Riparian zoneの説明をします。
Riparian Zoneを今まで筆者は、河畔帯、あるいは、河畔林と訳していましたが、問題があるので、Riparian Zoneのままで使いたいと思います。
和訳には、岸辺、エコトーンという説明もありますが、不正確です。
Riparian Zoneに対応する日本語はありません。
日本では、過去の河川開発と農業開発によって、Riparian Zoneの90%以上が消滅してしました。
その結果、フィールド調査を中心に生態学を学んでいる専門家には、Riparian Zoneが、見えなくなっています。
過去30年の世界の河川生態学の中心には、河川断面方向のRiparian Zoneの、河川沿い方向のStream Corridorの発見です。河川生態学は、主に、この2つの大きな概念で形成されています。
Stream Corridor Restrationは、Riparian Zoneの復元を目的としています。
河川生態系は、次の3つのゾーンに分かれます。
(1)水域(water zone)
(2)Riparian Zone
(3)陸域(upland)
河川生態系のエネルギー循環と物質循環は、主に、Riparian Zoneで行われます。
Riparian Zoneが復元(restoration)されないと、河川生態系の復元はできません。
Riparian Zoneとは、河川水位の変動の影響を受けるエリアです。時期によって、陸域と水域が切り替わるゾーンです。
河川流量が変動すると河川水位が変動し、Riparian Zoneには、水、栄養塩類、sediment、POM、魚などの動物、植物が、入ったり、出たりします。
ここは、水位変動に伴い、環境がデリケートに変化する多様性の極めて高い生態系になります。
生態系が多様であれば、それに対応して、多様な生物種が生息します。
Riparian Zoneとは、水位変動に伴い、水域にも、陸域にもなるエリアを指しています。
このために、Riparian Zoneの復元に、最低限必要な条件は、水位変動と緩やかな勾配を持った地形になります。
ため池は、取水の安定性を優先するため、池の出口に、越流堰を設けて水位の安定化を図ります。また、有効貯水量を確保し、管理を容易にするために、池尻には、緩やかな勾配を持った地形は作りません。
図1は、「Riparian Health Assessment for Lakes and Wetlands Field Workbook」の池の構造の説明図です。
ここでは、Riparian Zoneとして、幅200mの緩やかな勾配を持った地形をつくっています。
写真1は、1965年の麻機沼です。
水色の線で挟んだ部分に、大きなRiparian Zoneがあります。図1に近い構造をしています。
写真2は、現在の麻機沼です。Riparian Zoneはほとんど見られません。
つまり現在の整備では、水域の動植物と陸域の動植物は、復元できますが、Riparian Zoneの動植物は復元できません。
欧米の河川のRsetrationの第1の目的は、Stream Corridorであり、Riparian Zoneの復元です。
一方、自然再生事業、より広く言えば、日本の生態学には、Stream CorridorとRiparian Zoneの概念がありません。
概念がありませんので、Riparian Zoneの復元は、事業の目的はもなっていません。
環境省は、生物多様性条約で、里山とため池の環境保全の優先を取り上げていますが、ため池は、Riparian Zoneを破壊してきた歴史なので、欧米の生態学者が、里山とため池の環境保全の優先に、同意することはないと思われます。
補足:
筆者は、復元(restoration)を、昔の環境に戻すと考えていた時代があります。
麻機沼であれば、1965年の環境に戻すという視点です。
アメリカの場合、建国200年で、大規模開発が始まってから、100年程度です。
この場合には、100年の昔の環境に戻せば、環境問題は解決できるように見えます。
日本のため池を中心とした水田開発は、1000年前に遡れるエリアもあります。
北海道を除けば、開発から100年経っています。
蛇行していた河川は、直線化されています。
Stream corridor restorationでは、河川の蛇行は残すべきといいます。
しかし、河川の蛇行を戻すことはほぼ不可能です。
環境整備の場合、何が正解かは、わかりにくいです。
昔の環境に戻すことは、部分的しかできませんので、正解にはなりえません。
筆者が、Riparian Zoneを河畔林と訳していた頃には、ここで、躓いていました。
しかし、復元(restoration)は、昔の環境に戻すことではありません。
Stream CorridorとRiparian Zoneが、少しでも復元できれば、物質循環とエネルギー収支が変わります。
つまり、Stream CorridorとRiparian Zoneは、新しい建築をつくるのと同じエンジニアリングの対象になっています。
極論すれば、Stream CorridorとRiparian Zoneとは、建設コストと維持管理コストが安い、非常に上等な下水処理場+洪水防止装置のようなものです。
この点は、紛らわしいので、正確に理解できている人は少ないと思いますが、重要なポイントです。
引用文献
二級河川巴川総合治水対策事業 麻機遊水地に蘇る生きものたち
https://asabata.org/wp-content/uploads/2013/10/panfuret.pdf
浅畑沼とその周辺 長島昭(1976)
file:///C:/Users/oiras/Downloads/CV_20231110_32-0030.pdf