レジームシフトの概念
(レジームシフトの概念の説明をします)
1)レジームとは何か
本書で使うレジームの概念は生態学から引用しています。経済学者や社会学者がレジームの概念をどの程度つかっているのか、筆者はよく知りません。
生態学のレジームの概念も、時代とともに、ブラッシュアップされ、同じ単語でも、指し示す内容が少しづつ変化していますが、ここでは、最新の生態学のレジーム概念を使います。本書では、厳密さより分かり易さを優先した説明をします。
1-1)エコシステム
あるエリアに棲息している生物のグループとその自然条件をエコシステムと呼びます。エコシステムを構成する生物と自然には、相互依存性があります。(注1)エコシステムには、システムが外的および内的環境の変化を受けても、物理・化学・生物状態を一定範囲内に調整し、恒常性を保つホメオスターシスがあります。レジリエンスがあるということもあります。しかし、外的および内的環境の変化がある閾値を越えると、レジリエンスは機能しなくなります。この場合には、非可逆的な変化が起こってしまい、原因となった外的および内的環境を取り除いても、環境は元に戻りません。
ホメオスタシスを基準にしたエコシステムの状態をレジームと呼びます。外的および内的環境の変化がある閾値を越えなければ、ホメオスタシスが機能して、エコシステムの状態(環境)は、ある値の周辺を変動します。この状態をレジームと言います。環境の変化がある閾値を越えると、レジリエンスが機能しなくなり、環境が大きく変化します。変化した後の環境は、別の値の周辺を変動します。これを、環境が新しいレジームにシフトしたと呼びます。
古いレジームから、新しいレジームへのシフトは瞬時に起こる訳ではありませんが、かなり短期間で移行します。この移行の初期の段階であれば、レジームシフトの原因である外的および内的環境の変化を取り除けば、レジームシフトは起こらず、エコシステムは、古いレジームに止まります。
このようにエコシステムにおいては、レジームシフトを避けることで、低いコストで、環境を保全できます。
1-3)社会システムのエコロジー
人間の社会システムのエコシステムの一部です。エコシステム・エコロジーでは、人間の社会システムを含んだエコシステムを考えます。人間の社会システムには、経済活動、紛争なども含まれますので、エコシステム・エコロジーは、生物学ではなく、生物学を一部に含むビッグサイエンスです。
一般に、生物多様性では、エコシステムのレジームシフトをどうして防ぐかに関心があります。
一方、DXにおいては、デジタル化以前の社会システム(旧エコシステム、旧レジーム)から、デジタル社会(新エコシステム、新レジーム)へのレジームシフトを如何にスムーズに達成するかが課題になります。
生物多様性とDXはこの点では違いますが、レジームシフトを起こすエコシステムの性質は共通です。
つまり、レジームシフトを起こすには、閾値を越えた外的および内的環境の変化が必要で、これがドライビングフォースになります。レジームシフトは瞬時ではありませんが、かなり短時間におこります。言いかえれば、時間をかけてゆっくりDXを進めることはできません。外的および内的環境の変化が閾値以下であれば、その変化はホメオスターシスによって帳消しになってしまいます。レジームシフトを起こすには、短時間に大きな環境変化を与えることが必要です。幕末の黒船の到来のようなある種のショック療法が必要と考えられます。
1-4)社会レジームの概念
自然のエコシステムは保全を目指し、変化させないことを目指しますが、社会システムは、時代とともに変化します。そのドライビングフォースは、エネルギーや、技術です。エネルギーも技術の一部と考えられますので、おおまかには、技術が、社会システムを変えます。その技術を作るのは人間ですから、技術を作る人間をどれだけ教育で生み出せたかが国力になります。(注2)
社会レジームは時代によって変わりますので、その一例を、表1に、例示します。
これは、草稿なので、今後の修正がありますが、社会レジームのイメージはつかめると思います。
農業時代のレジームから、工業時代のレジームに、社会エコシステムが変化することは容易に理解できると思います。
表1は一見すると次のように見えます。
エコシステムは、エコシステムを構成する変数名のベクトルであり、レジームが、ベクトルの変数の値を示すと見ることができる。
エコシステムは、「エネルギー、リテラシー、、、」のメソッドを指し、レジームは、「木材、文字以前、、」といったインスタンスを指すとみることができる。
例えば、平均寿命については、この理解が正確に当てはまるような気がします。
しかし、表1は、値は例示なので、この理解は正しくありません。
現在は、工業時代の終わりに位置していると思われます。
先進国の男女平均寿命は70歳以上です。例外は、アメリカの66.1歳です。
図1に平均寿命のヒストグラムを示します。分布の第1の山は70歳以上にあり、ここは高度な医療を受けることができる国です。
第2の山は67歳くらいにあります。第2の山のレンジは、58歳から69歳にあります。ここには、アメリカ、中国、北朝鮮などが含まれます。中進国が多いグループです。一応の水準の病院や医療が整備されている国が入っていると思われます。
第3のグループは、58歳以下で、ピークがあるというよりなだらかに減少しています。このグループは、国内が不安定で、病院などの整備が進んでいません。
以上では、ヒストグラムを基に、3つのグループに分類を試みました。簡単に言えば、先進国、中進国、発展途上国といったイメージです。
これでも、先進国と発展途上国の2分類よりはマシですが、言葉で、ラベリングすると連続分布を無理に2分してしまうバイナリーバイアスが生じます。
エネルギー、リテラシー、データ、通信などに、年齢と同じような値を当てはめれば、1つの国のデータは、9次元の点(9つの値のセット、9次元のベクトル)になります。
195か国で、この処理をすれば、9次元空間の195個の点が得られます。これに、クラスタリングをかければ、195カ国はいくつかのクラスターに分かれます。
この扱いの方が、先進国と発展途上国の2分類よりはかなり、まともであり、次元を上げることで、年齢だけで分類するより、識別が容易になります。
そこまでのイメージを確認した上で、以下では、いいかげんですが、話を分かり易くするために、以下では、先進国と発展途上国の2分類で話を進めます。
そうすると、レジームは、農業時代の先進国、農業時代の発展途上国、工業時代の先進国、工業時代の発展途上国、デジタル時代の先進国、デジタル時代の発展途上国に分けて考えられます。
今回は、ここまでです。次回は、レジームシフトを扱います。
健康寿命世界ランキング・国別順位(2022年版)
https://memorva.jp/ranking/unfpa/who_whs_healthy_life_expectancy.php