カモフラージュと違法(2)

3)形而上学と科学の方法

 

事例1:

 

リチャード・カッツ氏は、男女雇用機会均等法のような法律ができることと、出来た法律がまもられていることを区別しています。

 

法律は、そのままでは、形而上学です。

 

法律がまもられることは、リアルワールドの問題であり、科学の対象です。

 

つまり、次のように整理できます。

 

形而上学:法律をつくること

 

科学の方法:法律が守られること(違法状態が放置されない)

 

事例2:

 

カッツ氏は、「岸田首相は、目標と対策を一致させたことがないので、これ以上の成果は期待できない」ともいいます。

 

つまり、次のように整理できます。

 

形而上学:目標

 

科学の方法:対策(目標が達成されること)



事例3:

 

日本の労働基準法とは相反する。同法の文言は「使用者は、労働者 が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをしてはならない」と明確に規定しています。

 

ここでいう、「女性」と「男性」は、オブジェクトです。

 

一方、実在のある女性は、インスタンスです。

 

科学の方法では、仮説は、「力」、「速度」といったオブジェクトで表現されます。

 

実験は、個別の物体の力(インスタンス)を計測して行います。

 

つまり、次のように整理できます。

 

形而上学:「女性」や「男性」といったオブジェクト

 

科学の方法:個別の「女性」や「男性」等のインスタンスエビデンス(計測結果)で検証

 

なお、この例題は、Casual Universeの問題として整理することも可能です。

 

例題4:

 

問題があったときに、予算(補助金)を配分します。

 

つまり、問題と予算の関係は、次のように整理できます。

 

形而上学:目標(タイトル)にあった予算額

 

科学の方法:予算が効率的に使用され、問題が解決すること(目標が達成されること)

 

まとめ:

 

以上で見たように、カッツ氏の指摘した問題や類似の問題は、パースの「ブリーフの固定化法」で予想されていた問題点です。

 

カッツ氏は、科学の方法を使わなければ、問題解決ができないと主張していることになります。

 

4)空約束とカモフラージュの違い

 

空約束とカモフラージュは似ていますが、違う部分もあります。

 

2003年に小泉純一郎首相は民間企業の女性管理職の割合を30%に引き上げると宣言しました。

 

竹中氏は、規制緩和をすれば、経済が活性化するといいました。竹中氏は最近でも、問題は、規制緩への抵抗勢力であるといいます。

 

これらは、形而上学です。

 

規制緩和をして、労働市場を活発化すれば、女性の能力が活用され、女性管理職の割合が増える」というストーリーです。

 

法律を見る限り、小泉政権規制緩和が進んだようにみえます。

 

ウィキペディアをみても、法律の改正で、規制緩和が進んだように書かれています。

 

しかし、違法状態が放置されていれば、これは、形而上学にすぎません。

 

つまり、広く流布している解説は、エビデンスを無視しています。

 

そこで、エビデンスに基づいて、このストーリーを再構築してみます。

 

カッツ氏が言うように、小泉規制改革の元では、「民間企業の女性管理職の割合を30%」にはなりませんでした。それでは、何が起こったのでしょうか。

 

小泉規制改革の下で、非正規採用が拡大しました。

 

女性の雇用のうち、過半数は、非正規採用です。

 

これから、小泉規制改革の元では、男女間の賃金格差が拡大したことがわかります。

 

つまり、「ジェンダーギャップの解消」は、カモフラージュであって、実際には、「ジェンダーギャップが拡大」していた可能性があります。

 

詳細な解析には、エビデンス・データが必要です。

 

日本では、形而上学を温存するために、エビデンス・データは原則として計測されませんし、公開もされません。

 

ですから、「『ジェンダーギャップの解消』は、カモフラージュであって、実際には、『ジェンダーギャップが拡大』していた」は、検証が難しい仮説です。

 

安倍政権下でも、女性の労働者数は増えました。しかし、その多くは非正規採用でした。

もしも、「非正規採用と正規採用の賃金が、同一労働、同一賃金でない違法状態が放置」されていなければ、自由度の高い非正規採用で働くことには、問題はありません。しかし、「非正規採用と正規採用の賃金ギャップ」という形で、違法なジェンダーギャップが放置されていれば、安倍政権下でも、「『ジェンダーギャップの解消』は、カモフラージュであって、実際には、『ジェンダーギャップが拡大』していた」という仮説が成り立ちます。

 

実際に、安倍政権下でも、ジェンダーギャップ指数が低下し続けました。

 

「『ジェンダーギャップの解消』は、カモフラージュであって、実際には、『ジェンダーギャップが拡大』していた」という表現は、法律とエビデンスを並べています。

 

ここで、「『ジェンダーギャップの解消』は、カモフラージュである」ということは、言い換えれば、「ジェンダーギャップの解消」が、本来の目的ではなく、隠れた目的(本音、意図)があることになります。

 

そこで、隠れた目的を表に出す意図ベースで書き換えれば、「『ジェンダーギャップの拡大』を継続させたかったので『ジェンダーギャップの解消』をカモフラージュとして採用した」という表現になります。

 

科学の方法に基づかない限り、違法状態は放置され、カモフラージュが蔓延します。

こうなると、いかなる議論も、無意味になってしまいます。

 

エビデンスの議論が避けられた議論は、カモフラージュである可能性が高いと言えます。

 

5)応用問題

 

以上の考察は。ジェンダーギャップを例にしています。

 

しかし、カモフラージュは、どんな問題でも起こり得ます。

 

リスキリング、DXの遅れ、人手不足、大学の定員割れなど、何にでも当てはまります。

 

例えば、リスキリングの場合、意図ベースでは、「『技術者を軽視した文系優位の賃金ギャップ』を継続させたかったので『リスキリング』をカモフラージュとして採用した」という表現になります。

 

これは、仮説ですから、検証が必要ですが、形而上学を温存するために、検証データは封印されています。

 

検証データが封印されている場合は、カモフラージュの可能性が高いです。

 

どうやら、議論の前に、カモフラージュの排除を点検すべきです。