カモフラージュと違法(13)

18)専門家会議ロンダリング



政府は政策を決定するときに、専門家会議に丸投げします。

 

出てきた提案は、政府や官僚が作成した原案が、ほぼ無修正で通過したものか、専門家会議のオリジナルかは明示されませんので、不明です。

 

政府は、専門家会議でお祓いをすれば、政策は、内容にかかわらず問題がないという判断をしています。

 

これは、ウォシングというよりは、政策ロンダリングに相当すると思われます。

 

18-1)専門家会議の問題点

 

ウォシングにしろ、ロンダリングにしろ、「ブリーフの固定化法」の分類によれば、専門家会議は、権威の方法になっています。

 

つまり、「ブリーフの固定化法」を読めば、パースは、権威の方法に基づく専門家会議は、必ず破綻すると予言していたことになります。

 

もちろん、パースは専門家会議を否定しているわけではありません。

 

専門家会議が、科学の方法に従って、ブリーフを固定化するのであれば、専門家会議には、問題はありません。

 

つまり、「ブリーフの固定化法」に基づけば、専門家会議を使う事には問題はありませんが、専門家会議が、科学の方法によっていなければ、問題が発生します。

 

過去に、臨時教育審議会で、著名な文学者が、「自分は、2方程式を必要になったことがない」、中学教科書において必修とされていた2次方程式の解の公式について、「作家である自分は、『2次方程式を解かなくても生きてこられた』『2次方程式などは社会へ出て何の役にも立たないので、このようなものは追放すべきだ』」と発言し、この発言は、ゆとり教育の導入の決定に大きな影響を与えたと言われています。

 

著名な文学者は、科学の方法の理解者ではありませんし、「必要になったことがない」という表現は、経験に基づく判断であって、科学の方法に基づくものではありません。

 

つまり、「ブリーフの固定化法」に基づけば、「ゆとり教育」は、始める前から失敗が確約されていた政策だったことになります。

 

専門家会議が、科学の方法によるためには、専門家は、科学の方法を理解していること、利益相反になる利害関係者が含まれていないことが必要な条件になります。

 

政治には、利権が絡むので、全てを利益相反でなくすることは困難ですが、そうであればこそ、答申を作成する専門家集団だけには、利益相反の可能性のある人を排除するルールを守らないと、人権無視のリスクを抱えることになり、先進国とは言えなくなります。

 

18-2)専門家会議の専門家は科学者であるか

 

パースが、「ブリーフの固定化法」で主張したように、ブリーフの固定化法に科学の方法を使うとすれば、専門家会議の専門家は科学者であるか、科学者でなくとも、科学の方法の理解者である必要があります。



博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか(Dr. Strangelove or: How I Learned to Stop Worrying and Love the Bomb)」(1964)は、スタンリー・キューブリックのブラックコメディ映画です。

 

この映画は、これまでに作られた最高のコメディ映画の一つであると同時に、史上最高の映画の一つであると考えられています。

 

キューバ危機によって極限状態に達した冷戦の情勢を背景に、偶発的に核戦争が勃発し、人類滅亡に至るさまを描くブラックコメディです。政府や軍の上層部はほぼ全員が俗物ないし異常者として描かれる風刺劇です。 

 

ピーター・セラーズが、米大統領、英国軍大佐、マッドサイエンティストの1人3役を怪演しています。

 

博士の異常な愛情 」では、登場人物が、俗物(利害関係者)ないしは、異常者(マッドサイエンティスト)であることが、核戦争がおこる原因です。

 

専門家会議の専門家が、利害関係者や、マッドサイエンティストであれば、誤った政策が実施されて、国が滅びます。

 

マッドサイエンティストとは、サイエンティストの科学の方法を理解して、実行できない人を指します。

 

「専門家会議の専門家は科学者であるか、科学者でなくとも、科学の方法の理解者である」という条件を、ここでは、マッドサイエンティスト条件と呼ぶことにします。

 

「専門家会議の専門家は科学者であるか、科学者でなくとも、科学の方法の理解者である」という条件が満たされない場合を、マッドサイエンティスト条件が満たされていると表現することにします。

 

こうすると、臨時教育審議会は、マッドサイエンティスト条件を満たしていたことがわかります。

 

この用語を使ってパースの主張を、専門家会議に当てはめれば、マッドサイエンティスト条件を満たしている専門家会議の答申に基づく政策は、失敗する可能性が極めて高いと言えます。

 

18-3)マッドサイエンティスト養成講座

 

澤昭裕氏は、2004年に次の様に書いています。

 

 公務員の行動原理を一言で言い表せば、「前例・横並び主義」である。法令によって行政を進めることを本旨とする公務員にとっては、その法令の適用に当たって、恣意が入ってはならないし、差別があってはならない。法令がいい加減に運用されているとなると、行政機関に対する信頼感が失われてしまう。行政には継続性、安定性、予測可能性が必須なのである。

 こうした性格を持つ行政を実行する公務員にとっては、「前例・横並び主義」という行動原理は必要不可欠なものであり、また、さまざまな事案を処理していくに当たっての効率的な問題解決手法ともなっている。

 そのため、公務員は研修や職場で、こうした行動原理を習得するよう、常にトレーニングを受けている。

 

これは、驚くべきことです。「前例・横並び主義」は、Casual Universeを無視していますので、形而上学であって、科学の方法ではありません。Causal Univeseを無視して、「その法令の適用に当たって、恣意が入ってはならないし、差別があってはならない」ということは、形而上学の洗脳であって、マッドサイエンティスト養成講座になっています。

 

Casual Universeの変化を無視して、形而上学の継続性をつづければ、リアルワールドは破綻します。

「前例・横並び主義」という行動原理は必要不可欠なものであり、また、さまざまな事案を処理していくに当たっての効率的な問題解決手法

というのは、エビデンスをみない形而上学だからで、悲惨な現実に目をそらしています。

 

澤昭裕氏は、「前例・横並び主義」は公務員の行動原理であると言っています。

 

行動原理を変えないで、補助金をつかけてもDXは、進みません。

 

公務員の行動原理は、全ての公務員の活動の原因になっています。

 

つまり、公務員を科学者として評価すれば、マッドサイエンティストになります。

 

専門家会議の専門家が、人文科学の大家であっても、科学者としては、マッドサイエンティストに分類されることはありえます。

 

専門家会議の専門家の人選をしている公務員が、人文科学の大家であっても、科学者としては、マッドサイエンティストに分類されることはありえます。



引用文献

 

国立大学法人化における事務職員組織とは 2004 澤 昭裕

前例・横並び主義」からの脱却

https://berd.benesse.jp/berd/center/open/dai/between/2004/06/01toku_10.html