土地利用計画とは何か

(政治主導は、土地利用計画を破壊してきました)

 

1)土地利用計画

 

将来の地域の人口は利便性によります。

 

新聞では、子育て支援政策に重点を置いた自治体の人口が増える、鉄道の駅がある自治体の人口が増えるといった記事が掲載されていますが、こうした記事ができる原因は、土地利用計画に対する無知にあります。

 

土地利用計画は、100%デザイン思考の産物です。

 

良い道路があれば、道路沿いの住宅ができます。

 

住宅ができれば、利便性が上がり、道路の利用率が上がりますが、住宅が過密になれば、渋滞のリスクがあります。住宅が過密にならないようにするためには、安価で快適な住宅地を供給する(創出する)必要があります。

 

道路の交通量の変化と住宅の密度の変化は相互に依存していますので、これは、連立微分方程式の課題になります。

 

さらに、距離は空間座標系の位置によって異なり、集中定数系ではなく、分布定数数系の問題として解く必要があります。

 

空間座標系のデータは、GPSの発達によって容易に得ることが出来るようになりました。

 

現在では、公開されているデータがあれば、空間座標系で、連立微分方程式を解けば、道路、土地利用規制などが原因になって生ずる将来の人口分布を予測することが可能です。

 

もちろん、モデルは完全ではないので、漸近解になりますが、ハードウェアの社会基盤整備とソフトウェアの土地利用規制や子育て支援政策などの効果によって人口が移動します。次に、その人口移動によって、地下の上昇、過密や利便性の低下が生じて、人口移動が変化するはずです。これが、相互作用であり、連立微分方程式で解く必要があります。

 

相互作用で連想する要素は非常に多いですが、人口と道路が最も重要と思われます。

 

現在、EUでは、人口と道路を連立微分方程式で解くTRIMODEプロジェクトが進められています。

 

図1 TRIMODEプロジェクト




<< 参考文献

TRIMODEプロジェクト

http://www.trt.it/en/PROGETTI/trimode_project/

>>

2)日本の土地利用計画の課題



日本では、欧米を基準したレベルの土地利用計画はありません。

 

土地利用計画の基本は、土地を4つの区分に分けます。

 

(C1)居住地区

 

(C2)農林水産業を除く産業地区(工場。商業用地)・公共用地・道路用地

 

(C3)農林水産業地区

 

(C4)山地・開発不適地

 

公共投資は、(C1)と(C2)に集中させます。住宅は、(C1)に誘導します。

 

これは、(C1)のエリアは、災害の安全性、交通などの社会基盤の利便性が高い事で実現できます。

 

このエリアの線引きは、デザイン思考に基づく長期計画によります。

 

地区指定のエリアの中には、将来の開発予定地や、調整のためのバッファーゾーンを含む必要があります。

 

(C1)と(C2)には、建物を建てられますが、(C3)には、建物を建てられないので、(C3)の地価は安くなります。

 

土地利用計画が機能していれば、(C3)の土地を、(C1)や(C2)に変更することはできません。

 

日本では、政治主導で、(C3)の土地を、(C1)や(C2)に簡単に変更できます。

 

土地利用計画は機能していません。

 

これができると、(C1)と(C2)地域に集中投資できるはずの道路などの社会基盤整備が拡散してしまい公共投資の利用効率が下がります。

 

簡単に言えば、過疎集落に通じるトンネルを作れば、社会基盤の利用率は低くなります。

 

こうすると本来は土地利用計画によって、都市周辺の「(C1)居住地区」に集中するはずの住宅が分散してしまいます。

 

人口が減少している2024年に、まだ、新規の道路建設をしています。

 

NEXCOは、高速道路は、当面有料のままだと言います。

建設費の償還は、人口(利用者)が減るまでに完了していなければ、不可能なはずです。

 

都市周辺の「(C1)居住地区」に集中するはずの住宅が分散する理由は過疎対策で、道路を建設するためです。

 

こうして過疎問題対策が、孤立集落を生み出すメカニズムが出来があります。

 

正常の土地利用計画がある場合に比べて、建設会社は、土木工事が増えるので、反対はしません。官僚の天下りを受け入れて、政治家・官僚・民間会社の鉄のトライアイングルが出来あがります。

 

政治家・官僚・民間会社の鉄のトライアイングルは、通常は表に出ることはありませんが、例外があります。

 

道路公団の民営化のときには、この問題が表面化しています。

 

この時のデータをみれば、市場原理の破壊のレベルがわかります。

 

アメリカの軍事産業のように、公共事業中心の土木工事には、市場原理が働きません。そこで、代替市場である費用対効果分析と土地利用計画が必要になります。

 

市場原理で問題解決できる部分は、費用対効果分析を使い、市場原理に適さない部分は、土地利用計画を使う訳です。

 

日本では、土地利用計画は破綻して、政治主導(利権誘導)になっています。

 

これは、土地バブルの原因でもありました。

 

3)人口と交通の将来予測



自治体が、将来ビジョンを立てる場合、人口の空間分布の予測が必要です。

 

日本では、社人研の人口の将来予測が使われていますが、このモデルは道路を考慮していません。

 

国土交通省の将来交通需要推計手法は、人口の空間分布を考慮していません。

 

<< 参考文献

将来交通需要推計手法(道路)平成22年11月(2010年)

https://www.mlit.go.jp/road/ir/hyouka/plcy/kijun/suikei.pdf

>>

 

将来交通需要推計手法は、手法の説明だけです。

 

将来交通需要推計は、事業主体が個別に推定するルールになっています。

 

メッシュ別将来人口推計データが公開されていますが、これは、社人研の推定値ではありません。

計算は、次の手順で行なわれています。

 

 

(P1)コーホート要因法を用いて試算している。

 

(P2)試算に必要な将来人口の推計値及び仮定値(生残率、子ども女性比、0-4歳性

比及び純移動率)(以下「仮定値」という。)には、国立社会保障・人口問題研究

所「日本の将来推計人口(平成29年推計)」及び「日本の地域別将来推計人口(平

成30年推計)」における将来人口の推計値及び仮定値を使用している。

 

(P3)2015年及び2020~2050年のメッシュ別人口の試算値が、「平成27年国勢調査」及

び「日本の将来推計人口(平成29年推計)」における男女別・年齢(5歳階級)別

(以下「区分別」という。)人口と一致するようにコントロールトータル調整を行

っている。

 

<< 参考文献

1km²毎の地点(メッシュ)別の将来人口の試算について

https://www.mlit.go.jp/kokudoseisaku/kokudoseisaku_tk3_000044.html

 

メッシュ別将来人口推計

https://www.mlit.go.jp/kokudoseisaku/kokudoseisaku_tk3_000086.html

>>

 

メッシュ別将来人口分布と施設立地等を踏まえた地域分析に関する調査(平成30年7月20日)には、インフラ整備(新東名)による人口増加の効果分析が載っています。

 

これは、インフラ(道路、原因)が、人口移動(結果)をもたらすという一方通行です。

 

ここでは、連立微分方程式を解いていません。

 

TRIMODEプロジェクトでは、連立微分方程式を解いています。

 

エネルギーモデルも入ってます。

 

交通需要推計と人口移動には相互作業があります。

 

この2つのデータは、連立して解くことが出来るように、共通のフォーマットのグリッドデータで公表される必要があります。

 

EUで、TRIMODEプロジェクトが動いていることは、2種類のデータが、共通のフォーマットのグリッドデータで公表されているためと思われます。

 

DXの遅れは地域計画を不可能にしています。

 

地方自治体の将来ビジョンは、交通需要推計と人口移動の相互作業を解いていませんので、使い物になりません。