8)空約束
8-1)女性管理職の割合
リチャード・カッツ氏の記事の「空約束」の要点は以下です。(筆者の要約)
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2003年に小泉純一郎首相は民間企業の女性管理職の割合を30%に引き上げると宣言した。
2013年に安倍晋三元首相は同じく2020年を期限にその割合30%の約束を繰り返した。
2015年に安倍晋三元首相は同じく2020年を期限にその割合15%の約束をした。
2023年に岸田文雄首相は2030年を期限に企業の役員の30%以上を女性にすると宣言した。
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つまり、女性管理職の割合を引きあげるという目標達成は、常に空約束でした。
8-2)空約束の構造
カッツ氏の指摘は、次の様に、一般化できます。
X(n)年に、Y(n)首相は、Z(n)と宣言した。
n=1のとき、X(1)=2003、Y(1)=「小泉純一郎首相」、Z(1)=「女性管理職の割合を30%」
n=2のとき、X(1)=2013、Y(2)=「安倍晋三元首相」、Z(2)=「女性管理職の割合を30%」
n=3のとき、X(1)=2015、Y(3)=「安倍晋三元首相」、Z(3)=「女性管理職の割合を15%」
n=4のとき、X(4)=2023、Y(4)=「岸田文雄首相」、Z(4)=「女性役員の割合を30%」
Z1)、Z(2)、Z(3)、Z(4)が微妙に異なりますが、カッツ氏の指摘は、表現の揺れは、本質とは関係がないという事であると思われます。
さて、次に、Z(n)が、「出生率をあげる」場合を考えます。
2013年:
加藤鮎子こども政策担当相は14日、就任後初となる記者会見で、少子化の進行は危機的だとの認識を示し「司令塔として省庁間の縦割りを打破する」と語りました。
「省庁間の縦割りを打破する」も、「女性管理職の割合を30%」と同じように何度も聴いているので、怪しいキーワードですが、ここでは、脇において、首相の発言は以下です。
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第2の柱である社会については、2030年までが少子化トレンドを反転させるラストチャンスであり、まずは、先般閣議決定したこども未来戦略方針に基づき、次元の異なる少子化対策を早期に実施すべく、必要な制度改革の法案を次期通常国会に提出してまいります。
少子化以外にも、これ以上先送りができない、待ったなしの社会的課題があります。そうした課題への対応を強化してまいります。
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次に、カッツ氏にならって、過去の発言を調べます。
2006年1月4日:
今後、少子化が進んでいく、子育てをいかに楽しめるような環境にしていくか、子どもたちは我々社会の宝であると、国の宝であると、社会全体で子どもたちを健全に、健やかに育てていこうと、そういう環境をつくっていくのがより一層大事な時代になったと思います。
今年は、犬年でありますが、犬は子どもをたくさん産む、そしてお産も軽いそうです。犬にあやかるわけではありませんけれども、多くの方々が子育ては楽しいぞと、子どもを持つことは人生を豊かにすると、そのような環境整備に多くの皆さんの知恵を借りて邁進していきたいと思っております。
2013年:
安倍晋三首相は4日午前、首相官邸で森雅子少子化相と会い、少子化対策の推進に向けた「3本の矢」に取り組むよう指示した。(1)待機児童対策を含めた子育て支援(2)仕事と家庭の両立支援(3)結婚、妊娠、出産の手厚い支援策――の3点を徹底するよう求めた。
2017年:
安倍晋三首相(自民党総裁)は10月23日午後、党本部で開いた記者会見で政権課題について「少子高齢化がアベノミクス最大の挑戦だ」と述べた。公約に掲げた消費増税分の使途変更については「少子高齢化が進むなか立ち止まっている余裕はない」としたうえで「消費税の使い道を見直し、子育て世代へ大胆に投資していく。全世代型の制度に作りかえる」と語った。
これから、「女性管理職の割合を30%」と、「出生率をあげる」には、同じ空約束の構造があることがわかります。
恐らく、第2次岸田第2次改造内閣発足等について岸田内閣総理大臣記者で取り上げられた、「賃上げ」、「経済対策」、「高齢化対策」、「年金対策(高齢者の方々がお一人でも安心して年を重ねることができる社会づくり)」なども、以前の内閣でも繰り返してきいたことのあるキーワードですので、同じ空約束の構造があると思われます。
空約束の構造がある限り、政策議論は無意味です。そう考えると、これより、重要な政策課題はないと思われますが、専門家はだれも、取り上げていません。
8-3)エビデンスに基づく政策決定
カッツ氏は、「岸田首相は、目標と対策を一致させたことがないので、これ以上の成果は期待できない」といいます。
しかし、これには、注意が必要です。
データサイエンスの世界では、目的とは評価関数を意味します。
例えば、「出生率をあげる」は、評価関数になるので、目的として採用できます。これが結果です。次に、対策が原因に相当します。対策を変化させた場合の評価関数の変化を計測します。
出生率の変化量を、Δ出生率、対策の変化量を、Δ対策とします。
政策の効果は、Δ出生率/Δ対策になります。
これは、対策に変化がなかった場合に、Δ出生率=0である単純な場合です。
実際には、何もしないと、毎年Δ出生率=-0.03%でるあるかも知れません。その場合には、Δ出生率=0は、実際には、+0.03%の効果を意味しているかも知れません。
このように、サンプリングのバイアス補正が必要になり、場合によれば、複雑なノウハウが必要になります。
しかし、政策の効果の基本は、Δ出生率/Δ対策になります。
「賃上げ」であれば、政策の効果の基本は、Δ賃金/Δ対策になります。
予算のパフォーマンスで言えば、Δ賃金/Δ対策費になります。
これが、科学の方法の基本です。
エビデンスに基づく政策決定は、予算のパフォーマンスが基本です。
過去に、何度も少子化対策の専門家が答申をだしています。
通常の考えであれば、権威ある専門の発言であるから、正しいのだろうということになります。
しかし、Δ出生率/Δ対策を問題にしている専門家はいません。
専門家は、人文科学の方法(恐らくは帰納法)によっていて、科学の方法は理解できていないようです。
しかし、エビデンス革命は、権威ある専門の発言は、Δ出生率/Δ対策に比べて、全く当てにならないとしています。(疫学の教科書を参照のこと)
つまり、政策が失敗するのは、科学の方法を知らない専門家にも原因があります。
簡単に言えば、誰も正解はわかりませんので、提案自体に問題はありません。問題は、エビデンスを計測して得られる「Δ出生率/Δ対策評価」が提案されていないことです。
これは自然科学では、実験を行わないことに相当しますので、あり得ません。
9)違法な状態の許容度
カッツ氏は、違法な状態について、次の様にいっています。(筆者要約)
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「ジェンダー差別」は、「使用者は、労働者 が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをしてはならない」と明確に規定した労働基準法に違反している。
1985年に施行された男女雇用機会均等法は、昇進に関して女性を差別すること、あるいは性別に中立であるように見えるが結果的には差別となる基準を使用することを禁じている。
ジェンダー差別の訴訟で企業の代理人を務めるある弁護士によると、同氏のクライアントは日常的に、職務内容に手を加えることで「同一労働同一賃金」の原則を回避し、実際には同一労働ではないと主張している。このような場合、裁判官はほぼつねに雇用主を支持する。
ちなみに、同じ差別禁止法が非正規労働者にも適用されるが、その場合も強制力はない。
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つまり、裁判官が、つねに雇用主を支持し、ジェンダー差別を温存させている可能性があります。
2023年9月15日のNewsweekで、北島純氏は、9月7日の会見後、ジャニーズ事務所所属タレントを広告に起用していた企業の撤退表明が相次いでいる理由を、各社が、国連の「グローバル・コンパクト」に賛同し署名しているからであるといいます。
グローバル・コンパクトは「人権、労働、環境、腐敗防止」という4 分野について10個の原則を定めた国際的規範の一種です。
「ビジネスと人権」という規範は、企業が直接、人権侵害の当事者になってはいけないだけでなく、人権侵害の当事者から原料を仕入れたり、工場での組み立てを任せたりするような形で間接的に人権侵害を助長・援助・支援してはならないことを要求しているため、ジャニーズ事務所所属タレントの広告は、これに抵触します。
ところで、「グローバル・コンパクト」の解説には、次の文言が含まれています。
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勤労の権利とともに、同一労働同一賃金の権利や、労働者とその家族が人間としての尊
厳にふさわしい存在を確保できる公正かつ満足のいく報酬(必要な場合、他の社会的保
護手段により補完が可能)を得る権利も謳われています。
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北島純氏の指摘がどこまで、当たっているかはわかりません。
しかし、日本企業では、大株主が、海外にいる場合には、「グローバル・コンパクト」によて、今後、ジャーニーズ問題以上の激震が走る可能性があります。
引用文献
法律も無意味「女性が出世できない国、ニッポン」 2023/06/23 東洋経済 リチャード・カッツ
https://toyokeizai.net/articles/-/681555
コンプライアンス専門家が読み解く、ジャニーズ事務所の「失敗の本質」2023/09/15 Newsweek 北島 純
https://www.newsweekjapan.jp/kitajima/2023/09/post-28_2.php
国連グローバル・コンパクト 4 分野 10 原則の解説
https://www.ungcjn.org/library/files/10principles.pdf
http://www.kunikoinoguchi.jp/article/pdf/0603_mainichi-forum.pdf
https://www.mhlw.go.jp/topics/2003/bukyoku/koyou/r1.html
小泉改造内閣の評価と課題
https://www.nhk.or.jp/bunken/summary/research/report/2006_01/060106.pdf
平成期の社会保障改革を振り返る-少子高齢化と財政悪化が進んだ30年間の変化を追う ニッセイ基礎研究所 三原 岳
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=62020?pno=4&site=nli
少子化対策へ「3本の矢」 首相、少子化相に指示 2013/04/04 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXNASFS04007_U3A400C1EB1000/
安倍首相「少子高齢化への対応がアベノミクス最大の挑戦」2017/10/23 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXLASFL23HLO_T21C17A0000000/
第2次岸田第2次改造内閣発足等について岸田内閣総理大臣記者会見(全文)
https://www.jimin.jp/news/press/206628.html