2-1)機会費用の考え方
アブダプションでは、結果から、原因を推定します。
帰納法に洗脳されていると、過去の事例ばかり並べることになりますが、科学的な方法は、因果モデルなので、原因の推定が優先事項になります。
結果から、原因を推定する場合、原因になりそうな要素は複数あります。
データサイエンスでは、原因になりそうな複数の候補の中で、主要因をエビデンスに、基づいて抽出します。「証拠に基づいた」とはこのプロセスを指します。
「証拠に基づいた」決定を行う前に、with-withoutの思考実験を行う方法は有効です。
たとえば、結果が、日本の経済成長であり、原因の一つが、護送船団方式というモデルを考えます。
日本の経済成長の原因には、企業の資産、労働者の質、産業インフラなどの要素もきいています。また、海外の競合企業の動向も影響します。つまり、日本の経済成長には、複数の要因がかかわっていることは明らかです。
これらの複数の要因は、常に変動していますので、特定の原因だけが、経済成長を決めている訳ではありません。
そのことを前提として、護送船団方式という原因についてwith-withoutの思考実験をすることで、要因の影響の強さを大まかに推定できます。
このwith-withoutの思考実験は経済学では、機会費用と呼ばれます。
2-2)護送船団方式の経済効果
鉄のトライアングルの護送船団方式は、どうやら、マイナスの経済効果を持っているように思われます。
東京オリンピックでは、鉄のトライアングルが活躍しました。事前には、東京オリンピックは、プラスの経済効果があると宣伝されましたが、政府と自治体が膨大な赤字補填をしていますので、経済的にはマイナスでした。オリンピックの赤字を政府や自治体が補填することは先進国ではあり得ませんので、どうやら日本は先進国でなくなりつつあります。
護送船団方式の経済効果を分析した論文は見当たりません。恐らく、護送船団方式の機会費用の分析はタブーになっているのでしょう。
しかし、ヒントはあります。
バブル崩壊のあと金融機関に膨大な公的資金がつぎこまれました。
銀行の負債を減らすために預金金利は、ゼロに据え置かれました。これは、家計から銀行への所得移転にあたり、本来の資本主義経済では、あってはいけないものです。
預金の所得移転なども考慮すれば、どの程度の公的な資金が注ぎ込まれたのでしょうか。
この値については、政府の公式の数字はありません。いつかの推定計算の結果をみれば、オーダーとしては、10年間で、100兆円、1年あたり10兆円と言われています。
10兆円のお金は、過去の負債の穴埋めにつかわれていますでの、お金は回りません。つまり、この10年間の間は、経済発展が難しかったことがわかります。
この100兆円が、大きいのか、小さいのか、判断は難しかったです。
しかし、リーマンショックで、アメリカで、同様の問題が発生しました。アメリカ政府は、公的資金の注入という一見する日本政府と似たような対応をしました。
しかし、アメリカの公的資金の注入には2,3年で、日本に比べれば、非常に短期間で、終っています。この期間に注目すれば、日本の公的資金の注入は、3倍程度非効率であったと思われます。
つまり、アメリカ並みの迅速な対応をしていれば、70兆円が節約できたことになります。
これは、10年で割れば、1年当たり7兆円になります。
これは、直接的な影響です。3年で、負債処理が終了していれば、あとの7年間は、経済が市場原理に従って回ったはずなので、2次的な影響は更に大きくなります。
消費税1%の税収は、2から3兆円なので、7兆円は、消費税率3%位に相当します。
実際には、7兆円分の消費税の増税はありませんでしたが、預金金利をほぼゼロに据え置くことで、家計から、銀行への所得移転が行われました。