MTF曲線の旅(1)EF50mmF1.4USM

レンズの評価では、文章で書かれたレビューが、多いですが、評価者の能力はまちまちです。

 

食べログのレストランの評価と大差がありません。

 

これに対して、MTF曲線と解像度チャートの数字は、より客観的です。

 

そこで、MTF曲線を主体に、レンズを眺めてみます。

 

最初に、CANONのEF50mmF1.4USMを取り上げます。

 

EF50mmF1.4USMは、1993年に登場したレンズで、2024年の現在も現役です。

 

RFマウントには、50mmF1.4のレンズはありません。

 

50mmのレンズは、ダブルガウスが基本です。

 

数学者のカール・フリードリヒ・ガウスは当時望遠鏡の対物レンズとして使われていた凸凹の貼り合わせレンズに飽き足らず、バルサムで貼らずに少し間隔を置くとともに凹レンズをメニスカスに置換する構成の望遠鏡対物レンズを1817年に提案しました。

 

ガウスタイプを絞りを挟んで対称型に配置した構成のポートレートレンズをアルヴァン・クラークが1888年に特許出願し、これがダブルガウスの最初とされています。

 

パウル・ルドルフは自ら編み出した設計手法ハイパークロマティッシュによりクラークの設計を発展させ、1896年にプラナーF3.6を発明した。

 

ダブルガウスのレンズは、1930年代以降、改良が進みますが、コマ収差が大きく、空気面が多く、反射の問題を抱えていました。

 

1951年にキヤノン50mmF1.8は、これらの弱点の解消に成功します。

 

一眼レフカメラが普及すると50mmのダブルガウスレンズが、標準レンズになります。

 

ダブルガウスレンズは設計が容易なので、新興の中華レンズメーカーもまず最初にダブルガウスレンズを販売しています。中央の画質については、ダブルガウスであれば、大きな外れはありません。

 

2014年にコシナが、ダブルガウスを止めた極めて高性能のカールツァイス Otus 1.4/55を出してから、50mmの標準レンズは、ダブルガウスという基準が揺らいでいます。

 

ダブルガウスレンズのプラナーという名称は、1896年から使われていますので、多くのバリエーションがあります。

 

EF50mmF1.4USMは、フィルム時代のプラナーに、自動焦点をつけることを目標にしてつくられたと考えられています。

 

30年前のレンズのMTF曲線は、今となっては、かなり悲惨ですが、フィルム時代のレンズの標準的なMTF曲線の水準を示しています。

 

CANONのMFT曲線の説明は以下です。

 


MTF特性図の見方

MTF特性図とは

MTFとは、Modulation Transfer Function の略で、コントラスト再現比によるレンズ性能評価方法です。オーディオ機器などの電気系の特性評価として周波数特性がありますが、これは原音に対する、[マイクロフォン→録音・再生回路→スピーカー]による再生音の忠実度を表すもので、高忠実度のものはハイファイ(high fidelityの略)と呼ばれています。

 

レンズも同様に「光学信号の伝達系」と考えた場合、光学系の周波数特性が測定できれば、光学信号が忠実に伝達されているかどうかを知ることができます。レンズでいう周波数とは、1mm幅の中に正弦的に濃度の変化するパターンが何本あるかという意味で特に「空間周波数」と呼ばれ、電気系のHzに対し、「○○line per mm」あるいは「○○本/mm」と示されます。

本ホームページに掲載のMTF特性図は、横軸が画面中心を0とした像高(画面中心からの対角線上の距離/単位・mm)、縦軸がコントラストとなっており、10本/mmと30本/mmのMTF特性が示されています。MTF特性図上の10本/mmのカーブが1に近いほどコントラスト特性がよく、ヌケの良いレンズとなり、30本/mmのカーブが1に近いほど高解像力を備えたシャープなレンズとなります。シャープで抜けのよい高性能レンズであるためには、両者でバランスが取れていることが大切ですが、一般的に10本/mmのMTF特性が0.8以上あれば優秀なレンズ、0.6以上あれば満足できる画質が得られると言われています。

cweb.canon.jp

 

要点は、「10本/mmのカーブが1に近いほどコントラスト特性がよく、ヌケの良いレンズ、30本/mmのカーブが1に近いほど高解像力を備えたシャープなレンズとなります」です。

 

「一般的に10本/mmのMTF特性が0.8以上あれば優秀なレンズ、0.6以上あれば満足できる画質が得られる」という基準は、デジタル時代には、甘すぎる気がします。

 

EF50mmF1.4USMのMTF曲線は、15㎜より外側では、0.6を切っています。

 

周辺にいくとMTF曲線がさがるのは、レンズが小さいこととダブルガウスの特徴が反映されています。

 

写真1は、50mmF1.4で撮影しています。

 

最近では、ボケの量が問題になることも多いですが、被写界深度が浅いと、ピンボケ写真を生産しますので、通常は、写真1の50mmF1.4レベルのボケ量があれば、問題はないと思います。

MTF曲線

 

 

写真1 EF50mmF1.4USM(F1.4)