コロナウィルスのデータサイエンス(その26)

緊急事態宣言の効果

首相の発言の要旨

HUFFPOSTによる首相発言の要約の一部を引用します。

タイムラグの仮定

陽性の人の要観察期間は2週間なので、2週間のタイムラグがあると考えていましたが、10から14日のようで、どちらを仮定するかで計算がことなってきます。10日の方がすぐに効果が出るので、危険側の推定が、10日、安全側の推定が14日と考えるべきです。ただし、この2つの数字は混乱して用いられています。都合の良い危険側の解釈には問題があります。

増加率の計算

5日で2倍という数字が出ていますが、これは4月1日の「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」のすうじと思われます。

14日の場合

5日の2倍の増加率で、約2週間後15日後の値は、2x2x2=8倍になります。

現在の感染者数を概算で100人とすると、800人/日になります。

タイムラグが2週間あるので、東京都の患者数は2週間後までは、緊急事態宣言の効果はあらわれません。

ですから、仮に、効果があっても、東京都の場合には800人/日でピークになり、それから減少することになります。「800名規模で軽症者を受け入れる」では、パンクします。「ホテルなどの協力を得て関東で1万室」ならまにあうでしょうか。

10日の場合

5日の2倍の増加率で、10日後の値は、2x2=4倍になります。

現在の感染者数を概算で100人とすると、400人/日になります。

タイムラグが10日あるので、東京都の患者数は2週間後までは、緊急事態宣言の効果はあらわれません。

ですから、仮に、効果があっても、東京都の場合には400人/日でピークになり、それから減少することになります。9日目も300人は超えていますので、「800名規模で軽症者を受け入れる」では、やはり、パンクします。「ホテルなどの協力を得て関東で1万室」ならまにあうでしょうか。

ピークアウトの計算1

14日の場合

「2週間後には感染者の増加をピークアウトさせ、減少に転じさせる」とありますが、この表現は、効果の発現は最短でも2週間後であるという意味と思われます。「このペースで感染拡大が続けば、2週間後には1万人」というのは、対策をしなけれは、2週間後は1万人になるという意味です。おそらく、対策をすることで、ピークアウトが1万人以下になるといいたいのであろうと思われますが、この2つの表現は矛盾していて相容れません。

10日の場合

「2週間後には感染者の増加をピークアウトさせ、減少に転じさせる」とありますが、この表現は、効果の発現が10日であれば、10日後になると思います。「このペースで感染拡大が続けば、2週間後には1万人」というのは、対策をしなけれは、2週間後は1万人になるという意味です。おそらく、対策をすることで、ピークアウトが1万人以下になるといいたいのであろうと思われますが、その時期は2週間後ではなく、10日に近いはずです。


HUFFPOST

政治 2020年04月07日 19時56分 JST | 更新 12分前 緊急事態宣言の7都府県「仕事は原則自宅で」。安倍首相が会見

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最も感染者が多い東京都では政府として、今月中を目途に五輪関係施設を改修し800名規模で軽症者を受け入れる施設を整備する予定です。

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事態は切迫しています。東京都では感染者の累計が1000人を超えました。足元では5日(間)で2倍になるペースで感染者が増加を続けており、このペースで感染拡大が続けば、2週間後には1万人、1カ月後には8万人を超えることとなります。しかし専門家の試算では、私たち全員が努力を重ね、人と人との接触機会を最低7割、極力8割削減することができれば、2週間後には感染者の増加をピークアウトさせ、減少に転じさせることができます。

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https://www.huffingtonpost.jp/entry/work_jp_5e8c5a51c5b62459a92ee296


つぎは、日本経済新聞です。


日本経済新聞

いまのペースで感染拡大が続けば感染者が2週間後に1万人、1カ月後には8万人を超えるとの見通しを示した。「緊急事態を1カ月で脱出するには人と人との接触を7割、8割減らすことが前提だ」と協力を求めた。

ホテルなどの協力を得て関東で1万室、関西で3千室を確保したと話した。感染拡大防止策を講じ、保育所学童保育は規模を縮小して開くと説明した。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO57766680X00C20A4MM8000/


 

ピークアウトの計算2

首相の数字の出典は、 西浦先生の資料と思われるので、それをチェックしてみます。

これは、東京都についての試算と思われます。

文章だけでなく資料の中の図も参考に要点をまとめると以下になります。

対策が発現するまでのタイムラグは10から14日と想定する。

仮に、人と人との接触機会を8割削減できた場合でも(7割は資料にはありません、これが最良シナリオです)ピークアウト時の推定感染者数は、6000人/日になる。

対策をした場合としなかった場合(人と人との接触機会を2割削減)のピークアウトの比較は、タイムラグが10日であれば、10日後、14日であれば14日後に発生する。ただし、グラフの0日の日付がわからないので、詳しいことは図からはよみとれません。

ここで、大切なことは、仮に、対策が効果を発現しても、東京都で、1日6000人になれば、「ホテルなどの協力を得て関東で1万室」では間に合いません。

計算2は計算1よりも大きな増加率を見込んでいます。

 


日本経済新聞「欧米に近い外出制限を」 北大教授、感染者試算で提言 西浦博氏 2020/4/3 11:07 (2020/4/3 12:12更新)

8割程度減らすことができれば、潜伏期間などを踏まえ、10日~2週間後に1日数千人をピークに急激に減少させることができる

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO57610560T00C20A4MM0000/


新規感染者と累加感染者

西浦先生の感染者は新規感染者で、累加ではありません。

日本経済新聞の首相発言の要旨では、「いまのペースで感染拡大が続けば感染者が2週間後に1万人、1カ月後には8万人を超えるとの見通しを示した。」この点が累加にも読めます。HUFFPOSTは、明示していませんが、前後からすれば、累加ではないと思われます。

結局、発言者である首相が、正確に理解していない発言を行い、マスコミがエラーの伝言ゲームをしている状態です。

行動制限の効果

今までの行動制限の効果について、最も信頼できるデータは

COVID-19 Community Mobility Reports

https://www.google.com/covid19/mobility/

です。

これからは、今までの行動制限は、効果が少ないことがわかります。また、このデータは都道府県別になっています。

海外からは、今回の「緊急事態宣言」にたいして、効果を疑問視する報道がなされていますが、これは、数字の根拠うが不明である、Googoleなどのデータ分析を使っていない点にあると思われます。

まとめ

効果の評価の前提となるデータが明示されていません。

また、効果の測定方法が明示されていません。

今の状態は、「緊急事態宣言」が混乱を助長してるだけです。

 

このままいきますと、データサイエンスのリテラシーの欠如が致命的なダメージを生ずる可能性が高いです。