理系の経済学(8)経済学の課題

 

(経済学で解くべき課題を考えます)

 

1)労働市場の課題

 

2024年3月5日の予備選挙で、トランプ前大統領は、15州中14州でトップをとり圧勝しました。トランプ前大統領の岩盤支持層は、白人男性の非大卒であると言われています。

 

経済学の市場原理の仮定は、実際には、あてはまりません。

 

経済学は、市場原理の仮定が近似的にあてはまる世界を考えています。

 

経済学は、デザイン思考の科学であって、帰納法ではないからです。

 

とはいえ、市場原理の仮定には、無理もあります。

 

モノのモデル化には、部門毎の社会会計行列が使えますが、労働のモデル化には、同じようなデータはありません。

 

経済政策を変えた場合に、経済モデルで、部門間での労働移動力を推定することは困難です。

 

コブ=ダグラス型関数では、 総生産量(通常は1年の総生産量)は、 資本ストック、 労働投入量、全要素生産性の関数でした。

 

しかし、ボットは人間の代わりをします。資本ストックと 労働投入量の間には、代替性があります。

 

コブ=ダグラス型関数は、この点を無視しています。



トランプ前大統領の岩盤支持層は、白人男性の非大卒であるということは、機械化によって、労働市場から追い出された人が含まれている可能性があります。

 

また、自由貿易を進めると、輸出入が増えますが、輸入品を生産している海外の労働者の生産環境が劣悪で、人権が無視されている場合には、労働市場については、市場原理が働きません。

 

トランプ前大統領は、次期大統領に当選すれば、関税によって、国内の労働者を保護するといっていますが、労働市場の点で考えれば、関税化政策が間違いであるとは言いきれません。

 

GAFAMは、コーディング作業の一部を海外の子会社で行なっています。IT産業では、クラウドサービスに対応できれば、労働力を調達する場は、国内に限定されていません。

 

一方では、EUでは、移民が急激に増加して、社会システムの維持が困難になって、移民の制限を始めました。

 

また、労働力の価値は、スキルによって異なります。

 

高等教育には、高度なスキルの習得が期待されています。

 

高等教育を習得するには、時間がかかります。

 

高度な人材の労働市場は、時間のかかる教育が前提なので、時定数が大きくなり、市場原理が機能しにくくなります。



たとえば、リスキリングは、高等教育のカリキュラムの再編です。

 

経済学の視点で、最も効率的なリスキリングのカリキュラムは、学校に市場原理を導入すれば実現できるとは思えません。問題は、遥かに複雑です。

 

問題が、余りに複雑で、筆者の手にあまりますが、ともかく、現在の経済学は労働市場の問題を分析するツールとしては、ほとんど使えません。

 

2)均衡解の限界

 

市場原理は、経済は、需要と供給の均衡解の周辺で動くことを前提にしています。

 

これは、非連続な大変化を、想定しないことになります。

 

しかし、この前提があてはまらないことがあります。

 

敗戦で、社会基盤が破壊されていれば、作れば売れます。

 

市場を無視して、ビジネスができます。

 

日本の戦後復興の経済成長率は高かったですが、企業は、ともかく、作れば売れるというスタンスでした。

 

経済学の知識がなくとも、ビジネスに支障はありませんでした。

 

産業革命で、工業が生まれます。

 

工業の生産性は、農業より、1桁高いです。

 

労働者は、農業から、工業に移動します。

 

工業に移動した労働者の賃金は、農業レベルでスタートするはずです。

 

物価は、工業の生産性に合わせてあがりますので、賃金が上がらなければ、労働者の生活は困難になります。

 

情報革命で、IT産業が生まれます。

 

IT産業の生産性は、工業より、1桁高いです。

 

労働者は、工業から、IT産業に移動します。

 

IT産業に移動した労働者の賃金は、工業レベルでスタートするはずです。

 

物価は、IT産業の生産性に合わせてあがりますので、賃金が上がらなければ、労働者の生活は困難になります。

 

IT産業に、移動せずに工業に止まった労働者の賃金をあげる方策はないように見えます。

 

以上の例は、需要と供給の均衡解の周辺で動く世界とは、かけ離れています。

 

EU諸国は、植民地支配で豊かになりました。

 

アメリカ合衆国は、アフリカから導入された奴隷が、開国初期の経済を支えています。

 

こうした人権無視の労働力は、経済学の教科書には出てきませんが、果たして、人権無視の労働力なしに、EUアメリカが、先進国になれたかは、疑問です。

 

すくなくとも、植民地を経験した国の人は、疑問を持っています。

 

以上のように、劇的な経済成長が実現できた事例を、需要と供給の均衡解の周辺で動く世界で説明できるとは思われません。

 

微分方程式の数値解を実際に解いてみればわかりますが、変動が大きいと安定した解を求めることが困難になります。

 

一方、経済学のモデルでは、需要と供給の均衡解の周辺で動く世界を想定しているため、解が発散する問題は、起こらないようです。

 

3)戦争と経済学

 

太平洋戦争の時、日本兵の主な死亡原因は、飢餓と疾病でした。

 

食料と安全な水と、それを配布するロジスティックが欠けていました。

 

太平洋戦争の敗戦の原因分析では、「失敗の本質: 日本軍の組織論的研究」が著名ですが、経済学の視点でみれば、食料と安全な水と、それを配布するロジスティックが欠けていれば、負けます。

 

日本国内でも、食料が過度に不足する事態が起こっていますので、日本軍の組織に関係なく、敗戦は自明でした。

 

なお、飢餓の実証分析では、食料の量が不足する前に、ロジスティックの欠陥が起こることが知られています。

 

ウクライナ戦争についても、食料と安全な水の生産とそれを、配布するロジスティック評価できれば、戦争の結果が予測できます。

 

今のところ、予測結果を公表している経済学者はいませんので、この問題は、太平洋戦争の時と同じようにタブーなのかも知れません、

 

バイデン大統領は「米国が手を引けばウクライナや欧州を危険にさらす」と力説しています。

 

トランプ前大統領は「自分が大統領に返り咲けば、24時間以内にウクライナ戦争を片付ける」と言っています。

 

バイデン大統領の発言は、経済的なバックを無視しています。



4)まとめ

 

経済学のツールとして、市場原理に替わる計算アルゴリズムはありません。

 

しかし、労働市場を中心に、市場原理計算アルゴリズムが、うまく機能しない分野があることを認識して、改善をすべきです。

 

特に、農業と工業のような経済の2重構造化が進み、大きな経済成長が見込まれる場合には、単一の均衡解では考えにくくなります。