ミームの研究(15)オートパイロットと科学のミーム

(科学の方法のオートパイロットについて説明します)



1)オートパイロット

 

船と飛行機には、目的地を設定すれば、自動運転するオートパイロットがあります。

 

自動車のオートパイロット(自動運転)開発中ですが、障害物が多いため、まだ、完成していません。

 

しかし、カーナビをみれば、オートパイロットに必要な条件がわかります。

 

自動運転では、目的地に到達する精度だけでなく、ルールの選択が問題になります。

 

距離最短、時間最短、費用最短の条件が異なれば、ルートは異なります。

 

データサイエンスでは、このような条件を評価関数にとります。

 

データサイエンスでは、対象とするデータを設定して、評価関数の値が最小または、最大になるアルゴリズムを探索します。

 

たとえば、画像認識の場合には、猫の写真を猫と判定する精度が評価関数になります。

 

この評価関数に対して、学習用の画像データセットと検証(評価関数の値の測定)用のデータセットを準備します。

 

AIは、幾つかのアルゴリズムで構成されたソフトウェアで、プログラムコードから作られます。

 

ソフトウェアは、アルゴリズムによって、データから自動的にパラメータを求めます(学習)。

 

いったん、パラメータが決まれば、そのパラメータをつかって、ソフトウェアは推論をします。

 

ソフトウェアのパラメータ決定(学習)と、そのパラメータを使った推論は、オートパイロットと同じように、全て自動で行います。

 

Aiが期待される機能を実現したか、否かは、評価関数の値で判断します。

 

画像認識の場合には、人間の画像認識の正答率は、95%であることがわかっていますので、AIの正答率が、95%を越えれば、人間以上の性能が実現できたことになります。

 

オートパイロットとAIに共通する点は、データの準備と評価関数の設定です。

 

GPSを使った位置データが利用可能になった結果、オートパイロットが実現できました。

 

GPSのデータが利用可能になる前の自動車の運転には、カーナビはありませんでした。

 

自動車の運転は、紙の地図に基づいて行い、ランドマークや大きな交差点で、一旦停止して、位置を確認していました。

 

その時代には、GPSデータを使って、随時、位置を確認することはできませんでした。



2)経済政策のオートパイロット

 

経済政策を行なう場合、経済データを紙媒体であつめて、集計すると時間遅れが生じます。

 

一昔前のインドの人口統計は、調査を始めてから、集計が終るまでに3年かかっていました。

 

この場合には、経済政策にオートパイロットを使うことはできません。

 

エストニアでは、殆どのデータは、リアルタイムで、入手が可能です。

 

この場合には、経済政策にオートパイロットを使うことができます。

 

経済政策にオートパイロットをつかう場合の評価関数は、生産性と貧困の解消です。

 

この2つの値をモニタリングして、変化を追跡すれば、経済政策の評価が可能です。

 

たとえば、日本が、エストニアレベルの電子政府になっていたとします。

 

北海道、東北、関東といった地方ごとに、異なった経済政策を実施して、評価関数を見れば、どの経済政策が、もっとも効果的かを判断できます。

 

この場合の経済政策とは、アルゴリズムを指します。

 

貧困の解消の評価は、ジニ係数でも可能ですが、重要な点は、貧困層が生活可能な収入を得ているかという点です。

 

イギリスの場合には、家計の所得分布の下位から20%の値を使っています。

 

日本では、全く意味のない平均値をつかっていますが。これは、統計学の誤用法になります。

 

家計調査のデータは、全世帯のサンプルになっていますが、給与所得のデータは、企業規模が、雇用者は30人以上、または、100人以上になっていて、30人未満の小規模企業の統計データはありません。

 

春闘は、大規模企業が高い賃上げで、中小企業は低いといいますが、雇用者数が、30人未満のデータが落ちています。

 

雇用者数が、30人未満のデータは、アンケートで収集することは困難ですが、それを切り捨ててしまえば、サンプルデータは母集団を代表しなくなります。

 

統計学では、サンプリングバイアスは可能な限り補正しないと、データは使えないと判断します。

 

雇用者数が、30人未満のデータについても、補正が必須です。

 

雇用者数が、30人未満のデータを入れれば、平均賃金が上がるとは思われませんので、賃金実態は、政府の公表より小さいと思われます。

 

要するに、政府のデータの採り方では、大学の統計学の単位すら取得できないのです。

 

政府の経済対策は、評価関数を無視しています。

 

評価関数を無視できる利点は、利権を温存できることです。

 

経済政策のオートパイロットが実現すれば、政治家が、政治判断と称して、利権を優先することができなくなります。

 

これでは、政治家が困るので、政治家は、電子政府と経済政策のオートパイロットを阻止しています。

 

科学は、利権の敵なので、政治判断を振りまわしています。

 

3)もうひとつのオートパイロ

 

電子政府のデータを使ったオートパイロットは、GPSを使ったオートパイロットと同様に、科学技術の成果です。

 

一方、経済学者は、経済には、より原始的なオートパイロットがあると考えています。

 

それは市場経済です。

 

市場経済は、万能ではありませんが、オートパイロットと同じように、随時軌道修正を行なっています。

 

その典型は、株式市場です。

 

その逆は、統制価格です。

 

統制価格の問題点は、第1に、オートパイロットと同じように、随時軌道修正ができないこと、第2に、中抜き経済になることです。

 

市場がなければ、価格の随時軌道修正ができません。

 

これは、自動車の運転でいえば、紙の地図を使っていた時代の方法です。

 

円安になったことを受けて、統制価格の改訂をしていますが、改訂をした頃には、円ドルレートは動いています。

 

市場経済も使わない、電子政府のオートパイロットも使わなければ、古くなった統制価格がのこり、需給のバランスは崩れます。

 

その原因を放置して、2025年問題のように原因を外部に押しつけても問題は解決しません。

 

2025年問題の原因は、市場経済を無視した統制価格(非市場経済)にあります。

 

4)科学の欠如

 

ある経済政策のブレーンの人は、少子化の原因は、若年層、特に、単身世帯の貧困にあると、データをもとに、帰納法で説明しています。

 

しかし、経済政策の評価関数は、生産性(経済成長)と貧困解消です。

 

この2つの評価関数を計測して、経済政策を制御しなければ、問題解決はできません。

 

帰納法で、問題を指摘しても、問題が解決する訳ではありません。



猫の画像認識のAIでいえば、猫の画像が認識できないのは、ソフトウェアのアルゴリズムの評価関数が悪いからだという主張にすぎません。



データサイエンスの分野で、このような主張をしても、誰も、見向きもしません。

 

データサイエンスでは、評価関数の設定なしには、研究はスタートしません。

 

デザイン思考の問題解決の科学のアプローチからすれば、評価関数なしに、アルゴリズムの評価はできません。

 

日本の経済政策は、科学の方法を使っていませんので、効果が出ると考える理由はないのです。