1)エコシステムロコロジー
20年前から、生態学は、貴重種の生態学から、エコシステムのエコロジーに進化しました。
生態学のセントラルドグマは、個体群とエネルギーシステムで、微分法方程式で表わされます。
生態学は、適切な生態系システムを設計する学問であり、中心は、デザイン思考です。
2)Restoration
Restorationは、環境を復元する意味で使います。
日本の語の復元は、元に戻す意味です。
これからすると環境を復元するとは、土地利用を元に戻すように思われます。
例えば、ダムを撤去する、土地を氾濫原(湿地)に戻すようなイメージです。
しかし、Restorationには、土地利用を元にもどすという意味はありません。
エコシステムエコロジーの中のRestorationは、機能回復の意味になります。
河川地形は変動して、土地利用も変化していきます。
特定の位置を湿地に戻すことには、意味はありません。
意味があるのは、河川流域の機能を回復することです。
河川には、氾濫原は必要ですが、その場所は移動します。
それに合わせて生物種も変化します。
さらに、生物種は交代もあります。
もといた場所に特定の生物を戻すことは、変化する河川流域のダイナミックスを無視していますので、生態学的に正しい復元ではありません。
河川を調査すれば、特定の位置で特定の生物を採取した記録が残ります。
次に、その位置の特定の生物の個体数が減少したとします。
その生物が絶滅危惧種であれば、元に戻せと主張する人がいます。
これは、エコシステムエコロジーの生態学では、間違った主張です。
健全な生態系は変化します。
その変化を止めないで、変化のバランスをどこでとるかという問題は、デザイン思考の問題であり、微分法方程式で計算される生態系のイメージなしに、理解できません。
アメリカでは、オオカミがカナダから再導入されています。
ここにも、捕食者の機能を回復するというRestorationの理解があります。
エコシステムエコロジーの生態学は、生態系の機能回復のデザインをする学問です。
3)イエローストーン公園のクマの個体数管理
1931 年以来、公園管理者はイエローストーンで毎年平均 48 件のクマによる人身事故と 100 件以上の物的被害を記録しました。1960 年、同公園は主にツキノワグマを対象としたクマ管理プログラムを実施し、クマによる人身事故や物的損害の数を減らし、クマを自然な状態に戻すことを目的としました。
最近の進捗状況
人的負傷は、1960 年代には年間 45 件でしたが、2000 年代には年間 1 件に減少しました。
物的損害賠償請求は、1960 年代の年間 219 件から、2000 年代には年間平均 15 件に減少しました。
殺処分または公園から撤去しなければならないクマの数は、1960 年代には年間平均 33 頭のツキノワグマと 4 頭でしたが、2000 年代には平均で年間平均 0.34 頭のツキノワグマと 0.2 頭のハイイログマに減少しました。
個体管理は、次のような基準によって行なわれています。
これは、デザイン思考です。
表1 ハイイログマ回復計画: 個体数監視基準 (2017 年改訂)
基準は満たされましたか? |
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人口目標 |
2013年 |
2014年 |
2015年 |
2016年 |
2017年 |
2018年 |
2019年 |
人口監視地域(Demographic Monitoring Area、DMA)の人口が 674 人以下の場合、独立年齢のメスと扶養家族の若者の合計死亡率は 7.6% を超えず、独立年齢のオスの死亡率は 15% を超えてはなりません。 (2017年に制定された基準) |
NA |
NA |
NA |
NA |
Yes |
Yes |
Yes |
DMA の人口が 674 人から 747 人の場合、独立した年齢のメスと扶養されている若者の合計死亡率は 9% を超えず、独立した年齢のオスの死亡率は 20% を超えてはなりません。 (2017年に制定された基準) |
NA |
NA |
NA |
NA |
Yes |
Yes |
Yes |
DMA の人口が 747 人を超える場合、独立した年齢のメスと扶養されている若者の合計死亡率は 10% を超えず、独立した年齢のオスの死亡率は 22% を超えてはなりません。 (2017年に制定された基準) |
NA |
NA |
NA |
NA |
Yes |
Yes |
Yes |
独立した年齢のメスの総死亡率の推定割合は 7.6% を超えない。 (基準は2017年に更新されました) |
Yes |
Yes |
Yes |
Yes |
NA |
NA |
NA |
独立した年齢のオスの総死亡率の推定割合は 15% を超えない。 (基準は2017年に更新されました) |
Yes |
Yes |
Yes |
Yes |
NA |
NA |
NA |
扶養されている若者の人的原因による推定死亡率は 7.6% を超えない。 (基準は2017年に更新されました) |
Yes |
Yes |
Yes |
Yes |
NA |
NA |
NA |
回収エリア内の 18 のクマ管理ユニット (BMU) のうち 16 は、子を連れたメスによって占有されなければなりません。 6 年間の平均観測期間中に、隣接する 2 つの BMU が空になることはありません。 |
Yes |
Yes |
Yes |
Yes |
Yes |
Yes |
Yes |
毎年48頭のメスが子どもを産むという人口統計上の目標。 |
Yes |
Yes |
Yes |
Yes |
Yes |
Yes |
Yes |
DMA 内のクマの推定人口が 500 頭以上。 (2014 年に制定された基準) |
NA |
NA |
Yes |
Yes |
Yes |
Yes |
Yes |
<< 引用文献
Bear Managemen
https://www.nps.gov/yell/learn/management/bear-management.htm
Yellowstone Grizzly Bears: Ecology and Conservation of an Icon of Wildness
Editors: P.J. White, Kerry A. Gunther, and Frank T. van Manen
https://www.nps.gov/yell/learn/nature/upload/Yellowstone_Grizzlies_Web.pdf
>>
4)日本の資源管理
2023年には、日本国内では、過去最多のクマの事故が起こりました。
しかし、日本のクマの資源管理には、エコシステムエコロジーの科学的な視点は、入っていません。
エコシステムエコロジーの資源管理とは何かは、イエローストーン公園のクマの個体数管理をみれば、理解できます。
この資源管理は、1960年から、70年以上続けられています。
管理は、精密なエビデンスデータに基づいています。
クマの生息数を把握して、適切な個体数を、デザインして管理しています。
個体数管理には、性別、年齢も配慮されています。
イエローストーン公園は、「人的負傷は、1960 年代には年間 45 件でしたが、2000 年代には年間 1 件に減少しました」といいます。
日本のクマの個体数管理は、科学的なデザイン思考にはなっていません。
2023年には、何人かの人が、クマに襲われて、命を落としました。
マスコミは、捕獲頭数の大小を問題にしますが、問題は、個体数管理の科学的なデザイン思考の欠如にあります。
マスコミは、生態学を理解していないので、科学的に間違った記事を書きます。
少なくとも、記事は、問題解決のデザイン思考とは無縁です。
奈良市のシカも個体数が増えていますが、個体数管理はなされていません。
過疎地域で、人口が減れば、害獣の数は増えます。
これは、エコシステムのバランスの問題です。
人口が減っただけ、害獣に負荷を変えなければ、バランスが崩れます。
生態学のデザイン思考の欠点が、人命にも影響しています。
補足:
帰納法や経験は科学ではありません。科学の基本はデザイン思考(仮説)と検証です。
この間違いが、多く見られます。