「生態学」から「生態系ベースの管理」へのパラダイムシフト~2030年のヒストリアンとビジョナリスト

(時代は、「生態学」から、「生態系ベースの管理」に、移行しつつあります。そして、日本だけが、この変化に取り残されています)

 

1)漁業資源の問題

 

漁業資源は減少して、不漁が頻発しています。

この問題に対する抜本的な対策はなされていませんし、解決の方向性も見えていません。

 

2)生物の多様性に関する条約

 

生物の多様性に関する条約(生物多様性条約)は、1993年のリオの地球サミットでスタートしています。

日本は、最大の出資国でした。条約に、合わせて、1995年に生物多様性国家戦略を策定、2002年3月には、里山、干潟などを含めた国土全体の生物多様性保全、自然再生の推進、多様な主体の参加と連携などの内容を盛り込んだ改訂を行っています。

 

つまり、日本は、生物多様性条約を守る義務があります。

 

内容は、英語版のウィキペディアを日本語にすると以下です。

 

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生物多様性条約(CBD)は、多国間条約です。次の3つの主要な目標があります。生物多様性(または生物多様性)の保全、そのコンポーネントの持続可能な使用、遺伝資源から生じる利益の公正かつ公平な共有です。その目的は、生物多様性保全と持続可能な利用のための国家戦略を開発することであり、持続可能な開発に関する重要な文書と見なされています。

 

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日本語版のウィキペディアは以下です。

 

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生物の多様性に関する条約(せいぶつのたようせいにかんするじょうやく、英語:Convention on Biological Diversity、CBD) は、生物多様性を「種」「遺伝子」「生態系」の3つのレベルで捉え、その保全などを目指す国際条約である。

 

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条約を読んでみればわかりますが、生物多様性条約の最大のポイントは、生態系サービスの最大化です。

内容の半分は、環境経済学に関するもので、「生物多様性保全して持続可能な利用」を行うことで、最大の生態系サービスを得る方法を国家戦略にする手順を論じています。生物多様性保全は、その目的達成の手段でしかありません。また、生態系サービスの中には、農業生産や温暖化対策など、あらゆる経済活動も含まれています。

 

生物多様性条約は、「環境保全は、生態系サービスを適正に金銭評価して、最大の経済的利益を得る自然資源の活用法を実現すれば、自ずと達成できる」という信念に基づいています。

 

環境の改善は、現在の生態系サービスの便益と環境を改善した場合の生態系サービスの便益の2つの便益を比較して、便益の大きい方を選択することで実現します。ここには、現状を残すという発想はありません。

しかし、ちょっと考えればわかりますが、これは、とんでもない量のデータを処理しないとできません。志が高いのは、わかりますが、本当に計算できるのか、疑問になります。

 

3)生態系ベースの管理

 

1993年には、生態系サービスの便益計算は絵にかいた餅でした。

 

現在は、GISの進歩により、まともにデータ整備をしていれば、国全体のデータを扱うことが可能です。

もちろん、評価式をつくるのも大変ですが、リオの地球サミットからもうすぐ30年なので、かなり、進んできています。

 

欧米では、環境問題の解決に、2000年頃から、復元(restoration)の考えが強く、導入されます。このアイデアは、エコシステムの復元になります。エコシステムの復元事業は、河畔帯(stream corridor)からはじまり、塩性湿地(salt marsh)に拡がっています。土砂移動の研究が進んで、河川の流路変化、海岸の土砂堆積も、エコシステムの復元対象になっています。エコシステムでの生物種の復元は、特定種に偏るのではなく、エコシステムの中の機能を中心に考えます。水質浄化機能の高い川真珠貝(淡水)と牡蠣(塩水)が、代表種で、復元が進んでいます。

 

復元工事をしても、土砂移動や、植生回復がないとその効果がでませんので、現在は、生態系ベースの管理(Ecosystem-based management)が、環境改善の中心にあります。

 

英語版のウィキペディアを日本語にすると以下です。

 

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生態系ベースの管理(Ecosystem-based management)は、単一の問題、種、または生態系サービスを個別に検討するのではなく、人間を含む生態系内のすべての相互作用を認識する環境管理アプローチです。陸域と海域の両方の環境での研究に適用でき、両方に起因する課題があります。海洋の領域では、移動性の高い種と、生息地をかなり急速に変化させる可能性のある急速に変化する環境および人為的要因のために、それらを定量化することは非常に困難です。漁業を管理できるようにする効率的かつ効果的に、研究されている種の生物学的側面だけでなく、それらが経験している環境変数も理解することがますます適切になっています。個体数の豊富さと構造、生活史の特徴、他の種との競争、資源が地元の食物網にある場合、潮汐の変動、塩分パターン、人為的影響は、実施を完全に理解するために考慮しなければならない変数の1つです。 「生態系ベースの管理」アプローチの 水産業と海洋生態系の衰退状態に対する認識の高まりに応えて、海洋領域における生態系ベースの管理への関心が最近高まっています。

 

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なお、生態系管理(Ecosystem management)は、より古い用語で、意味が違います。

英語版のウィキペディアを日本語にすると以下です。

 

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生態系管理(Ecosystem management)は、社会経済的、政治的、文化的ニーズを満たしながら、生態系の機能とサービスの長期的な持続可能性と持続性を確保することを目的とした天然資源管理へのアプローチです。先住民のコミュニティは何千年もの間、持続可能な生態系管理アプローチを採用してきましたが、生態系管理は、生態系の複雑さ、および人間の依存と影響に対する認識の高まりから、1990年代に概念として正式に登場しました。

 

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なお、この2つの用語は混乱して使われることもあります。また、2つの用語とも、ウィキペディアの日本語版はないので、日本の環境関係者の関心は高くないようです。

 

生態系ベースの管理を漁業に適用するのが生態系ベースの水産業管理(EBFM:Ecosystem-based Fisheries Management )です。

 

ICESは次の様にいっています。

 

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ICES(International Council for the Exploration of the Sea )と生態系ベースの管理

 

ICESは、生態系ベースの管理(EBM:Ecosystem-based Management )を、海洋生態系に影響を与える人間の活動を管理する主要な方法と見なしています。 生態系ベースの水産業管理(EBFM:Ecosystem-based Fisheries Management )は、漁業セクターに対応しています。

海洋活動の管理に対するこれらのアプローチは、多くの組織(FAO、CBD、北極評議会、NOAA)によって説明されており、関連する法律(CFP、MSFDなど)に適用されています。

 

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ICESには、次の国が参加しています。

 

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Member Countries

ICES is an intergovernmental organization with 20 Member Countries.

 

    ​​Belgium

    Canada

    Denmark

    Estonia

    Finland

    France

    Germany

    Iceland

    Ireland

    Latvia

    Lithuania

    The Netherlands

    Norway

    Poland

    Portugal

    Russian Federation

    Spain

    Sweden

    United Kingdom

    United States of America

 

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なお、生態系ベースの管理と塩性湿地の復元事業が、ここ10年で、拡大しています。

 

塩性湿地の生態系サービスの中には、炭素の貯留効果も含まれ、条件と炭素の貯留量に関する調査が進められ、貯留量が推定できるようになっています。生態系サービスの研究には、とてつもない労力がかかりますので、かなり、大規模なチームやボランティアが投入されています。塩性湿地の復元は、ゼロエミッションを実現する比較的コストの低い方法の一つと考えられています。

 

日本の環境省のデータは、ツキノワグマ一つをとっても、デジタル化されたGISデータとして公開されていませんので、現状では、生態系ベースの管理はできません。

 

生態学の調査で、希少種の数を数えても、漁業資源は回復しませんし、水質も浄化されません。

塩性湿地の復元は、この2つに効果があります。ビジョンは有効なのです。

 

生態系ベースの管理には、生物学が含まれますが、物理学、化学、地形学、計算物理学、データサイエンス、経済学の知識も必要になります。



引用文献

 

Commission on Ecosystem Management IUCN

https://www.iucn-uk-peatlandprogramme.org/about-us/commission-ecosystem-management