて、時間的余裕が十分にある場合に限られます。これが、カリキュラムを厳選しても、効果がなかった理由です。独創性の高い人は、普通の課題は難なく解けることが多いのです。どうしても、スロー回路をつかうのであれば、カリキュラムをファスト回路向けとスロー回路向けに分けて、スロー回路向けのカリキュラムは、少なくとも1/20以下に厳選しないと無理です。それでも、誰もができるわけではないと思います。
コロナ対策がうまくできないのは、偶然ではありません。脳の使い方のクセの問題です。コロナでも、10倍以上時間をかけて、じっくり対策をねることができないと、危機を予測した管理はできません。ミーティングしていても、ファスト回路だけしか動きませんので、解決はできません。ただし、脳の使い方のクセを、直すのは容易ではありません。
-
マシュマロ実験
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%83%9E%E3%83%AD%E5%AE%9F%E9%A8%93
表1 帰納的アプローチと演繹的アプローチの対比
項目 | 帰納的アプローチ | 演繹的アプローチ |
---|---|---|
思考モデル | 事例主義 | 計算論的思考 |
・データ | 紙媒体 | デジタル化・共通化・共有化 |
・アルゴリズム | 事例ベース | モジュール化・再利用可能 |
統計的思考 | 事例のみ | ベイズ統計 |
因果モデル | 1原因1結果主義 | 統計的因果モデル |
危機管理 | 事後処理 | 予防対策 |
問題解決 | 発生後処理 | 対策シナリオ作成 |
業績評価の目的 | 順位付け | 問題点発掘 |
業績評価の方法 | 獲得予算・論文本数 | 新問題解決法の提案 |
技術開発 | コピー・改善 | 独自主義 |
アウトソーシング | 外製・効率重視 | 内製が基本・長期評価 |
事業提案 | 前例主義・改善主義 | 新規提案 |
エコシステム | エコシステムの維持 | エコシステムの交代 |
パラダイム | パラダイム維持 | パラダイム交代 |
ハード・ソフト | ハード中心 | ソフト中心 |
カーネマン | ファスト回路 | スロー回路 |
組織マネジメント | トップダウン | リーダーシップ |
人事管理 | 年功序列 | 業績(提案)主義 |
事例研究 | ケーススタディ | ケースメソッド |