(過疎問題について考察します)
1)集団と個人
最初に、筆者の立場を明確にしておきます。
人権問題から、個人の貧困問題を解消することは、必要です。
また、国連のSDGsでも、誰も落ちこぼれを作らないことが目的とされています。
このSDGsの落ちこぼれとは、能力を発揮する機会、教育を受ける機会、能力に応じた所得を得る機会に対する落ちこぼれを指します。
人権宣言を読んでいただくとわかります、人権宣言は、結果の平等をうたってはいません。
貧困は、それが機会の平等の喪失にならないように修復させるべきです。
人権は、個人を対象とします。
したがって、貧困対策は、個人を対象とする必要があります。
過疎地域に住んでいる個人が生活困難な貧困になった場合には、人権問題として、救済する必要があります。
この個人の問題と地域や集団の問題は区別する必要があります。
封建制度の身分制度の中では、個人には職業選択の自由がありませんでした。
個人には、藩の外に移住する移動の自由もありませんでした。
人権のある民主主義は、職業選択の自由と、移住自由を認めています。
難民問題に見られるように海外移住の自由は、完全ではありませんが、国内で移住の自由が認められない国は、民主主義とはみなされません。
これは、足による投票ができることを意味します。
2)人口密度
過疎は、人口密度の低い地域で、人口がさらに減少する場合を指します。
まず、人口密度の問題を考えます。
日本より人口密度の低い国は、世界中にたくさんあります。
日本の面積の7割は山地で、居住に適していませんので、日本の人口密度は、世界の中では異常に高いです。
戦後、燃料が石炭、そして、石油に変化しました。
戦前の燃料は、薪と炭でした。
薪と炭は、森林から得られます。
古い地図を見れば、わかりますが、明治時代には、山奥にも、字の表記があります。
薪と炭が採れる森林が、生活の糧であり、戦前には山奥にも、多くの住宅がありました。
戦前の総人口は現在より少なく、居住するエリアも広かったので、人口密度は、現在より低かったはずです。
しかし、過疎問題はありませんでした。
3)人口減少
人権がある場合、足による投票に相当する移住が起こります。
人口減少地域は、足による投票で、居住希望者が減った地域です。
人口増加地域は、逆に、足による投票で、居住者が増加した地域です。
人口が増加した地域では、問題が生じます。
人口増加によって、人口増加前から住んでいる住民(旧住民)の利便性が阻害されます。
その場合には、旧住民は人口の流入を阻止するか、より環境の良い地域に転出をします。
これは、東南アジアの首都で見られ、渋滞などの問題が発生します。
渋滞が発生すると生産性が低下しますので、経済成長が阻害されてしまいます。
この点で、過密は、経済問題になります。
総人口は増減します。
生活困難で、出生率が減少することは、社会問題ですが、移住による人口減少は、社会問題ではありません。
地方自治体の公務員が、年功型雇用で、人口が減ると仕事がなくなって困るかも知れません。
税収が減って、夕張市のように、賃金が払えなくなるかも知れません。
だからといって、人口減少の問題があると判断するわけにはいきません。
移動の自由があれば、人口の増減があります。公共サービスはそれにあわせて、調整する必要があります。
日本以外の国では、過疎の問題はないと考えられます。
財源に制限がある以上、「都市から地方に、税を使った公共事業を通じて所得移転」は不可能です。それは、都市エリアの面積が、地方エリアの面積より大きいので、数学の問題です。
一部の地方だけに、「都市から地方に、税を使った公共事業を通じて所得移転」をすることはできますが、大部分の地方には、財源が回りません。
したがって、過疎は解決不可能なので、日本以外の国では、問題とは見なされません。
一方、日本では、過疎問題がないと困る人がいます。
「都市から地方に、税を使った公共事業を通じて所得移転」をすることで選挙に当選して、利権のキャッシュバックを受ける人です。
過疎問題は、数学の不可能問題です。
しかし、過疎問題がないと政治主導といって、利権を動かすことができなくなります。
過疎問題は劇薬です。
議員を当選させて、大臣にすることができれば、「都市から地方に、税を使った公共事業を通じて所得移転」の恩恵をうけることができます。
過疎問題は、全ての地方が、「都市から地方に、税を使った公共事業を通じて所得移転」の恩恵をうけることができない点で、数学の不可能問題です。
「都市から地方に、税を使った公共事業を通じて所得移転」の恩恵をうけることは、宝くじにあたるようなものです。
議員に、政治資金を渡して、投票に協力して当選させられれば、宝くじが当たる確率をほぼ確実レベルにまであげることが可能です。
3)過密問題
過疎問題はありませんが、過密問題はあります。
過密問題の解消には、土地利用規制を中心とする私権の制限が必要です。
日本の国土の土地利用計画は失敗の連続です。
成田と東京の間の新幹線は出来ませんでした。
正月に起きた飛行機事故も、羽田空港の過密が原因です。
東日本大震災も、熊本地震も、今回の能登の地震も大きな被害が出ました。
しかし、1923年の関東大震災の死者・行方不明者は約10万5千人で、 我が国の自然災害史上最大です。 内訳は、火災に よる死者は約9万2千人、強い揺れで住宅が全潰したこ とによる死者数が、約1万1千人、それ以外 が2千人です。
1923年の東京の人口は、3,859,400人です。
1923年の東京では、渋谷は村で、狸穴には、タヌキがいました。
東京都市圏(東京圏;東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県)の人口は3,562万人(2012年4月現在)です。
筆者は、水が専門なので、地震のリスクには詳しくありません。
東京都市圏の水害のリスクは高く、7年に1度程度の洪水に対して、耐えられるレベルでしかありません。一方、農地がある地域であれば、20年に1度程度の洪水まで耐えられます。
東京都市圏では、地下に非常に高いコストをかけて、洪水をためるトンネルを建設していますが、効果は限定的です。
洪水防止トンネルは、東京都市圏の土地利用調整が正常に行なわれていれば、本来は不要なものです。
諸外国の洪水対策の第1は、コストが小さく、効果が大きな土地利用計画の実現にあります。
ここには、羽田への集中をさけて、飛行場を周辺に分散する計画が失敗したこととおなじ社会構造問題があります。
2021年には、熱海市伊豆山土石流災害が起きました。
これも、土地利用調整の失敗が関係しています。
このような土地利用調整の失敗をみれば、東京都市圏の地震リスクが低いとは思えません。
東京都市圏が地震で被災した場合には、人的、経済的なダメージは膨大になります。
日本経済が沈んでしまいます。
しかし、洪水防止トンネルに見られるように、土地利用の再編は、ほぼ不可能で、現状では、対策ができない状態になっています。
過疎を心配するより、過密を心配すべきです。