カモフラージュと違法(12)

17)ゾンビ・ミーム

 

17-1)ドラキュラとゾンビの物語

 

ドラキュラは、血を吸われた人をドラキュラ(吸血鬼)にします。これは、ドラキュラの血の中にある(ウィルスの?)DNAが、人間を制御して、理性の制御を乗っ取って、ドラキュラ(吸血鬼、ゾンビ)にする過程です。

 

ドラキュラは、フィクションですが、自然界には、寄生体による宿主のゾンビ化は広く見られる現象です。

 

ドラキュラも、寄生体も、ゾンビ化は、DNAが引き起こしていると考えられています。

 

生物のDNAには、子孫を残すようなプログラムが組み込まれていると考えられています。

 

これは、DNAに子孫を残すようなプログラムが組み込まれている生物と、DNAに子孫を残すようなプログラムが組み込まれていない生物の2グループの生物を考えた場合、進化で生き残るためには、DNAに子孫を残すようなプログラムが組み込まれている生物の方が有利になるからだと言い換えることもできます。

 

DNAに子孫を残すようなプログラムが組み込まれている生物では、生物の個体は死亡しますが、DNAは子孫に引き継がれます。

 

この点で、生物は、DNAの乗り物と考えることもできます。



17-2)ミームの発明

 

進化で起こる現象は、DNAの子孫残すプログラムの仮説でかなり、上手く説明できます。

 

しかし、この仮説では、説明できない現象も観察されるようになりました。

 

ドーキンスは、幾つかの現象は、DNAのような分子の実在のないミーム(meme)を仮定すれば説明できると考えました。

 

中島秀之氏は、ミームを次の様に説明しています。

 

 

遺伝子は体をつくるが、ミームmemeは文化をつくる。そして遺伝子と同じように淘汰(とうた)によって次の世代へと引き継がれていく。ドーキンスは生物学における物理法則に匹敵するような普遍的法則として、「全ての生物は自己複製を行う実体の生存率の差に基づいて進化する」という原理を提唱している。ミームというのはドーキンスの造語であるが、この自己複製あるいは模倣の単位をさすギリシア語「mimeme」を「gene」と対になるように縮めたとしている。

 

 ミームは比喩(ひゆ)ではなく遺伝子と同じく実体である。実際の生物進化においても教育(文化の伝承)が体と同様に重要である例がいくつか示されている。たとえば、一部の鳥類の鳴き声、動物による狩りなどは遺伝子に書かれた情報ではなく、親から子への教育の結果であることが示されている。また、人間のもつ文化、とくに言語とそれによって語り継がれる物語、宗教などもミームである。

 

 

なお、最近は、インターネット上で様々な形に模倣・改変され広まっていく画像や動画、表現、コンテンツを意味する言葉としてのミームが、多様されています。

 

17-3)ゲマインシャフト

 

加谷 珪一氏は、日本経済の停滞の原因を次のよう述べています。(筆者の要約)

 

 

能力と実績を持った人物をリーダーに選び出せば、社会や経済は確実に良くなるだろうが、有権者は、世襲議員を積極的に国会に送り出している。

 

日本の政界は世襲によって成り立っている。

 

日本社会の構造は典型的な前近代的共同体(いわゆるゲマインシャフト)ということになる。日本は明治維新後、社会を近代化したことになっているが、精神的には江戸時代のままであり、近代国家になりきれていないとの指摘は、過去100年にわたって何度も繰り返されてきた。

 

 

加谷 珪一氏は、「精神的には江戸時代のまま」を、ゲマインシャフトが原因といっています。

 

しかし、ミーム理論では、日本人は、「江戸時代の精神のミーム」に支配されていると言い換えることも可能です。

 

世襲議員は「世襲ミーム」に支配された議員かも知れません。

 

言うまでもなく、「世襲ミーム」は、「江戸時代の精神のミーム」の一部です。

 

17-4)ゾンビ・ミーム

 

過去には、ある宗教団体が、集団自殺をしたこともあります。

 

ゾンビ化を引き起こすDNAがあるように、ゾンビ化を引き起こすミーム(ゾンビ・ミーム)もあるといえます。

 

つまり、ある人の行動は、倫理・経済合理性などの理性によって左右されることもありますが、ゾンビ・ミームによって支配される可能性もあります。

 

国会議員は、典型的な年功型組織です。採用は選挙によるので、大企業や官僚とは異なりますが、序列は、当選回数で決まる年功型で、派閥の論理でポストが決まります。

 

つまり、国会議員の行動は、「年功型組織のミーム」に支配されています。

 

「年功型組織のミーム」は、ゾンビ・ミームでしょうか。

 

英国のエリザベス・トラス前首相は、経済政策の失敗の責任をとって、辞職しました。

 

日本では、政策の失敗の責任をとって、辞職した首相はいません。

 

消費税の導入で、選挙後再任されなかった首相がいるだけです。

 

ここで、アブダプションをつかって、結果から、原因を推測します。

 

日本の首相も英国と同じように、政策の失敗を責任を取って、辞職する場合を想定します。

 

ここでは、現政権を問題にするのではなく、一般論です。

 

日本の首相が、政策の失敗を責任を取って、辞職すると何が起こるでしょうか。

 

これは、加谷 珪一氏のいう「能力と実績を持った人物をリーダーに選び出す」プロセスの一部です。

 

「能力と実績を持った人物をリーダーに選び出す」プロセスは、「年功型組織のミーム」を崩壊してしまいます。

 

つまり、「年功型組織のミーム」は、どんな政策の失敗があっても、首相は辞任しないことを要求します。

 

これは、「年功型組織のミーム」では、組織のトップは、政策・施策・事業の失敗の責任をとって、辞任することはないと一般化できます。

 

つまり、「年功型組織のミーム」は、組織マネジメントを、政策・施策・事業の失敗というエビデンスから、切り離された形而上学にすることを要求します。

 

これから、「年功型組織のミーム」は、ゾンビ・ミームであるといえます。

 

賃金上昇が物価上昇に追いつかす、実質賃金が下がっていても、歴代の首相は、経済政策は成功して、賃金が上昇したと主張してきました。

 

これは、政治家が、「年功型組織のミーム」に支配されていると考えれば、理解できる現象です。

 

日銀は10年近く、金融緩和をづけました。ここには、インフレになれば、経済成長するというインフレ・ウォシングの可能性があります。

 

日銀の政策の真の目的は、金融政策の護送船団方式という「年功型組織のミーム」の存続であったという解釈も可能です。

 

日本では、グリーン・ウォシングのような、ウォシングは問題になりません。しかし、政策決定に、形而上学を使えば、エビデンスに基づけば、どの政策も施策もウォシングに、引っ掛かります。

 

「年功型組織のミーム」は、ウォシング批判を封印しています。経済合理性と倫理も封印しています。

 

17-5)まとめ

 

「年功型組織のミーム」は、形而上学を強要します。この点では、リアルワールドを無視しています。

 

企業が技術開発をする場合には、ある確率で、必ず失敗します。

 

技術開発に成功した企業と、技術開発に失敗した企業が発生します。

 

一方、企業が補助金や円安で利益を出す場合には、100%成功します。

 

円安で利益の出ない輸出企業はありません。

 

「年功型組織のミーム」は、形而上学を強要しまので、「年功型組織のミーム」が、どちらを選択するかは、自明です。

 

「年功型組織のミーム」は、形而上学を強要しますが、形而上学の成功確率は、時代とともに、変化します。

 

質を問わず絶対量が不足する場合には、補助金による利益誘導という形而上学がある程度は帰納します。

 

道路が不足して、物流の障害になっている場合には、質をあまり問わずに高速道路を作れば、経済効果があります。

 

毎年、売り上げが伸びて、組織の必要な人員を毎年補充しなければならない状況では、年功型雇用の解雇を禁止する代りに低賃金を押しつけて、労働市場を作らせないというシステムの障害は表にでません。

 

しかし、1985年頃から、リアルワールドの市場が必要とする経済財(土地、資金、人材)と、「年功型組織のミーム」の形而上学が強要する経済財の間のギャップが目立つようになってきます。

 

そして、最近の20年は、このギャップが拡大し続けていると思われます。

 

「年功型組織のミーム」に支配されて、同じ形而上学を繰り返しても、リアルワールドでおこる現象は、どんどん変化してきています。




ブラム・ストーカの「吸血鬼ドラキュラ」(1897年)のリメイクに、リチャード・マシスンの「地球最後の男(I Am Legend)」(1954年)があります。この小説では、パンデミックによって、地球最後の男以外の地球上の人類は全て、吸血鬼になります。

 

「年功型組織のミーム」は日本国内で、広く分布して、人間の行動を支配しています。

 

筆者には、「年功型組織のミーム」は、ゾンビ・ミームであるという理解が広まることを期待していますが、「年功型組織のミーム」に支配された人には、理解されないと思われます。

 

引用文献

 

日本人はなぜ「世襲議員」に投票してしまうのか…無自覚に抱く「甘え」の正体 2023/06/07 現代ビジネス 加谷 珪一

https://gendai.media/articles/-/111292?imp=0

 

ミーム 中島秀之  日本大百科全書(ニッポニカ)サンプルページ

https://japanknowledge.com/contents/nipponica/sample_koumoku.html?entryid=1224