キッシンジャー氏と正解のない世界(改訂版)

1)キッシンジャー氏の逝去

 

2023年11月29日に、ヘンリー・キッシンジャー氏が逝去しました。

 

キッシンジャー氏の活動には功罪があり、評価は人によって異なると思われます。

 

しかし、キッシンジャー氏の外交が現在の世界秩序(秩序と呼べるかは別にして)を構築する大きな要素になったことを認める人は多いと思います。

 

キッシンジャー氏の外交がなければ、現在の世界秩序は異なっていたはずです。

 

なお、データサイエンスは、歴史にIFはないという立場はとりません。

 

統計学は、現実の世界は、可能世界の1つと考えますので、「キッシンジャー氏の外交がなければ」と考えることは、重要な検討事項になります。

 

キッシンジャー氏の外交は、デザイン思考に基づいています。

 

帰納法では、キッシンジャー氏の外交は生まれませんでした。

 

2)正解のない世界

 

中教審答申「令和の日本型学校教育」の中では、全ての子供たちの可能性を引き出す個別最適な学びと協働的な学びの実現として「『正解主義』と『同調圧力』からの脱却」が謳われています。

 

しかし、この表現自体が、「『正解主義』と『同調圧力』からの脱却」が正解であるという正解主義や、「『正解主義』と『同調圧力』からの脱却」が、同調圧力に屈しているように見えます。

 

正解主義からの脱却が必要な理由を、理論的に説明していれば、それは、「同調圧力」に屈していることにはなりません。一方、欧米の教育に取り入れられているという前例主義が根拠であれば、それは、「同調圧力」に屈していることになります。

 

『正解主義』からの脱却という表現には、目的や目標が設定されていませんので、

同調圧力』からの脱却ができているようには思えません。

 

文部科学省の「新しい学習指導要領の考え方」の「予測困難な時代に、一人一人が未来の創り手となる」には、正解主義に関連して次のよう記述があります。

 

人工知能がいかに進化しようとも、それが行っているのは与えられた目的の中での処理である。一方で人間は、感性を豊かに働かせながら、どのような未来を創っていくのか、どのように社会や人生をよりよいものにしていくのかという目的を自ら考え出すことができる。多様な文脈が複雑に入り交じった環境の中でも、場面や状況を理解して自ら目的を設定し、その目的に応じて必要な情報を見いだし、情報を基に深く理解して自分の考えをまとめたり、相手にふさわしい表現を工夫したり、答えのない課題に対して、多様な他者と協働しながら目的に応じた納得解を見いだしたりすることができるという強みを持っている。

 

まず、この文章は、筆者には、よく理解できません。

論文試験では、合格できないレベルに感じます。

文章の基本は、主語と述語を明確にすることと、短文を使うことです。

 

その条件にあてはまりませんので、筆者の能力不足だけの問題ではないと思います。

 

上記のパラグラフを筆者なりに要約すると以下になります。

 

人間は、人口知能はできない目的を自ら考え出すことができる。

 

人間は、答えのない課題に対して、答え(納得解)を見いだすことが出来る。

 

2番目の文章は、「答えのない課題」と「答え(納得解)」のインスタンスが無ければ、意味のない文章です。

 

正解主義の問題点を、野口 悠紀雄氏は次の様に書いています。

 

実際の社会では、問題が与えられていません。問題は、自分で探さなくてはなりません。適切な問題を見出すことこそが、重要です。研究者の場合には、何を研究テーマにするかが最も重要です。それを間違えると、一生を棒に振ってしまいかねません。

 

ここでは、「何をテーマにするか」がポイントであると要約されています。

 

筆者には、野口 悠紀雄氏の文章は理解できますが、「新しい学習指導要領の考え方」は理解不可能です。

 

これは執筆者は、オブジェクトのインスタンスを理解できていないためと思われます。

 

文部科学省の資料は、読んでも時間の無駄にみえます。

 

大前研一氏は、「文部科学省主導で教育制度を変えるというのでは、大幅な改革は無理でしょう」と、諦めて、部科学省主導を検討対象外にしています。

 

中教審のように、オブジェクトを振り回しても、形而上学になって、時間の無駄になります。

 

そこで、どうしたら、キッシンジャー氏のようなデザイン思考ができるか、正解のない問題を取り扱えるかを考えます。



3)正解のない問題

 

れいわ新選組代表の山本太郎氏は、文藝春秋2020年2月号に「消費税ゼロで日本は甦る」という政策論文を投稿しました。

 

これに対して、森信 茂樹氏が、コラムで、「れいわ新選組『消費税ゼロ』の実現可能性を探る」という反論を書いています。以下に、一部を引用します。



 

法人税増税の結果企業が製品やサービス価格を引き上げれば、負担は消費者(顧客)に転嫁される。従業員の給与を引き下げれば従業員が、配当を縮減すれば株主が負担することになる。中期的に見ると、法人負担の増加は資本の収益率を低下させ、投資や生産性が低下し賃金カット・失業者の増加が生じ、結局国民全員が影響をこうむることになる。

 

個人と法人は、同じ船に乗る利益共同体である。われわれ個人は、労働の対価として法人から賃金を受け取る。投資からの対価として、法人の配当や株式譲渡益を受け取る。銀行に預金して利子を受け取るが、その原資は法人への貸付である。このように、われわれが受け取る付加価値は、法人が稼いで個人に支払われている。その法人をいじめて、個人が繁栄するはずがない。(注1)

 

「消費税ゼロ」というれいわ新選組の政策には、論理的な根拠が欠けており、これでは支持は広がらないだろう。

 

かつて民主党が、「財源はなんぼでもある」(小沢代表・当時)と公言し、子ども手当の大盤振る舞いなどを公約して政権を取ったが、財源問題から実行できず再び政権交代をした。(注2)このとき国民が認識したのは、「根拠のないポピュリズム政策・政権は長続きしない」という冷酷な事実である。そしてこれが、今日まで続く自民一強の最大の理由となった。

れいわ新選組が勢いのある政党として長続きするためには、政策の実現可能性を磨く必要がある。

 

 

法人税増税に反対する部分の記載には、根拠となるエビデンスがありません。法人税所得税、消費税率の組合せで、経済成長率が変わります。単純に一つの税の種類だけで、論ずることはできません。

 

森信 茂樹氏の根拠は、帰納法です。しかし、税率や予算配分は、物理法則ではありません。過去の事例には、価値がありません。

 

イーロン・マスク氏は、「唯一のルールは物理法則によって決定されるものです。 それ以外はすべて(法則ではなく変更可能な単なる、筆者注)推奨です」といっています。



れいわ新選組代表の山本太郎氏は、貧困問題を解決するための方法として「消費税の廃止」を提案しています。

 

山本太郎氏は、経済の専門家ではないので、「消費税の廃止」には、間違いがあることを承知していると思います。

 

森信 茂樹氏は、過去の事例を熟知している専門家です。

 

しかし、マスク氏が言うように、物理法則以外の人間が作ったルールは、変更可能です。

 

現行の人為ルールの中で、消費税だけを変更すれば、森信 茂樹氏指摘するように政策の実現可能性は低いでしょう。

 

しかし、消費税以外の人為ルールも変更することは可能です。

 

森信 茂樹氏は、現状追認になっています。

 

森信 茂樹氏に限らず、帰納法を研究手法とする研究者は、科学的な根拠もなく、現状追認をするバイアスをもっています。

 

山本太郎氏は、貧困問題を解決して、経済成長をするには、どうしたら良いかという問題を提起しています。

 

森信 茂樹氏は、貧困問題は論ぜず、経済成長に問題はないという現状追認になっています。

 

森信 茂樹氏は、民主党が失敗した例をあげています。しかし、可処分所得が減り続け、貧困率が増加し続ける自民党の政治が成功しているとはいえないと思います。

 

政治は、典型的な正解のない問題です。

 

民主党が失敗し、自民党が成功したとは言えません。

 

森信 茂樹氏は、帰納法を研究手法として、過去の事例に中に正解を探しているように見えます。

 

さて、正解はないので、結論は書きません。

 

ここで問題にしたいのは、正解のない問題のインスタンスとは、山本太郎氏と森信 茂樹氏の論争のようなものだという事です。

 

「正解のない」という表現の中には、明らかな間違ってあっても、とりあえず先に進むか、現状に止まるかといった判断が含まれています。

 

GPSがない時代の道に迷った時の判断に似ているかも知れません。

 

話を、キッシンジャー氏に戻します。キッシンジャー氏が、「正解のない」問題にどのように、対処したかを、考えてみることは有益だと思います。

 

注1:

 

これは、労働市場を認めない考え方なので、資本主義ではありません。

 

注2:

 

森信 茂樹氏の以下の指摘は正しいと思います。

かつて民主党が、「財源はなんぼでもある」(小沢代表・当時)と公言し、子ども手当の大盤振る舞いなどを公約して政権を取ったが、財源問題から実行できず再び政権交代をした。

問題は、その原因が、「根拠のないポピュリズム政策」とは断定できない点にあります。

 

民主党の財政政策は、藤井裕久氏が担当しました。

 

経歴は、ウィキペディアによれば、以下です。

 

藤井氏は、財務省経験者で、1993年までは、自民党の議員でした。

 

つまり、財源問題から実行できなかっら原因は、財塗省の官僚や自民党が、財政問題を正確に把握していなかったことが原因である可能性があります。

 

現状の前例主義の現状の税収システムを微調整するのであれば、何が起こるかは、素人でも予測でできます。

 

民主党は、新しい徴税システムを構築できると主張して、失敗しました。

 

筆者は、その原因は、藤井裕久氏が経済モデルやデータセイエンスを理解できなかった点にあると考えます。

 

官僚として:

 

東京大学卒業後、大蔵省(現財務省)に入省。振り出しは大臣官房文書課。田中角栄政権で内閣官房長官を務めた田中側近の二階堂進田中派の中堅として頭角を表し始めていた竹下登両長官の秘書官を務める。この田中角栄の側近中の側近と、田中派の中堅として頭角を表し始めていた二人の知遇を得たことが政治家に転身する一つの契機となった。1976年(昭和51年)6月18日、大蔵省主計局主計官を最終役職として退官。 



政治家として

 

参議院議員(2期)]、衆議院議員(7期)]。大蔵大臣(第98・99代)、財務大臣(第12代)、内閣官房副長官内閣総理大臣補佐官自由党幹事長兼政策調査会長民主党幹事長、民主党代表代行、民主党最高顧問を歴任。

 

引用文献

 

Elon Musk's 'Algorithm,' a 5-Step Process to Dramatically Improve Nearly Anything, Is Both Simple and BrilliantJ ust make sure you follow the steps in order. 2023/09/27 INC.COM Jeff Haden

イーロン・マスクの「アルゴリズム」は、ほぼすべてのものを劇的に改善するためのシンプルかつ素晴らしい5ステップのプロセスです。必ず手順に従ってください。

https://www.inc.com/jeff-haden/elon-musks-algorithm-a-5-step-process-to-dramatically-improve-nearly-everything-is-both-simple-brilliant.html



新しい学習指導要領の考え方 文部科学省

https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/__icsFiles/afieldfile/2017/09/28/1396716_1.pdf

 

「消費税ゼロ」で日本は甦る! れいわ新選組山本太郎が考えていること。 2021/01/12 文芸春秋 

https://bungeishunju.com/n/n7830b81c8b75

 

れいわ新選組「消費税ゼロ」の実現可能性を探る- 連載コラム「税の交差点」第71回

https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=3323



問題を与えられないと解けない…日本の「受験秀才」が実社会で成功しない根本原因  2023/05/24 President 野口 悠紀雄

https://president.jp/articles/-/69314

 

21世紀型、答えのない時代の教育とは 2025/09/30 Business Journal 大前研一

https://newspicks.com/news/1180317/body/