(日本の民主主義の基本的人権には、疑問符がついています)
1)人権問題
民主主義国家は、人権が守られていること、主権(政策と法治の決定権)が国民にあることが条件です。
デンマークのマルグレーテ女王(83歳)は2023年12月31日、テレビ中継された恒例の年末演説で、2024年1月14日に退位すると表明しました。
女王は1940年、前国王フレデリック9世とスウェーデン王女だったイングリッド王妃の長女として誕生しました。出生当時、女性に王位継承権はありませんでしたが、1953年の法改正によって権利を得て、父王の死去に伴い、1972年に即位しました。
<< 引用文献
デンマーク女王が退位へ=在位期間52年、欧州で最長 2024/01/01 JIJI.COM
https://sp.m.jiji.com/article/show/3132864?free=1
>>
読者は、1953年の法改正によって、マルグレーテ女王が、王位継承権を得られた理由がわかりますか。
この法改正の根拠は、人権にあります。女性に王位継承権がないのは、人権を無視していることになります。
1953年の法改正は、人権を実現するために、行なわれています。
日本では、天皇の継承権は、女性にはありません。
デンマークの1952年以前と同じ状況です。
自民党と自民党の選んだ有識者は、女性に、天皇の継承権を認めません。
有識者は、天皇家の継承の歴史を根拠に、女性に、天皇の継承権はないといいます。
太平洋戦争に負けるまで、天皇は「あらひとかみ」でした。
敗戦になって、天皇は、自らを人間である、つまり、人権の対象者であると認めました。
これが、象徴天皇制の根拠です。
整理します。
1945年以前は、天皇は「あらひとかみ」(神)であって、人間ではありませんでした。
憲法では、主権は、「あらひとかみ」にあり、国民に主権は、ありませんでした。
主権が天皇にありますから、国民は、天皇の指示に従うことが許されているだけでは、国民には人権はありませんでした。特攻は人権問題にはなりませんでした。
1945年以降、天皇は人間になり、憲法は、主権在民になりました。
戦後の日本国憲法は、フランスの人権宣言を継承し、国民には人権があります。
以上のことが理解できていれば、1945年以前の天皇制を引用して、天皇の継承権と論ずることは、人権無視で、憲法の精神に反していることがわかります。
1945年以前のデータを引用する人には、民主主義を放棄して、封建制度に戻したいという意図があります。
象徴天皇を否定しています。
つまり、憲法の人権が理解できていれば、女性の天皇の継承権の問題は、議論にはなりません。
女性の天皇の継承権は、憲法に従って、事務的に、何時までに、関連法規を整備するかという問題に過ぎません。
議論は、人権を認めるか否かに集約されます。人権を認めないという人が、マスコミに出てきて議論することは、先進国ではありえません。これは、アパルトヘイトや、奴隷制度が優れているというのと同じ議論です。
ところが、日本では、女性の天皇の継承権が議論されています。
これは、日本では、憲法の人権(ルーツは、フランスの人権宣言)が、全く理解されていないことを示しています。
2)SDGsの欺瞞
2023年6月21日に世界経済フォーラム(WEF)が発表した2023年版の「ジェンダーギャップ報告書」では、日本は男女平等において、146カ国中、125位でした。
「ジェンダーギャップ報告書」によると、政府や企業における指導的役割で日本は146カ国中、133位、同様の仕事に対する賃金の平等性で75位(2020年は67位)でした。
この問題に対して、リチャード・カッツは次のように言っています。
<
女性が役職に就く割合は2001年の8%が、2019年の19%に上昇しています。
女性が課長に就く割合は2001年の3.6%が、2019年の11%に上昇しています。
女性が部長に就く割合は2001年の1.8%が、2019年の6.9%に上昇しています。
女性が経営幹部に就く割合は2001年のほぼゼロが、2019年の6.9%に上昇しています。
しかし、数字をよく見せようとする多くの企業は、女性に管理職の肩書は与えるが、通常それに付随する権限や経験は与えていません。(筆者注:問題を、ドキュメンタリズムに置き換えている)彼女たちの多くは、役職は与えられているが、管理する部下がいません。
大卒の男女は、20から24歳でほぼ同じ賃金からスタートします。男性が50から54歳になる頃には給与はほぼ3倍になっているが、女性の給与は2倍にとどまっています。
もし政府が女性管理職を増やしたい、賃金を平等にしたいと考えているなら、まずは賃金や昇進に関する男女差別を違法とする法律を施行することです。昇進の平等は問題の一部に過ぎません。
日本の労働基準法には、「使用者は、労働者 が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをしてはならない」と書かれています。
1985年に施行された男女雇用機会均等法は、昇進に関して女性を差別すること、あるいは性別に中立であるように見えるが結果的には差別となる基準を使用することを禁じています。
しかし、これらの法律は日常的に無視されており、執行を義務付けられている政府機関もありません。
企業の代理人を務めるある弁護士のクライアントは、職務内容に手を加えることで「同一労働同一賃金」の原則を回避し、実際には同一労働ではないと主張しています。このような場合、裁判官はほぼつねに雇用主を支持します。また、苦情を受けて政府機関が法律違反を認定した場合でも、是正命令が出されるだけで罰則はありません。
解決策は、厚生労働省に法律違反の調査と罰則を義務付けることです。
>
<< 引用文献
法律も無意味「女性が出世できない国、ニッポン」 2023/06/12 東洋経済 リチャード・カッツ
https://toyokeizai.net/articles/-/681555
>>
リチャード・カッツ氏は、日本人は、基本的人権を理解していないとは想像していないので、「厚生労働省に法律違反の調査と罰則を義務付けること」が解決策になると主張します。
しかし、問題の原因が、基本的人権の無理解にある場合、「厚生労働省に法律違反の調査と罰則を義務付けること」を期待しても、無駄になります。
日本には、基本的人権がありませんので、SDGSを議論する以前のレベルです。
国際的にみれば、日本の人権の実現は、北朝鮮と同じレベルです。
そのことは、「ジェンダーギャップ報告書」を見れば、確認できます。
裁判官は、基本的人権を理解していないので、カッツ氏のいう「裁判官はほぼつねに(人権無視の)雇用主を支持」することが起きます。
フランス文学者の水林章氏は、人権無視が起こる原因は、日本には、封建制度の法度制度が残っているためであり、日本語が、法度制度を温存させているといいます。(注2)
<< 引用文献
水林章著『日本語に生まれること、フランス語を生きること――来たるべき市民の社会とその言語をめぐって』(春秋社)
>>
筆者なりに、水林章氏の主張を理解すれば、次のようになります。
列車には、上りと下りがあります。これは、全ての駅で、東京にある駅が上位にあるという主張です。上りと下りという言葉を日常的に使うと、駅に上下があることが当然であると自然に感じるようになります。つまり、無意識に法度制度を正当化してしまいます。(注1)
対人関係でも、上下関係を前提とした言葉が多くあるので、列車と同様の法度制度の維持が行なわれます。
基本的人権を理解していない裁判官に対して、異議をとなえる方法があります。
選挙の時の最高裁判所の判事の信任に対して、反対することができます。
人権問題に疑問を感じている人がいれば、まずは、簡単なこの方法を使うべきです。
注1:
上りと下りの問題は、東京一極集中と地方の活性化問題にも関係しています。
2024年1月2日夕方、羽田空港で日本航空の旅客機が海上保安庁の航空機と衝突し炎上した事故が発生しています。
日本の飛行場も、東京(羽田)を中心としたヒエラルキーから抜け出せません。
羽田空港は、元々過密な上に、国際便も入れたので、非常に混雑しています。羽田空港に国際便が入った理由は、成田空港には、上海のリニア鉄道に相当するアクセスがないためです。
都市の東京一極化が進んで、地方空港と地方空港を結ぶ航空路線は赤字で、経営できなくなっています。羽田空港の離発着枠は小さいので、大型機以外が入れる余地は少ないのです。つまり、日本国内には、小型機を使った航空市場がありません。
海上保安庁が、羽田空港をつかわなければならない理由は少ないと思いますが、東京周辺には、羽田空港に代わる飛行場が見つかりません。
整備が容易にでき、離発着の枠の自由度が高い空港が東京周辺にあれば、海上保安庁は、飛行場を移転していたと思われます。
注2:
水林章氏は、法度制度の根拠は天皇制にあるという意見で、天皇制には反対しています。これは、象徴天皇であっても、法度制度を日本語に組み込む原因になっているので問題があるという立場です。
筆者は、女性の天皇の継承権問題を例題に取り上げましたが、この議論は、水林章氏の検討外になります。