ミームの研究(6)効率的市場仮説

(効率的市場仮説をミームから考えます)

 

1)効率的市場仮説の基本

 

効率的市場仮説は、スミスの市場経済が成り立っているという要請です。

 

連続関数を微分すると微係数がゼロの均衡点で、最大または最小(正確には極大または極小)値がえられます。

 

縦軸の値は、販売に伴う便益、購入に伴う便益、生産性などいろいろ考えられます。

 

この場合の市場は、個別の商品の市場です。

 

市場群に対する均衡点が、個別の市場の均衡点とは一致しない可能性がありますが、詳細な分析は行なわれていません。

 

それよりも、市場均衡が成立しない場合の問題を優先しています。

 

市場均衡点は、需要または供給の変動によって、移動します。

 

効率的市場仮説は、市場は均衡点にあることを主張するのではなく、均衡点の周辺を変動すると考えます。

 

これは、数学的には、曖昧な定義です。また、変動の予測モデルは作られていると思いますが、十分よい予測モデルを得るには、至っていません。力学の加速度(力)に相当する概念は不明確です。

 

ケインズは、アニマルスピリッツを、加速度に相当する変量であると考えていたようですが、アニマルスピリッツの計測は困難です。

 

市場原理(効率的市場仮説)は要請であって、成り立たない場合があります。

 

独占の場合、市場価値の評価が困難な自然資本の場合などがあります。

 

効率的市場仮説が成り立たないと、便益最大の均衡点が求められなくなるので、経済学が成りたたなくなります。経済学の計算が出来なくなります。

 

微分の最大値は均衡点(微係数がゼロ)にあります。

 

これから、市場均衡点を外れれば、経済効率が落ちることがわかります。

 

この場合の経済効率の用語は曖昧です。

 

鉄道マニアは、列車の型番のコレクターです。

 

同様に、経済学者は、経済学説のコレクターです。

 

ここで、行なっている議論は、経済学の背景にある考え方であり、経済学説を無視していますので、経済学者には受け入れられないと思います。

 

微分微分方程式から、経済学を見れば、このように見えると言っているだけです。

 

市場均衡点を外れれば、経済効率が落ちますので、そのような政策は、長続きしないか、破綻します。

 

アルゼンチンやブラジルでは過去に、効率的市場仮説を無視して、貧困層への現金配布政策をおこない、ハイパーインフレによる経済の破綻を繰り返しています。

 

効率的市場仮説を無視すれば、経済成長が出来なくなり、貧困が蔓延するので、政治家と有権者が、微分を理解していれば、効率的市場仮説を無視することはありません。

 

2)経済学のミーム

 

ミームのモデルは、人間の意思決定はミームに支配されているという仮説です。

 

効率的市場仮説をミームに変換すれば、微分が理解できている経済的合理性(科学)のミーム支配下にある人間は経済的に合理的な意思決定をします。そこでは、効率的市場仮説が成り立ちます。

 

貧困層への現金配布政策を行なった国では、経済的合理性(科学)のミームは有効ではありませんでした。

 

その場合のミームを以下では、経済的合理性のミームと区別して、利権のミームと呼ぶことにします。

 

利権のミームの特徴は、建前では、貧困層の解消を提唱し、本音では、利権に伴う中抜き経済で利益をあげることです。

 

このため利権のミームでは汚職がなくなることはありません。

 

建前でも、本音でも、貧困層の解消を行なうミームは、経済的合理性(科学)のミームであり、効率的市場仮説です。

 

効率的市場仮説では、貧困対策は、市場を実現するために必要な費用として位置づけられます。

 

労働市場が成立するためには、能力を最大限に伸ばした労働者が労働市場に参入することが必要です。そのためには、公教育を税負担で行なうことが合理的になります。

 

貧困対策も、労働者が労働市場に参入できない程、生活に困らないための条件になります。

 

効率的市場仮説の貧困対策は、労働者の能力を伸ばして、最大の経済効率をあげるための方策です。

 

これは、人権思想に対応しています。人権思想は、チャンスの平等性を提唱し、結果の平等性を否定しています。

 

GAFAMが、外国人の高度人材に門戸を開いているのは、経済的合理性(科学)のミームで経営しているからです。

 

外国人の高度人材に門戸を開いていていない日本企業の経営が、経済的合理性(科学)のミームで経営されている可能性は低いです。

 

マルクスは、建前では、貧困層の解消を提唱し、本音でも、貧困層の解消を行なうミームが、共産主義ミームであると、主張しました。

 

資本論には、微分は出てきませんので、マルクスは、微分の最大値は均衡点(微係数がゼロ)にあることが理解できていなかったと思われます。

 

結果の平等性を優先すると何が起きるかは、微分方程式を数値的に解いてみればわかります。

 

ちなみに、微分方程式の数値解が簡単に求められるようになったのは、PCが普及した1995年以降のことです。

 

森嶋通夫氏は、マルクス経済学の数量化を試みていますが、筆者には、無理筋に見えます。

 

まとめると経済学のミームには、経済的合理性(科学)のミームと利権のミームがあります。

 

効率的市場仮説が中心の経済学では、利権のミームが取り上げられることは少ないですが、貧困層への現金配布政策でハイパーインフレになっている国があることを考えれば、利権のミームの存在は否定できません。

 

3)政策選択

 

パースは、「ブリーフの固定化法」で、政策決定のようなブリーフの固定化法には、科学の方法(経済的合理性)以外に、固執の方法、権威の方法、形而上学の3つの方法があると指摘しました。

 

固執の方法、権威の方法、形而上学」は、利権のミームに対応します。

 

経済的合理性が最も強くあてはまる事例は、株式市場と思われます。

 

証券会社は、大枠の経営以外では、ボットを使って、自動で、株の売買を行なっています。

 

簡単な案件は、人間が行なうより、ITを使った方法が、経済合理性が高いと言えます。

 

証券会社も30年前には、ボットを使っていませんでしたので、人間が行なうより、ITを使った方法が、経済合理性が高くなったのは、比較的最近のことです。

 

政策選択が、科学の方法(経済的合理性)に基づくのであれば、国会でも、ボットをつかって、政策立案をしているはずです。

 

司法が、科学の方法(経済的合理性)に基づくのであれば、裁判所でも、ボットをつかって、判決を出しているはずです。

 

そうなっていませんので、立法と司法では、科学の方法が使われていないことがわかります。

 

政策選択に、経済的合理性は、あまり、期待できません。



4)経済政策

 

効率的市場仮説に基づけば、経済政策(金融政策)の基本は、市場原理を確保して、経済効率をあげることです。

 

独占や寡占があれば、それを排除して、市場原理を確保する必要があります。

 

効率的市場仮説は、市場は均衡点にあることを主張するのではなく、均衡点の周辺を変動すると考えます。

 

このアイデアに基づけば、市場が均衡点からずれていれば、経済政策によって、市場が均衡点に復帰するまでの時間を短縮できるかもしれません。

 

一方、経済政策によって、均衡点を移動させることができるという主張には、根拠がありません。

 

ケインズが、加速度に相当する変量であると考えたアニマルスピリッツは解明されていません。

 

効率的市場仮説には、加速度項(アニマルスピリッツ)は入っていません。

 

アルゼンチンやブラジルでは過去に、効率的市場仮説を無視して、貧困層への現金配布政策をおこない、ハイパーインフレによる経済の破綻を繰り返しています。

 

貧困層への現金配布政策が仮に成功した場合には、経済政策によって、均衡点を移動させることができたことになります。

 

この反事実から、効率的市場仮説は、経済政策によって、均衡点を移動させることができないと主張していることがわかります。

 

均衡点は、生産関数と消費関数によって決まります。微分方程式で考えれば、均衡点を移動する方法は、生産性を上げて生産関数を変化させるか、減税によって消費関数を変化させるかの何れかになります。

 

経済学のミームには、経済的合理性(科学)のミームと利権のミームがあるという仮説は、因果モデルになっています。



近代経済学は、効率的市場仮説で出来ているので、経済学者は、経済的合理性(科学)のミームで活動していると思われがちですが、実際には、経済政策によって、均衡点を移動させることができるという利権のミームで活動している人が多くいます。

 

利権のミームで均衡点を移動させることができると考えることは、リカーシブに考えれば、市場原理(効率的市場仮説)を否定していることになるので、自己矛盾の経済政策になりますが、まったく、気にならない人が多いことになります。

 

利権のミームで経済政策を決定すれば、市場経済が破壊され、ものとサービスの過剰と不足が発生して、ハイパーインフレのリスクが高くなります。

 

これに該当する国は、多く見られます。

 

政策決定者と有権者が、微分を理解できていない場合、利権のミームを回避することはかなり困難です。