(6)科学的方法の検証
(プラグマティズムの検証法を説明します)
1)基本的な考え方
プラグマティズム以前の哲学は、論理の世界であるフィロソフィーワールド(PW)で完結していて、リアルワールド(RW)との関係はありませんでした。パースは、RWとの関係のない哲学は、形而上学といって批判します。
この時点で、パースは、哲学の前提の論理の完全性を放棄します。
プラグマティズムは、哲学ではなく、哲学的伝統になります。
自然科学は、科学的論理の世界であるサイエンスワールド(SW)とRWの間の写像を実験によって確認します。
自然科学をモノ以外のコトに拡張します。コトに拡張された自然科学を科学2と呼ぶことにします。
科学2の内容は、コトの科学を拡張することで、開発することになります。ジェームズは、心理学を始めています。
パースの目標は、サイエンス2ワールド(S2W)とRWの間の写像を確認する手順を設定することです。
これは、自然科学の実験に相当する手順であり、科学的にブリーフを固定化する方法です。
プラグマティズムでは、ブリーフをつかった介入によって、生じた変化を計測することでブリーフを検証(介入検証)します。
介入検証のないブリーフは(SW2で完結している)形而上学になってしまいますので、存在価値がありません。
2)こども家庭庁の政策
2023年4月から、こども家庭庁が創設されました。
少子化対策のたたき台では、2024年度から3年間の子育て世代への現金給付の強化が掲げられています。
Yahooのみんなの意見をみると、ある少子化問題の専門家は、少子化の原因は、高い非婚率にあるので、子育て世代への現金給付には、効果がないとコメントしています。
しかし、プラグマティズムの介入検証のルールからすれば、少子化問題の専門家が、少子化政策に介入できないのであれば、少子化問題という学問分野は不要になります。
つまり、プラグマティズムのルールでは、少子化問題の専門家は、少子化政策に介入するために、最大限の努力をする必要があります。なぜなら、介入に失敗した場合には、少子化問題の専門家の存在が否定され、ゾンビな学問になるからです。
アメリカのプラグマティズムの常識では、少子化問題の専門家がYahooのみんなの意見を出すというレスポンスは、あり得ない反応です。学会として意見書を出したり、市民集会を開いたりして、少子化問題の専門家の存在が否定されない努力をするはずです。
プラグマティズムは、アメリカ社会の基本ルールを形成しています。介入検証を前提として、データが常に計測されています。エビデンスベースの手法は、サンプリングバイアスを避けるための工夫です。検証データは、エビデンスベースの手法以前からとられています。
日本の少子化問題の専門家は、毎年専門紙に論文を投稿して、業績がある人であると思われます。日本の論文の多くは、実態調査した結果を図や表にまとめたものです。そこには、ブリーフも介入検証もありません。こうした学問分野は、審査付の論文を出したというドキュメンタリズム(文書形式主義)で存在が認められているにすぎません。
プラグマティズムのルールでは、ブリーフの介入検証のない分野は、ゾンビな学問に見えてしまいます。
毎年専門紙に論文が掲載されればOKというドキュメンタリズムが通る理由はは、介入検証のデータが皆無なためと思われます。
これは、ジョブ型雇用における業績評価の基礎データです。つまり、実験室で検証データが収集可能な自然科学の分野以外では、日本の大学では、ジョブ型雇用が非常に困難な状況にあります。これでは、日本の大学の世界ランキングが、落ち続けて当然です。また、外国人の高度人材を誘致するための前提条件が欠けていることにもなります。
子育て世代への現金給付の強化は、その財源が未定ですが、社会保険料に上乗せする案も出ています。
社会保険料の改訂は、法律改正が不要のため、既に乱発されてきて、税金と合わせた負担率は50%近くになっています。
つまり、子育て世代への現金給付を社会保険料に上乗せした場合、未婚者の収入が更に減少して、少子化が更に進む可能性があることを示しています。
子育て世代への現金給付は、弱形式の問題解決なので、行うべきではありません。
若年層が、生活できるだけの収入を得られるように、強形式の問題解決をするしか方法はありません。
ブリーフの介入検証が、社会ルールにならない限り、少子化は止まりません。
ブリーフのサブセットはジョブに繋がります。
これは、ジョブ型雇用への移行であり、アパルトヘイトの崩壊のように、困難ではありますが、越えなければならない道です。
3)パースのプラグマティズムの予言
2023年4月2日の朝日新聞に、「国土交通省の元事務次官が東証プライム上場の『空港施設』(東京都)に対し昨年12月、国交省OBの副社長を社長にするよう求めていた問題」が出ています。
これは、給与がポストを反映するが実績を反映しないために起こる問題です。つまり、ポストにつけば、能力に関係なく高給が得られる年功型雇用があるため、人事介入が起こります。ここでは、元事務次官の口利きが問題になっていますが、表面化しない場合はより多くあるはずです。労働市場があれば、人材が優秀であれば、高給で転職できます。口利きが本質的な問題ではなく、問題は、年功型雇用で、労働市場がない点にあります。
つまり、転職の口利き問題と若年層の非婚率の高さは、ジョブ型雇用の労働市場がないという同じ問題の派生形です。そして、同じ問題は、大学のレベル低下、科学技術立国からの転落に繋がります。
これは、パースのプラグマティズムの予言が実現している非科学的なブリーフの実施が生む問題の発生過程でもあります。
引用文献
国交省OBが副社長ポスト要求 国有地賃貸にふれ「協力の証し」2023/04/02 朝日新聞
https://news.yahoo.co.jp/articles/aa2e65c32a88c77d6df2e98b52949687af93b328