(連続方程式と運動方程式を説明します)
1)微分方程式の世界
物理学も、経済学も、微分方程式で記述される世界です。
これから、経済学を物理学の視点で整理することが可能です。
地球温暖化のシミュレーションでは、微分方程式を数値的に解きます。
基礎式は、連続方程式と方程式です。
2)連続方程式
連続方程式の原理は物質不滅の法則です。
簡単にいえば、手品のように無から有は生まれません。逆に、有は無には、なりません。
経済学では、お金の流れの連続条件が、連続方程式の内容です。
物理学と異なる点は、生産活動によって、お金が増える点です。
生産活動は、付加価値を生み出します。
生産活動は、生産関数でモデル化されます。
コブ=ダグラス型関数は、よく使われる生産関数のひとつです。
コブ=ダグラス型関数は次の形をしています。
Y=A*f(K,L)
Y = 総生産量(通常は1年の総生産量)
K = 資本ストック
L = 労働投入量
A = 全要素生産性
コブ=ダグラス型関数では、全要素生産性が、付加価値に比例します。
モノを作るためには、部品を購入して、電気代を支払います。
こうしたお金の流れを整理すれば、連続方程式を作ることが容易になります。
産業間のお金の流れを整理した表が、産業連関表です。
これに、政府などの公的部門を付け加えた表は、社会会計行列と呼ばれます。
社会会計行列は、国の経済モデルを作る場合に、必須のデータになります。
世界の経済モデルを作成するためには、各国の社会会計行列のデータを収集する必要があります。
これは、かなりの手間になりますが、GTAPのような市販の経済モデルでは、解析ソフトとセットで各国の社会会計行列のデータが配布されています。
地球温暖化モデルを作成するには、必要なデータを整理して、フォーマットを加工するために、チームプレーが必要になりますが、世界の経済モデルの場合には、データはレディメードで準備されているので、個人でも世界経済モデルを作ることが可能です。
まとめますと、社会会計行列のデータがあれば、連続方程式を計算できます。
生産関数を仮定すれば、付加価値の増加をモデル化できます。
しかし、連続方程式では、お金がどちらに流れるかという、運動方程式に相当する問題は解決できません。
3)運動方程式
物体は、外力によって、加速度を生じます。
外力を与えれば、物体の将来の運動は予測可能です。
経済の場合、お金をどのように使うかという必然的なルールはありません。
2代目の息子が経営者の場合、賢く利益を最大化する経営をする場合もあります。
一方では、放蕩息子は、同じお金をラスベガスで、ギャンブルに使ってしまうこともできます。
つまり、お金の運動方程式には、ニュートンの第2法則のような必然的なルールは働きません。
したがって、過去のデータを集めて、帰納法で、推論をすることはナンセンスです。
この状態では、経済学は、有効な運動方程式を見いだせないことになります。
経済学は、ここで、市場原理を仮定して、経営者の場合、賢く利益を最大化すると考えます。
この仮定は、必然的な法則ではありませんので、破られることがあります。
しかし、市場原理の働く資本主義であれば、放蕩息子の経営者は、淘汰されるので、仮に、放蕩息子の経営者がいたとしても、それは、一時的な例外的な現象になります。
「賢く利益を最大化する」は、利益の微分係数がゼロ(最大値)になることを意味します。
微分係数がゼロという制約条件を付け加えて、モデルの係数を求めることが、物理学の運動方程式に相当します。
言い換えれば、経済学は、市場原理を前提として、各個人が経済的に合理的な行動をとるという仮定の元で、なりたっている理論です。
市場原理の働かない社会主義では、運動方程式が定まらないので、経済理論は使うことができません。
経済理論が機能するために、市場原理が働いている必要があります。