アブダクションとデザイン思考(20)民主主義と合意形成

(日本の民主主義の合意形成には、疑問符がついています)

 

1)合意形成

 

日本が民主主義国家である点には疑問がつきます。

 

民主主義国家は、人権が守られていること、主権(政策と法治の決定権)が国民にあることが条件です。

 

合意形成は、主権にかかわる問題です。

 

具体例で考えます。

 

東京オリンピックは、開催に反対する人が多いにもかかわらず、開催されました。

 

そこでは、開催の合意形成がどこでなされたかが不明です。

 

初期には、開催賛成派が多かったのですが、パンデミックによって、開催中止派がふえました。

 

パンデミックによって、予定していた2020年には開催できませんでした。

 

2021年開催は、計画変更になります。

 

計画変更については、再度合意形成が必要ですが、再度の合意形成はなされませんでした。

 

つまり、民主的な手続きは行われませんでした。

 

これは、法律を作るときと、法改正をするときには、別々の議案として検討される事と同じ民主主義のルールです。

 

2)大阪万博

 

2025年の大阪万博の計画変更を見ます。

 

2023年11月1日に、再来年の大阪・関西万博の会場建設費が、これまでの1850億円より500億円多い最大2350億円に上振れする見通しとなったことを受けて、経団連関西経済連合会などは、経済界として増額分の3分の1の負担を受け入れる方針を明らかにしました。また、大阪府大阪市も、想定を上回る物価上昇が主な理由で、やむをえないなどとして、増額分の3分の1の負担を受け入れる方針を決めました。

 

会場の建設費は、国と大阪府・市、それに経済界の3者で、3分の1ずつ負担する仕組みになっています。

 

<< 引用文献

万博建設費の増額分負担 経済界と大阪府・市 受け入れの方針 2023/11/01 NHK

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231101/k10014244571000.html

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2350億円の場合、大阪市民は1人当たり1万9千円の負担になります。市の負担は2350億円の6分の1、約392億円。市の推計人口約277万人で割ると、1人当たり約1万4千円となります。これに、府民負担分の約4千円、国民負担分の約600円が加わり、計約1万9千円となります。

 

<< 引用文献

万博会場建設費、大阪市民の負担「1万9千円」 市長は理解求める 2023/11/14 朝日新聞

https://www.asahi.com/articles/ASRCG6718RCGOXIE035.html

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政府は、国費負担は、阪府・市や経済界と3等分する会場建設費783億円のほかに、日本館の建設費360億円、途上国出展のための費用240億円、会場内の安全確保費用(警備費)199億円、全国的な機運醸成費用38億円、誘致などの費用27億円の合計1647億円としていいます。

 

783億円の国民負担分を600円とすれば、1647億円の国民負担分は、1262円になります。

 

この万博の国費負担には、道路や鉄道といったインフラ整備などの費用が含まれていません。

 

経済学の経済効果の算的方法は、with-withoutが基本です。

 

道路や鉄道といったインフラがなければ、万博会場には、誰も行けません。

 

ですから、道路や鉄道といったインフラ整備などの費用を除外した万博費用には現実的な意味がありません。



政府が2023年12月19日に公表した試算では、万博に関連づけて国や自治体、民間が投じるインフラ整備費に9兆7000億円を計上しています。このうち、万博に直接関係するのは8390億円です。内訳は、下水道整備や地下鉄延伸などに810億円、道路整備や関西空港の機能強化などアクセス向上に7580億円です。

 

政府は、万博での実証実験などの事業をまとめた各府省庁の行動計画(アクションプラン)に3兆4000億円の国費がかかることも公表しています。

 

公共事業の政府の補助率は、博覧会の補助率より高いと思われます。ここでは、簡単に2分の1とします。

 

そうすると、政府の費用は、1647億円+7580/2億円=5437億円になり、国民負担分は、4166円になります。

 

同様に、3兆4000億円の国費の国民負担分は、26054円になります。

 

2つを合わせた国民負担分の合計は30220円です。

 

岸田政権は、2023年11月2日、臨時閣議で、所得税と住民税あわせて4万円の減税を行うことなどを盛り込んだ経済対策を決定しました。

 

大阪万博では、この減税の4分の3に相当する金額が国費から、支出される計画です。

 

2023年11月に、立憲民主党は万博の「総費用」を明確にするための「予備的調査」を衆院に要請しました。要請書では「なし崩し的に税金が投入されることで、さらに国民負担が増加することが懸念される」と説明し、来年の通常国会までに、より詳細な国費負担を公表するよう求めています。

 

 しかし、立憲民主党の提案は異常です。

 

アメリカやイギリスでは、政策の費用対効果を算出する独立組織があります。

 

調査をしなければ総費用が算出できないことは、予算の費用対効果が算出されていないことを意味します。総費用が算出できないことは、万博の経済効果の推定計算は、計算間違いになります。

 

経済学に基づく科学的な政策選択は、費用対効果分析に基づきます。

 

費用対効果分析は万能ではなく、人間の心理的満足度などは評価されません。

 

したがって、費用対効果分析の結果に100%従う必要はありませんが、政策検討の議論のスタート地点としては、費用対効果分析にかわる手法はありません。

 

なので、政策選択をする場合には、まずは、費用対効果分析をしてから考えることが原則です。

 

総費用が算出できない、費用対効果分析がなされていないことは、政策選択が別の論理で行なわれたことを示唆しています。

 

談合が摘発される事業では、費用対効果が無視されていて、利権が優先していることになります。

 

万博のように、費用対効果分析がなされていない場合には、全ての事業で、利権を優先した政策選択の疑惑があります。

 

特に、効果算定が行なわれていない場合には、政策は、問題解決とは、関係がなくなります。

 

つまり、関連業界は、配分される予算にのみ関心があり、政策効果には、関心がなくなります。

 

これは、例えば、少子化問題であれば、関連業界は、少子化予算を受注することには、関心がありますが、少子化対策の効果が出るか否かには関心がないことを意味します。

 

このような政策の効果に関心がない利権優先の政策選択が蔓延すれば、問題解決は進みません。

 

もちろん、利権優先の情報は公開されませんので、各業界は、自分たちの業界だけは、例外的に利権優先で動いているが、日本は、民主主義国なので、利権優先で動いている業界はマイナーだろうと思っているでしょう。

 

しかし、合成の誤謬で、日本全体が、利権が動くようになれば、民主的な合意形成はなされず、民主主義国家ではなくなります。

 

パーティ券問題は、この疑惑を確証にかえました。

 

パーティ券問題は、大阪万博の費用負担問題に繋がっています。

 

<< 引用文献

国民負担「1647億円」ではとても済みそうにない大阪万博 インフラ整備9.7兆円、国費の割合は非公表  2023/12/22 東京新聞

https://www.tokyo-np.co.jp/article/297423

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マスコミは、大阪万博を他人事のように報道しています。

 

国民負担分の合計が一人あたり30220円だと分かっていたら、大阪万博に賛成する人の割合は、どの程度だったでしょうか。

 

マスコミは、情報を提供して、実際に、万博事業の継続が中止かを判断する読者アンケートを行ない、旗色を明確にすることができますが、この問題からは、逃げています。

 

12月末に、関西経済連合会の松本正義会長(住友電気工業会長)は毎日新聞のインタビューに応じ、2025年大阪・関西万博の運営が赤字となった場合には「経済界が(穴埋めのために)資金を出すことは難しい」と述べた。経済界とともに万博を推進する国と大阪府・市も赤字の穴埋めには否定的で、赤字になる可能性が強まった場合に混乱を招かないよう事前の対策が迫られています。

<< 引用文献

大阪万博 関西財界トップ、赤字になっても「穴埋めできない」 2024/01/01 毎日新聞

https://mainichi.jp/articles/20231227/k00/00m/020/426000c

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大阪府大阪市関西経済連合会は、万博は推進するが、これ以上お金は出さないといっています。

 

これは、大阪府大阪市関西経済連合会は、合意形成には応じないという発言に見えます。

 

大阪府大阪市は、実際は赤字の穴埋めに応じるつもりではあるが、選挙対策で、赤字になっても「穴埋めできない」と言っている可能性もあります。

 

3)まとめ

 

大阪万博の追加費用負担問題は、民主主義の合意形成が破綻していることを示しています。

 

これは、一般的な意思決定プロセスの問題であって、大阪万博の追加費用負担問題に限定されない民主主義の根幹に関わる課題です。

 

民主主義の合意形成では、合意形成に必要な情報が公開されて、主権者がその情報をもとに、議論して、合意形成をする必要があります。

 

税金を使う事業であれば、費用対効果の情報が公開されていることが前提です。

 

費用対効果分析の経済効果の推定計算は、以前は、紙と鉛筆(ソロバン、電卓)で行なっていました。この方法では、複雑な計算は困難です。

 

なので、過去には、費用対効果分析は、形式論の問題として扱われてきました。

 

今世紀に入って、DXの進歩によって、費用対効果分析は、簡単にできるようになりました。

 

民主主義の発達した先進国では、このためのDXは完了しています。

 

ただし、利権を温存するために。情報公開をさけるために、DXを遅らせている場合には、話は別です。

 

これが行われれば、税金は、効果のない事業に消費されて、問題解決は放棄され、失われた30年になり、日本は、衰退した途上国になります。

 

アカデミック・ソサエティは、この問題に対して、社会的な責任を放棄しているように見えます。

 

日本語と法度体制の問題の指摘は、アカデミック・ソサエティの沈黙に対する1つの回答になっています。

 

<< 引用文献

水林章著『日本語に生まれること、フランス語を生きること――来たるべき市民の社会とその言語をめぐって』(春秋社) 

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水林章氏は、法度体制を解体して、基本的人権を守るためには、日本語に組み込まれた法度体制の解体が必要であると考えています。

 

筆者は、パーシアンなので、プラグマティズムの重視と科学的なリテラシーがあれば、基本的人権を守ることができると考えます。

 

法度体制は、市場原理と相容れませんので、自由な競争よりも、利権に対する忖度を優先するので、科学技術立国(技術革新)とは相容れません。これが、日本が沈んでいく原因であると考えます。