アブダクションとデザイン思考(17)システムの故障

(システムの故障を治すには、基本的な手順があります)

 

1)家電製品の故障

 

エアコン、テレビ、パソコン等が故障した場合を考えます。

 

テレビがスイッチを入れても、うつらなくなったという結果から、故障の原因を推定します。

 

これは、結果から原因を推定する推論なので、アブダクションです。

 

エンジニアは、この時に、前例を参考にはしますが、コピーはしません。

 

隣の家で、テレビがうつらなかったときに、コンセントが緩んで外れていたという前例があれば、それは、故障の可能性のひとつとして配慮しますが、我が家のテレビの故障が同じ原因で起こったと考える論理的な必然性はありません。

 

家電製品のマニュアルには、故障とおもわれる場合のチェックポイントがのっていますので、それを参考にして、原因と思われる点を1つずつチェックしていきます。

 

それでも、原因が不明の場合には、小型の家電製品であれば、修理に持ち込みます。

 

修理に持ち込めば、メーカーは検査器具を使って、より多くのチェックポイントを確かめて、問題点が見つかれば、部品を取り替えます。

 

以上は、デザイン思考で問題を解決する手順です。

 

2)少子化問題

 

2024年は、人口減少問題に警鐘を鳴らした「増田リポート」の発表から10年となります。

 

将来的に「消滅」の恐れがある自治体数は、10年前の試算(896自治体)より増え、1000超に拡大している可能性があります。

 

レポートを取りまとめた、元総務相増田寛也氏は、この間の政府の地方創生の取り組みは「十分な効果を上げなかった」と指摘しています。

<< 引用文献

「消滅可能性都市」1000超に拡大も 政府に増田元総務相が苦言 2023/12/31 毎日新聞

https://mainichi.jp/articles/20231230/k00/00m/010/117000c

>>

 

しかし、デザイン思考をせずに、原因を除かなかったのですから、少子化の拡大は、予想通りではないでしょうか。



増田寛也氏は、「(少子化対策に)何が足りなかったのでしょうか」という毎日新聞の質問に次の様に答えています。

 

人口減少の要因は、出生数が死亡数を下回る「自然減」と、ある地域で転出が転入を上回る「社会減」に分けて考える必要があります。このうち社会減に当たる、若年人口の地域からの流出に対する取り組みが不十分で、当事者に対策が届かなかったことが、今の状況を招いています。

 

 政府は地方での仕事づくりに取り組み、就業率は全体として上がりましたが、中身を見ると女性や高齢者は非正規が多く、正規雇用の拡大は十分ではありません。

<< 引用文献

人口減少「無策」の10年「政治の責任だ」 増田元総務相 2023/12/31 毎日新聞

https://mainichi.jp/articles/20231229/k00/00m/010/160000c

>>

 

海外移住者の数が大きくない場合には、日本全体で考えれば、地域ごとの「社会減」と「社会増」は、相殺しています。

 

したがって、出生数が死亡数を下回る「自然減」が主な問題であることは、2014年に既にわかっています。

 

出生数を、支配する原因は、婚姻率と出生率です。

 

結婚と出産には経済的な負担がかかりますので、可処分所得の大きさが影響します。

 

可処分所得が変化しなくとも、教育費用、住宅費、食費などの生活費用負担が増加すれば、負担は増加します。

 

もちろん、可処分所得が減れば、負担は増加します。

 

過去10年には、この2つが起こっています。

 

デザイン思考で考えれば、目的変数を出生数の変化(偏差)、説明変数を、婚姻率の変化、出生率の変化、若年層の可処分所得の変化、教育費の変化、生活費の変などにしてモデルを作れば、説明変数の影響が推測できます。

 

これらの説明変数の探索は、家電製品の故障個所を推定するのと同じ手続きです。

 

線形モデルでも、短期的には、予測が可能です。

 

これらの説明変数のうち、もっとも、費用対効果の大きな対策から、順番に手当をすれば、少子化は減るはずです。

 

このモデルは、かなりラフです。政策効果を計測しながら、モデルをブラッシュアップすべきです。

 

モデルは、回帰分析が一番簡単ですが、説明変数間の相関がきになるのであれば、共分散構造分析を使うこともできます。

 

これらの検討手法は、既に、データサイエンスでは、使い古された手法です。

 

大学の修士の学生であれば、使いこなせるレベルです。

 

このようなモデルを、既に作って発表している研究者もいるのかも知れませんが、筆者の耳には入りません。

 

恐らく、所得と出生率の相関のようなモデルではないかと推定します。

 

政策にインパクトを与えるためには、所得と出生率の相関モデルは、不十分で、最低賃金を50%あげた場合や、女性の賃金が男性と格差がなくなった場合に、出生数がどれだけ改善するかという推定値を出す必要があります。

 

研究者は、こうした予測は、信頼性が弱いことをしっているので、荒い予測をしたがらない傾向があります。

 

しかし、研究の目的が、少子化の実態を調べることではなく、少子化を改善することにあるならば、社会に対して、問題の所在をアピールする必要があります。

 

岸田政権では、教育費の補助に重点がおかれて、婚姻率の改善は無視されています。

 

このことが問題であると発言している研究者はいます。しかし、所得と出生率の相関モデルの推定では、不十分で、教育費の補助をやめて、おなじ財政負担を婚姻率の改善に回した方が、期待される出生数が何人増えるといった予測をだす必要があります。

 

政府の政策担当者に、科学のリテラシーのある人間がいなかったことが、有効な少子化対策ができなかった原因である場合、議論しても、政策担当者は、理解できないので時間の無駄です。

 

年功型雇用をやめて、ジョブ型雇用に、切り替えて、政府の政策担当者を科学のリテラシーのある人間に入れ替えない限り、問題解決は不可能です。

 

増田寛也氏の発言を見る限り、増田寛也氏がデザイン思考が出来ているとは思えません。

 

「増田リポート」は帰納法でトレンドを予測していますが、そこには、問題解決のためのデザイン思考はありませんでした。

 

海外では、博士課程習得者の給与は高いが、日本では低くなっています。

 

日本の博士過程の中身はかなり悲惨なので、これは、やむを得ない面もあります。また、博士というラベルに価値がある訳ではありません。

 

しかし、科学のリテラシーがない人が、経営判断や政策判断をすれば、何が起こるかは推測できます。

 

政策担当者の科学のリテラシーが低いと、効果的な対策が作れないので、少子化がとまらないのは、必然的な結果と推定できます。