IFRについての知見~コロナウィルスのデータサイエンス(85)

IFRの重要性

抗体検査で、免疫の獲得率の推定が行われています。

最終的に、集団免疫を獲得するか、ワクチンで免疫を与えるかのいずれかが、出口と思われていますが、この場合には、感染率は意味がある数字ではありません。感染を抑えるのではなく、死亡を抑えることが重要になります。死亡率の計算には次の2種類があります。

  • 感染者死亡率(IFR)は、感染者の総数から算出した死亡率

  • 症例死亡率(CFR)は病院や診療所を訪れて感染が確認された人の数から算出した死亡率

  • CFR>IFR

問題は、IFRになります。もちろん、IFRには感染者数の推定が必須であり、それが、今回のコロナウィルスでは難しいことが問題を複雑にしています。

IFRについてのの知見

6月16日のNature NEWSに「How deadly is the coronavirus? Scientists are close to an answer(コロナウイルスはどのくらい致命的か? 科学者は答えに近づきつつある)」という記事が出ていました。

IFRについての最新の知見の要約なので、ポイントを見ておきます。

 

  • 多くの国では、COVID-19の1,000人ごとに5〜10人(0.5〜1%程度に収束傾向)が死亡すると推定

  • 初期の分析の結果は約0.9%で推移し、より広い範囲は0.4–3.6%

  • Verityのモデリングでは、中国の全体的なIFR0.7%を推定、60歳以上はIFR3.3%。(注:グラフの0.6%にはあっていない)

  • ラッセルは、2月上旬に Diamond Princessクルーズ船データから中国のIFR 0.6%を推定。

  • 抗体検査は、世界中で約120件の血清有病率調査が実施

  • 初期の研究で、ドイツの町ガンゲルトの919人をテストの結果、COVID-19感染差者数の5倍の約15.5%に抗体があった。この数値から、IFR0.28%が推定された。しかし、サンプルの偏りから、感染者の総数の推定値が膨らみ、IFRが低下したリスクがある。

  • medRxivに投稿された1つの調査では、ブラジル全土で25,000人を超える人々がIFRを1%と推定。

  • スペイン全体で60,000人以上をテストした別の調査では、有病率は5%と報告。その結果に基づいて、VerityはスペインのIFRが約1%であると推定。

  • 掲載グラフのポイントは以下です。

    中国1*1 :0.6%(IFR)

    中国2*2 :0.66%

    フランス*2 :0.7%

    ブラジル*3 :1%

    スペイン3 :1%

    *1;自然実験に基づく推定

    *2;モデルによる推定

    *3;感染拡大データによる

 

RussellやVerityらの研究者は、IFRを0.5〜1%の範囲で推定とまとめ。しかし、他の科学者たちは合意の提案に慎重。

抗体検査データのほとんどが科学的原稿で公開されておらず、感染して死ぬ人々の間の遅延を説明するIFRを適切に計算することは難しい。

スイスのジュネーブの抗体検査は、総人口のIFRは0.6%、65歳以上の人のIFRは5.6%と推定。(注:レンジが狭すぎるという反論データ)

日本のIFR

日本のIFRは、2月4日の西浦論文で、武漢からチャーター便で日本に帰国した565名の日本人が全員PCR検査の感染確認率から、武漢における感染者の総数を推定して、IFR0.3~0.6%を推定。

なお、西浦モデルのIFRは次のように設定されている。なので、IFR推定が違っていれば、モデルの信頼度は低い。なお、ここで見るように、現時点では、IFR推定が妥当である可能性は低い。


感染者のうち、死亡する者の確率を意味する致死率(IFR:Infection Fatality Risk)は、小児では死亡者数が世界でも少なくて精密に分からないのでゼロとしており(後日インペリアル・カレッジ・ロンドンの研究グループの発表で未成年は0.002~0.007%程度と推定)、筆者らが推定した感染者全体のIFRが0.3~0.6%で、上記インペリアル・カレッジの発表で高齢者の死亡リスクが生産年齢人口のそれの5~8倍という根拠に基づき、生産年齢人口が0.15%、高齢者は1.00%とした。


日本の国内の感染死亡者に対するIFRは、現在検索中です。

 

まとめ

IFRはおそらく、コロナウィルスの管理ではもっとも重要な指標である。

ただし、感染者数の推定が難しく、公表された推定値は少ない。

IFRのレンジは0.4–3.6%で、中心のレンジは、0.5〜1%である。

IFRは治療などにより変化し、医療崩壊がおこれば、当然高くなる。

日本で、0.7%を超えていることはなさそうに見えます。

 

6月17日時点で、死亡者数/感染者数=CFRを求めると、

CFR=935/17689=5.28%

計算上は、推定総感染者数=感染者数×CFR/IFR

これは、データの信頼度からいえば、卵が先か、鶏が先かの問題を含んでいるので一種の禁じ手ではないかと思うが、実際の感染者数が多いことは間違いないと思われます。

抗体検査の結果が出てきたので、日本国内のIFRの推定値が出てくることを期待したいと思います。

引用

  • How deadly is the coronavirus? Scientists are close to an answer

Nature NEWS 16 June 2020

https://www.nature.com/articles/d41586-020-01738-2

 

  • Nishiura et.al.:The Rate of Underascertainment of Novel Coronavirus (2019-nCoV) Infection: Estimation Using Japanese Passengers Data on Evacuation Flights

https://www.mdpi.com/2077-0383/9/2/419

  • 【特別寄稿】「8割おじさん」の数理モデルとその根拠──西浦博・北大教授

ニューズウィーク 2020年6月11日(木)17時00分 西浦博(北海道大学大学院医学研究院教授)

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/06/8-39_4.php