(中抜き経済を説明します)
1)非市場経済
経済学の基本は、市場経済です。
これは、市場経済が良いか、悪いかという問題ではなく、第1に、経済現象を微分方程式で近似するための前提条件です。
市場経済が成り立たない場合には、経済学のモデルは使えません。
第2に、市場経済が成り立たない場合には、経済データがありません。
2024年現在でも、キューバは社会主義国で、基本的な食料は、配給制です。
この場合には、基本的な食料価格のデータは、存在しません。
市場経済があれば、供給が、需要に追いつかないと価格が上昇するので、時間遅れで、生産(供給)量が増加します。
価格データがないので、供給と需要のバランスを評価するデータが得られません。
社会主義国では、モノの不足と過剰が発生しますが、その状況を定量的に評価できるデータはありません。
社会主義、共産主義は、イデオロギーを示す用語なので、経済現象を記述する用語としては不適切です。
中国では、土地の個人所有はできませんが、使用権の市場があります。
江戸時代の日本では、土地の所有者は大名でした。農地の使用権は、村落に貸与され、村落が管理しました。農地の使用権市場はありませんでした。村落の経営幹部は、耕作放棄地が生じないように土地を百姓の間で、ローテーションしました。山林の一部は、入会地でした。
江戸時代の日本は、社会主義ではありませんが、土地の取引市場がなかった点では、社会主義と共通しています。
イデオロギーをフィルタ―で取り除けば、経済システムを評価する基準は、市場経済か、非市場経済かの2分法が適切であると考えます。
2)利益率
市場原理の特徴は、第1に、需要と供給のバランスが図られ、価格がつくことです。
第2に、利益率が圧縮されることです。
利益率と需給バランスの間には関係がありますが、この部分の理論は貧弱です。
筆者は、その原因は、需要と供給が潜在変数であるためと考えます。
潜在変数を含むモデルは解析的には解けませんので、利用可能なツールが入手できるようになったのは、ベイズ統計問題が解ける今世紀に入ってからです。
経済学の要点は、需要と供給のバランスが崩れていて、均衡状態に復帰する過程にあるのですが、その部分の理論化は出来ていません。
需要が供給に追いつかないと価格が上昇します。
価格が上昇すると利益率が上がります。
利益率があがると、生産者が増えて、供給が増加して、価格が落ち着く(利益率が下がる)と考えられています。
市場原理で、価格が決まるモノは、コモディティと呼ばれます。
コモディティの市場では、品質の差がつかないので、価格が高いと売れません。
コモディティの市場では、利益率が下がり続けますので、DXなどで、継続的に生産性を向上できない企業は倒産して、市場から撤退します。
高度経済成長期と安定経済成長期に、日本企業が輸出を拡大できた理由は、コモディティ市場での優位性にあります。品質が良く、安い製品の製造にあります。
コモディティでないブランド製品には、市場原理が働きません。
ブランドの価格は、需要と供給のバランスの外の非市場原理で動いています。
日本の白物家電は、中国製品との市場競争で敗退しました。
中国製品との市場競争で敗色が濃厚になった時点で、とられた戦略は、ブランド化でした。
ブランド市場の大きさは、コモディティ市場より遥かに小さいので、ブランド化戦略は、メインの市場からの撤退戦略になります。
そもそも日本製品は、良いコモディティとして売れたのであって、ブランドとして売れた訳ではありません。
一般に、ブランド市場の大きさは、コモディティ市場より遥かに小さいのですが、例外があります。
それは、ソフトウェアの市場です。
アップルのiPhoneは、利益率が高いことで知られています。
iPhoneの売り上げは巨大ですが、コモディティ市場にはなっていません。
その理由は、OSとソフトウェアのサービスにあります。
iPhoneは、水平分業で、世界中から部品を調達して、つくっています。
ロットの大きさが小さいと、iPhoneっと同じレベルで安価に部品を調達できないかも知れませんが、iPhoneと同等の部品を調達することは、時間をかければ可能です。
しかし、OSとソフトウェアのサービスを調達することはできません。
市場原理が働くコモディティ市場では、常に、価格競争が起きます。
これに対処するには、継続的に生産性を向上させるしか方法がありません。
国内の工場を海外に移転すれば、人件費が安くなります。しかし、海外工場で生産している競合商品との価格競争に生き残るためには、工場を海外に移して、人件費が下がった分だけ、販売価格を下げる必要があります。つまり、新製品の価格を段階的に下げて、中国製品と同じ価格ランクにする必要があります。
新製品の価格を段階的に下げて、中国製品と同じ価格ランクにしなければ、日本企業は、コモディティ市場から撤退することになります。
日本企業は製品を中国製品と同じ価格ランクにしませんでした。
日本の白物家電のブランドを購入した中国企業は、ブランドの価格ランクを下げて、売り上げをのばしています。
コモディティ市場では、同じ品質の商品は同じ価格になります。
自己満足のオーバースペックな製品をつくっても、ブランドにはなりません。
1994年以降日本の家電メーカーが国際市場から撤退した原因は、コモディティ市場の放棄、つまり、市場原理からの撤退にあります。
市場原理か、非市場原理かという2分法にこだわると、バイナリーバイアスが生じます。
市場原理と非市場原理の境界でビジネスをしている例もあります。
市場原理のお得感があり、品質が少しだけ良いといったブランド戦略です。
非市場原理では、設定した価格でモノがうれると考えます。
つまり、非市場原理で、モノが製造できるためには、市場原理の経済合理性のミームではなく、つくれば、売れるというミームが機能しています。
インフレになって、モノをつくれば売れると考えるミームも同じミームです。
基本的な食料は、つくれば、売れます。
市場原理の経済合理性のミームに対して、つくれば売れるというミームに名前をつけるとしたら、中抜き経済のミームが妥当と考えます。
これは、中抜き経済の利益率は、市場を介さずに決められるというミームです。
1994年以降日本の家電メーカーは、コモディティ市場の放棄、つまり、市場原理から撤退をしました。これは、ブランド品をつくれば売れるというミームが経営を支配したことを意味します。
市場からの撤退は、作っても利益のでる価格で販売できない(利益率の低下)からです。
市場原理の働くコモディティでは、利益は市場が決め、常に、減少し続けます。
1994年以降、日本の企業経営では、市場原理の放棄と中抜き経済の拡大が進みました。
中抜き経済の拡大は、労働生産性の拡大の停止を意味します。
日本経済で、市場原理が放棄され、中抜き経済が拡大した時期は、生産性の推移を見れば、判断できます。
中抜き経済のミームは、政府が経済を制御できるという間違った法度制度のミームの一部です。
中抜き経済のミームにしたがった経営や政策では、経済成長はありえません。