日本の崩壊の予兆(改訂版)

1)ソ連の崩壊

 

当時25歳のエマニュエル・トッド氏は、1976年に出版した「最後の転落、ソ連崩壊のシナリオ」で、ソ連の崩壊を予言しました。

 

ソ連の崩壊は、ミハイル・ゴルバチョフ氏の辞任に伴って1991年に生じています。

 

その間のタイムラグは、15年あります。

 

トッド氏は、第1に「乳児死亡率」に注目します。低下していた乳児死亡率は、1971年~1974年に、上昇に転じ、それ以降は発表されなくなります。

 

トッド氏は、第2に、1964年以降、ソ連の男性平均寿命が減少していることにも、問題を見つけます。(注1)



トッド氏は、乳児死亡率の上昇と男性平均寿命の減少は、ソ連の体制に問題が生じている証拠であると判断し、ソ連の崩壊を予測しました。



2)日本人の平均寿命

 

2021年、2022年と続いて、日本人の平均寿命が短縮しています。

 

2022年の男の平均寿命(0歳の平均余命)は 81.05年、女の平均寿命は87.09年となり前年と比較して男は0.42年、女は0.49年下回りました。平均寿命が前年を下回るのは、2021年に続き2年連続で、下回り幅は2021年よりも拡大しています。



その原因は、コロナウイルスで説明されることが多いのですが、 森永卓郎氏は次の様にいいます。(筆者要約)

 

2022年の平均寿命は、前年と比べて男性0.42年縮んでいますが、厚生労働省寄与分析では、新型コロナの影響は0.12年です。女性も、ほぼ同様です。平均寿命の短縮の3分の2以上は、新型コロナ以外の要因です。

 

 近年、高齢者が医療や介護サービスを利用する際の自己負担が、どんどん引き上げられている。そのため、お金がなくて、体調が悪化しても医療にかかれず、介護サービスを利用できない高齢者が増えているのではないでしょうか。

 

 すべての政策の評価は、平均寿命に集約されると言われます。その意味で、岸田政権の政策は、これまで最悪の結果をもたらしています。岸田政権が続く限り、短命化は続くのではないでしょうか。

 

乳児死亡率のデータは、2021年が、1.7%、2022年は、1.8%で、若干増加しています。

 

平均寿命と乳児死亡率の変化量は、まだ小さいので、トレンドが確定してはいません。

 

3)日本の貧困

 

厚生労働省の「2019 年国民生活基礎調査」によると、2018年の貧困線は127万円となり、相対的貧困率は15.4%と報告されています。年次推移を見ると、1985年の12.0%、1994年が13.8%、2000年が15.3%となっており、2000年代に入り上昇傾向にあります。

 

OECD加盟国の相対的貧困率データによると相対的貧困率の高い順に並べた場合、日本はOECD加盟国30カ国中4位、日米欧主要7カ国(G7)内では7カ国中アメリカに次ぐ2位となっています。

 

日本以外のOECDとG7の国は、移民を受け入れていますので、その影響を勘案すれば、日本の貧困率は突出しています。

 

日本における子どもの貧困率は1990年代半ばから上昇しており、「2019年国民生活基礎調査」で報告されている2018年の相対的貧困率は、全体で15.4%、子どもで13.5%となっています。つまり、7人にひとり(255万人)が相対的貧困状態にあります。

 

厚生労働省の全国ひとり親世帯等調査(2016年度)によると、約142万のひとり親世帯のうち、約86%が母子世帯で、その4割超が非正規労働とされています。世帯別の相対的貧困率は、ひとり親世帯が48.3%で、二人親世帯の11.2%を大幅に上回っています。

 

2014年には「子どもの貧困対策の推進に関する法律」が成立し、次のような対策が進められています。

 

a.教育の支援:幼児期から高等教育まで、教育費の負担を軽減します。

 

b.保護者の就労の支援:ひとり親などの就労、学び直しや職業訓練を支援します。

 

c.生活の支援:親の妊娠期から暮らしの課題・悩みを解決します。

 

d.経済的な支援:生活費や進学などに必要な支出を支援します。

 

しかし、これらの対策は、同一労働同一賃金でない人権侵害の非正規雇用等の貧困の原因の解消ではありません。

 

多くの貧困の原因は、個人の努力不足ではなく、社会の格差構造や権利保障の欠如です。

 

正規非正規規雇用の賃金格差をなくす法律、ジエンダー差別をなく法律はありますが、それらの法律は守られていません。

 

正常な労働市場がありませんので、貧困層の人が努力しても所得は増えません。

 

所得は、ブランド大学の卒業資格、大企業などの企業ブランドで決まってしまいます。

 

一旦、これらのブランドの取得に失敗すると、再チャレンジの機会は殆どありません。

 

貧困は、結果の平等がない状態を意味しますが、機会の平等がないことが貧困の原因になっています。

 

パートタイム・有期雇用労働法が、2021年4月1日より、労働者派遣法が、2020年4月1より施行されていますが、違法状態を取り締まる機関や罰則はありません。

 

逆に、これらの法律は、事業主を支援しています。

 

違法状態を取り締まらずに、行政指導することは、一時的な違法状態を認めることになります。アジリティが悪くなり、問題解決が遅くなります。

 

法律は、違法状態に対する罰則がなければ、守られません。

 

一旦、これらのブランドの取得に失敗すると、再チャレンジの機会がない社会は、個人の能力が発揮できない社会です。

 

こうした社会では、企業が適切な人材活用をしないので、生産性が上がりません。これは、株主利益を損ないますので、広い意味では、株主に対する背任になります。

 

SDGsの「17の目標」の目標1「貧困をなくそう」、目標2「飢餓をゼロに」、目標3「すべての人に健康と福祉を」、目標5「ジェンダー平等を実現しよう」、目標10「人や国の不平等をなくそう」、目標16「平和と公正をすべての人に」などは貧困問題に関係しています。

 

日本の企業と政府は、SDGsの「17の目標」も無視している場合が多いことがわかります。

 

開催が危ぶまれている2025年の大阪万博は、SDGsの目標年である2030年の5年前であり、SDGsの達成に向けたこれまでの進捗状況を確認し、その達成に向けた取り組みを加速させる絶好の機会になるといわれています。

 

しかし、貧困問題の現状をみれば、目標年の2030年にSDGsが達成されるとは、とても思えません。

 

貧困が拡大していけば、平均寿命が短縮しても、不思議ではありません。

 

4)崩壊の予兆

 

自民党・官僚・選挙支援企業のトライアングルの構造は、選挙支援企業に補助金または減税し、そのお金の一部で、政治献金天下り官僚を受け入れるシステムです。これは、産業振興の名目で、既存の企業に補助金を流すことでスタートします。

 

そこには、DXで生産性をあげて、賃金をあげる、産業構造を切り替える、労働市場を実現して正規・非正規、ジェンダー差別をなくす動機はありません。

 

この政策の目的は、生産性をあげることではなく、トライアングルを維持することにあるからです。

 

しかし、トライアングルが政策の目的ですとは言えません(言えば選挙に勝てない)ので、ウォシングが横行します。

 

たとえば、政府は、中小企業の生産性をあげるという名目で、自動化ロボットの導入費の6割を負担する計画です。

 

ここには、2つの選択があります。

 

第1は、政府の計画している補助金によって、ゾンビ企業を延命させる方法です。これは、過去に繰り返されてきました。

 

第2は、ペナルティを課す方法です。DXが遅れて生産性が低い企業、正規・非正規、ジェンダー差別のある企業については、法人税率を上乗せするなどのペナルティを課すことができます。

 

アジリティと財政負担を考えれば、効果の期待できない第1の方法をとるメリットはありません。

 

ゾンビ企業がつぶれるときには、より生産性の高い(賃金の高い)企業が出てきます。

 

第1の方法をとると、与党は選挙に勝てなくなります。選挙支援企業は補助金をもらえなくなります。官僚は天下り先がなくなります。

 

パートタイム・有期雇用労働法と労働者派遣法も、天下り温存のための違法状態の解消を遅らせる法律になっている疑惑があります。

 

これらの法律は、同一労働同一賃金ウォシングに見えます。

 

第1の方法をとると、無駄な支出がなくなるので、医療や介護サービスを減額する必要はなくなります。もし、平均寿命が短縮しているのであれば、短縮を止めることができます。

 

官僚の天下り先はなくなりますが、本当に優秀な官僚であれば、年功型雇用をやめても、就職先に困ることは無いと思われます。

 

以上のように考えれば、自動化ロボットの導入費の補助は、DXではなく、DXウォシングになっています。

 

東京大学の卒業生で、官僚希望者は激減しています。

 

東京大学の学生は、鉄のトライアングルは、持続可能ではないと考えています。

 

れいわ新選組山本太郎氏は2023年11月28日の参院予算委員会で、海外では最短1週間程度の短い準備で消費減税を導入したと主張し、「日本では半年、1年(を要する)と。ボンクラ議員は引退すべきだ」といいました。

 

筆者は、山本太郎氏の発言に問題がないとは思いませんが、アジリティの改善という視点は、重要だと考えます。

 

最短1週間程度の検討では、間違いが起こる可能性があります。

 

しかし、1年間検討しても、間違いが起こる可能性があります。

 

政府は、2021年に、「成長と分配の好循環」と実現するといいました。

 

しかし、それ以前には、「成長と分配の好循環」は検討されてこなかったのでしょうか。

 

冷静に考えれば、めまいがします。

 

科学的なプロセス管理であれば、それまでの政策の効果があった部分と効果がなかった部分を評価して、効果がなかった部分の改善計画をたてます。

 

円安で、見かけの株価は上がっていますが、GDPベースの経済や、全要素生産性は、伸びていません。つまり、「成長」は、観測されていません。

 

一方の「分配」は、貧困問題に見るように、失敗しています。

 

岸田政権の減税は、不人気です。

 

これは、減税ではなく、減税ウォシングであることを見透かされているからです。

 

ウォシングを使うことは、与党の常套手段になっています。

 

マスコミは、ウォシングを指摘しません。

 

ウォシングでは、補助金が流れますので、そのおこぼれを目指す人があふれています。

 

平均寿命の短縮が確定的になれば、日本でも、トライアングルの崩壊が起こると思います。

 

トッド氏が、「最後の転落、ソ連崩壊のシナリオ」を出版してから、ソ連の崩壊まで、15年かかりました。

 

しかし、あの時代のソ連では、外国の情報の入手は困難でした。海外に移住することも、制限されていました。旅行すら、出来ませんでした。

 

2023年の日本では、移住は自由です。既に、日本に見切りをつけたエンジニアも多くいます。

 

資金も海外に流れます。

 

人材と資金が流出し始めれば、ソ連崩壊の時のように、平均寿命の短縮から、政権システムの崩壊までの間に、15年ものタイムラグが生ずるはずはありません。

 

国会答弁を見ていると、野党もウォシングがお好きなようです。

 

崩壊が起こる場合、ソフトランディングの機会は、既に失われてしまったことを意味します。

 

世界銀行によれば、ソ連崩壊で、1989年に200万人だったロシアの貧困レベル(1日の生活費が4ドル以下)人口が、1996年には、7400万人に急増し、4人に1人に達しました。

 

企業の7割が倒産しています。

 

プーチン大統領の人気は、経済政策の成功にあります。

 

生産性の向上のできないソンビ企業や、生産性の向上に寄与する教育のできないソンビ大学を温存すれば、倒産が集中的に起こります。アジリティを下げて、問題を先送りすることは、将来のリスクを増加させます。

 

日本の行政は継続性が大事であるとして、アジリティを否定しています。科学は、検証によって仮説が否定され、代替仮説に入れ替わるアジリティの高い世界です。

 

1953 年らい予防法の改廃は、1996 年まで遅れています。行政は継続性は、人権無視状態を継続させてしました。

 

同様の法律は、他の先進国にもありましたが、日本だけは、改廃が極端に遅れています。

 

ハンセン病問題に関する検証会議」には、エビデンスに基づく科学的な意思決定や、アジリティの欠如の視点はありません。

 

正規・非正規、ジェンダー差別が温存される原因も、行政の継続性にあると思われます。

 

日本の行政には、間違い訂正するアジリティがありません。法律を作っても、違法状態が継続しています。

 

泉房穂明石市長は、「役所の人たちはみな、『お上至上主義』『横並び主義』『前例主義』という教義を守り通すことが、公務員の務めだと純粋に信じていた」といっています。

 

森永卓郎氏は、「岸田政権が続く限り、短命化は続くのではないでしょうか」といいます。

 

ウォシングを使ってトライアングルを維持すれば、生産性が上がらないので、賃金が増えません。

 

賃金が上がらなければ、貧困問題は解決しません。

 

2023年11月に、政府は2024年度税制改正で賃上げ促進税制を巡り、給与総額を前年度から5%以上増やした大企業向けの税優遇枠をつくる検討に入っています。3%前後で推移する物価上昇率を上回る賃上げを税制面から後押しする計画です。

 

この政策の目的は、トライアングルの維持のための大企業向けの税優遇枠にあると考えられます。賃上げは、見せかけの目的で、賃上げウォシングになっています。

 

賃上げが一番必要な人は、大企業ではなく、賃金の安い中小企業の労働者や、非正規雇用の人です。低賃金の原因は、労働市場がなく、同一労働同一賃金ではないことです。

 

貧困問題を放置して、平均寿命が短縮し続ければ、日本は、SDGsではなくなり、日本の崩壊が起こります。

 

日本でも、崩壊が起これば、ソ連と同様に、混乱のリスクがあります。

 

この点を考えても、海外で働いたり、海外で資産運用する人が増えても不思議ではありません。

 

注1:

 

ソ連の男性平均寿命のデータの出典が確認できていません。

 

「ロシアの平均寿命の推移」のデータは、必ずしも、減少傾向ではありません。



引用文献

 

大阪・関西万博とSDGs 大阪商工会議所

https://www.osaka.cci.or.jp/sdgs/expo.html

 

 600億のムダな公共事業を削減したら「殺すぞ」と殺害予告され……泉房穂明石市長が明かす「市役所という伏魔殿」 2023/11/29 現代ビジネス 鮫島 浩 泉 房穂

https://gendai.media/articles/-/118074

 

ロシアの平均寿命の推移

https://blog.hatena.ne.jp/computer_philosopher/computer-philosopher.hatenablog.com/drafts

 

乳児死亡など

http://home.b05.itscom.net/kisoh/nyujishibo.html

 

令和4年簡易生命表の概況

https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life22/index.html

 

森永卓郎の本音】短命化する日本人

https://news.goo.ne.jp/article/hochi/nation/hochi-20231125-OHT1T51369.html

 

ハンセン病問題に関する検証会議 最終報告書

https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/hansen/kanren/4a.html

 

第五 らい予防法の改廃が遅れた理由

https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/hansen/kanren/dl/4a17.pdf

 

日本の貧困問題について知り、今、私たちに何ができるのかを考えよう

https://www.worldvision.jp/children/poverty_29.html

 

同一労働同一賃金特集ページ

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000144972.html

 

世界の「貧困率」の現状 6人に1人が相対的貧困に直面する日本の実情とは  2022/11/09 ELEMINIST

https://eleminist.com/article/1253



れいわ・山本太郎代表「ボンクラ議員は引退すべき」と消費減税主張 2023/11/28 産経新聞 2023/11/18 日刊スポーツ 

https://www.sankei.com/article/20231128-PUVGPRWH25PSPOCMFUHTJ2VWYE/