エコシステムベースマネジメントと水利権~水と生物多様性の未来(3)

(エコシステムベースマネジメントは、水利権のルールの変更を求めます)

 

水の未来を考える上で、配分ルールは、避けて通れない課題です。



2022/06/18のロイターに、渇水と水利権の問題が出ていました。

 

記事の前半は、渇水で断水が続いて、水道から飲み水が手に入らない住民の話です。

 

後半には、その原因として、水利権の問題があると記事は述べています。

 

その部分の要約を以下に示します。

 

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<水利権の問題>

 

州当局を相手取った権利侵害の申し立てがある一方で、住民の怒りの大半は、大企業、そして大企業への供給を割り当てている水利権に向けられている。

 

メキシコ国立自治大学のゴンサロ・ハッチ・クリ教授は「企業に与えられている水利権の量と、家庭の利用者向けに割り当てられている量に、大きな格差がある」という。

 

水利権は、連邦機関である国家水委員会(CONAGUA)により与えられており、1世紀も前にさかのぼるものもある。

 

ヌエボレオン州では、CONAGUAは、工業部門向けに州内の水資源全体の4%を採取する水利権を認められており、これは家庭向けの割り当て分の約100倍に相当する。それ以外は、農業及び公共部門へ割り当てられている。

 

ハイネケンコカ・コーラを含む炭酸飲料・ビール大手5社は、ヌエボレオン州の工業部門の水の16%を採取している。

 

ハイネケンは、ヌエボレオン州で同社が掘削した井戸のうち28カ所を家庭用として寄付し、州内での深井戸の新規掘削のために2000万ドルを投資しているという。

 

州内の産業団体であるCAINTRAのロドリゴ・フェルナンデス総裁は、「州内の企業は市内15カ所で井戸の再生に協力しており、自社の井戸から採取した水の25%を家庭向けに提供している。貢献量は、年間2000万立方メートル前後になり、6万世帯に1年間供給するのに十分な量である」と説明した。

 

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ここで、エコシステムベースマネジメント(EBM)に戻って、水利権の問題を考えてみます。

 

水利権の何が問題でしょうか。EBMでも、生態系サービスの金銭換算によって、総便益の最大化を目指します。

 

EBMは、水利権が、資源配分の固定化を起こし、その結果、総便益が減少するのであれば、配分ルールを見直すべきであると考えます。もちろん、無条件に、水利権を取り上げる訳ではありません。渇水の程度は、降雨、利用する人口、産業、生態系によって変化します。生態系サービスで考えれば、氾濫原には、水質浄化機能がありますので、氾濫原を埋め立てて、工場や、太陽光パネルを設置すれば、水質が悪化します。この悪化は、下水処理場で対応できるかもしれませんが、その場合には、本来は埋め立てた主体が支払うべき下水処理費用が、所得移転されたことになります。このような点も考えて、生態系サービスの金銭換算によって、総便益の最大化を目指すことになります。

 

水利用への過度の市場原理が渇水の原因であって、水利権が悪者のような記事がよく見られますが、生態系サービスでは、外部経済と外部不経済を最大限に内部化しますので、原理的には、過度の市場原理の問題は発生しません。

 

また、日本の河川法のように、公水は経済評価しない立場ではありません。

 

生態系サービスの最大化では、法律はフレームワークを決めるだけで、実際の配分は、スタークホルダーが協議してきめます。法律は、その協議手順を定めることになります。

 

イメージしやすいように例をあげます。選挙の前になると1票の格差が問題になります。裁判所は、選挙が終わったあとで、その格差が合憲かの判断をします。しかし、あとから選挙をやり直すことは、手間とコストの面で、非常に困難です。

 

こうした場合、法律に、数値そのものを書くことは馬鹿げています。次のような対応が考えられます。

 

人口予測では、イミグレーションの予測は難しいですが、死亡率と新規の有権者数の予測はかなり正確です。

 

(1)選挙区の見直しの期間を例えば、2年毎と決めます。

 

(2)2年後の予測で、1票の格差が、ある閾値を越える場合には、選挙区割りの改訂に着手するルールにします。

 

(3)選挙区の区割りをしなおします。

 

(4)選挙の時に、1票の格差が、閾値を越えた場合には、その選挙区の選挙を無効にするか、補正をします。補正には、例えば、格差が2.00を超えた場合には、比例区から、暫定で定員を1割り振る方法などが考えられます。

 

これは1例です。要点は、違反状態が起こってから事後に対処するのではなく、事前に予防すること、法律は数字ではなく、アルゴリズムを記載することです。

 

話を戻します。

 

これから、DXに向けて、法律を改正する必要が出てきます。

今までのように、法律でDXが出来ないようにすれば、経済は死んでしまいます。

 

こうすると違法ではないが、DXができない経済が壊れた開発途上国が出来上がります。

 

これを避けるには、憲法の精神に立ち戻って、あるべき法律のビジョンを作りなおして、法律は、アルゴリズムを定めるものに変える必要があります。

 

たとえば、生態系サービスの便益を最大化するためのアルゴリズムには、微分が含まれます。現在の法律は、水利権のように、微分不可能は、テーブルで構成されていますが、これは、全く不合理です。

 

電車の料金は、プリペイドカードで払うので、テーブルをやめて、1円単位で決まっています。料金は、テーブルでなく、連続関数にした方が簡単です。

 

水利権なども、同じように、アルゴリズムで、規定する方が合理的なはずです。

 

エコシステムベースマネジメント(EBM)の導入に伴い水利権のルールは変わるはずです。

 

水の未来は、これを前提に検討を進めます。

 

引用文献

 

アングル:水巡る「格差」に怒り広がる、干ばつ深刻化のメキシコ  2022/06/18 ロイター

https://jp.reuters.com/article/mexico-water-idJPKBN2NX07W