ソリューション・デザイン(18)

(18)チャットGPTとクリティカル・シンキング

 

(Q:チャットGPTと専門家の意見はどちらが正しいでしょうか)

 

1)専門家の意見とフェイクニュースの作り方

 

1-1)フェイクニュースの例

 

遠藤誉氏が、フェイクニュースとして取り上げている例をあげます。(筆者要約)

 

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「国家公安部と国家安全部を合併して内務部を創設」というフェイクニュースが、香港から出た。

 

真に中国の政治を分かっている人なら、瞬時に「あり得ない!」と判断できるのだが、日本ではこの「あり得ない」フェイクニュースに乗っかってしまい、習近平政権が恐るべき恐怖政治を始めるとして大々的に論を張ったジャーナリストたちがいる。

 

筆者はこれに関して某テレビ局から取材を受け、「絶対にあり得ませんね!こんなフェイクニュースに乗らない方がいいのではないですか?」と、きっぱり回答したため、取材を申し込んだ人から「ほんとですか…?」という疑念を抱かれた。視聴者が喜びそうな情報を肯定しない筆者を、「おもしろくない」とでも思ったのだろうか。最後まで「フェイクだ」と主張する筆者を信じなかった。

 

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日本のメディアには「日本人のための、日本人が喜ぶ、日本人だけに通じる中国論」というのがあって、それを率先して創り上げているのがNHKを含めた大手メディアで、大手がそう言うのならば怖くないとばかりに、他のメディアが一斉に真似をする。

 

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さて、ここで、筆者は、遠藤誉氏が正しくで、マスコミが間違っていると言いたいのではありません。

 

エビデンスをチェックするまで、筆者には、遠藤誉氏が正しいのか、マスコミが正しいのかを判断できません。

 

つまり、対立する2つの主張が、ペンディングの状態で、併存することになります。

 

これが、科学的な態度です。

よく、正解を暗記する教育は、考える人材を育てないので問題であると言われますが、「暗記すると、考える人材が育てない」というエビデンスはありません。

 

「正解を暗記する教育は、考える人材を育てない」

 

「正解を暗記する教育を受けても、考える人材が育つ」

 

という2つの主張が併存するところからスタートするのが、科学的な態度です。

 

ゆとり教育のときには、「暗記する内容が多いと、独創性が育たない」と思われたようですが、この命題は検証されていません。

 

少なくとも、「暗記する内容が多い」という部分には、分量と期間(時間)、読んで確認できる暗記レベルと、書くことのできる暗記レベルの幅があります。

 

つまり、バイナリーバイアスのある命題は、そのままでは、検証できません。

 

「正解を暗記する教育は、考える人材を育てないので問題である」という発言には、考えない人材の姿勢(人文的文化)が強く見られます。

 

1-2)バイアスのかけ方

 

遠藤誉氏は、「日本人のための、日本人が喜ぶ、日本人だけに通じる中国論」があるといいます。しかし、この中国論で引用される事例は、「国家公安部と国家安全部を合併して内務部を創設」というフェイクニュースのようなレベルを除けば、実際に起こった事件を扱っています。若干の脚色はあるかもしれませんが、事件そのものが捏造されていることはないと思われます。

 

「日本人のための、日本人が喜ぶ、日本人だけに通じる中国論」のようなフェイクな主張をつくるには、情報を捏造しなくとも、都合のよい情報だけをピックアップして、都合の悪い情報を排除すれば十分です。

 

中国が、インターネットの検閲をしていると非難されていますが、検閲は、「都合のよい情報だけをピックアップして、都合の悪い情報を排除」するために行われています。

 

日本の農業は自立できる産業としては、破綻しているのですが、農業白書を見れば、成功した先進事例が載っています。

 

農業白書には、問題点の分析は出てきますが、成功していない農業政策は、出てきません。つまり、検閲と同じ、「都合のよい情報だけをピックアップして、都合の悪い情報が排除」されています。

 

これは、検閲のような強制的手段ではないので、許容できると考える人は、科学的文化が欠如しています。

 

データサイエンスでは、変数の分布を問題にします。

 

農家にも色々なタイプがあります。成功した先進事例(利潤をあげている例)以外に、収支がとんとんの場合、赤字の場合もあります。

 

変数の分布が正規分布であれば、平均値が代表値になりますが、ピークが1つで、中央にくることは稀です。そうした場合には、複数のピークについて特性を見なければ、全体像がつかめません。

 

文部科学省が、カリキュラムを改訂し、進級の条件を決めます。生徒は、大まかに言えば、3つのグループに分かれます。第1は、教師が授業で教えなくても、教科書を自分で読んで理解できるレベルの生徒です。第2は、授業を受けて、初めて理解できるレベルの生徒です。第3は、授業を受けても、理解できないレベルの生徒です。この3つのレベルに対して、カリキュラムをどのように運用すべきか検討しなければ、カリキュラムは絵にかいた餅になり、義務教育の学力レベルは低下して、分数のできない大学生ができてしまいます。

 

しかし、白書には、3つのレベルに対応した対策は書かれていません。

 

データサイエンスでは、分布の一部だけを取り上げることは、サンプリングバイアスで、避けなければなりません。

 

飛び級や、ギフテッド教育とは、第1のレベルの生徒には、普通の授業を免除することになります。つまり、ギフテッド教育と第3のレベルの落ちこぼれ対策は、カリキュラムの中では、セットで扱われるべき問題です。

 

Bloombergは、黒田東彦総裁の会見を報道しています。

 

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日本銀行黒田東彦総裁は2023年3月10日、過去10年の大規模な金融緩和について、2%の物価安定目標を実現できなかったことは残念としながらも、日本経済の潜在的な力が十分発揮されたという意味で「成功だった」と振り返った。

 

黒田総裁は、金融政策の具体的な効果として、デフレを解消して経済を活性化させ、400万人以上の雇用創出で就職氷河期と言われた状態を完全に解消したことなどを挙げた。副作用よりも経済に対するプラスの効果が「はるかに大きかった」とした上で、一貫して2%の物価安定目標の実現を目指して大規模緩和を続けてきたことは「間違っていなかった」と述べた。

 

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ここでは、「副作用よりも経済に対するプラスの効果が『はるかに大きかった』」根拠となるエビデンスは示されていません。

 

「400万人以上の雇用創出で就職氷河期と言われた状態を完全に解消した」という説明は、労働者の一部だけを取り上げるサンプリングバイアスです。

 

ここでは、既に雇用されていた人の賃金が伸びなかった事実が、排除されています。

 

「400万人以上の雇用創出」の多くは、非正規雇用で、平均賃金がさがっています。

 

日本では、サンプリングバイアスに対しては、全くチェックがなされません。

 

その結果、日本では、中国の検閲と同じ現象が起こっています。

 

2)チャットGPTは正しいか

 

チャットGPTの文章には、間違いがあると言われています。

 

しかし、専門家の意見には、フェイク多くあります。少なくとも、サンプリングバイアスを使った偏向した意見は野放し状態になっています。

 

その原因は、科学的文化の欠如にあると思われます。

 

専門家のフェイクを考えると、専門家の意見とチャットGPTの文章のどちらが正しいかは、ケースバイケースと思われます。

 

チャットGPTの文章の方が、専門家の意見より、常に正しくなった状態を想定すれば、それは、専門家が失業する時です。

 

そのような状態はいつ実現するでしょうか。

 

チャットGPTが間違える原因は、学習データに間違いが入っていた場合に、チャットGPTが、それを参照するからです。

 

つまり、学習データから間違いを排除できれば、チャットGPTが間違える確率は減少します。

 

それでは、間違いが入っていない学習データは、どこで入手できるでしょうか。

 

これは、「人文科学の主張の正しさは何によって担保さているか」という問題に帰着します。

 

古典が正しいという人もいますが、それは、間違っています。オデュッセイアには、奴隷がでてきますが、奴隷はモノであって人間ではありません。

 

オデュッセイアには、男が女に「黙れ、女は人前で発言してはならぬ」と告げた最初の例がのっています。ビアードの「舌を抜かれる女たち」には、こうした例が引用されています。

 

筆者は、自然科学のようなエビデンスに基づく検証手段をもたない人文科学には、エラー(間違い)が多く含まれていると考えています。

 

人文科学の主張には、間違いが多いと思いますが、間違いを減らす手段はあると考えます。

 

筆者は、それは、クリティカル・シンキングであると考えます。

 

クリティカル・シンキングの議論に耐えた人文的文化の内容とそうでない内容には、間違いの割合に、大きな違いがあります。



ウィキペディアでは記載内容について、議論がかわされます。クリティカル・シンキングの議論をへた内容には、意見の共通が見られます。

 

ウィキペディアの英語版は、クリティカル・シンキングの議論を経ていて、間違いが少なくなっています。

 

チャットGPTに、ウィキペディアの英語版を使って答えてというように、出典の制限をかければ、間違いが少なくなります。

 

残念ながら、日本語版のウィキペディアは、クリティカル・シンキングの議論を経ていなので、問題のある記載が多数見つかります。

 

日本の専門家のレベルが、日本語版のウィキペディアのレベルであった場合には、ウィキペディアの英語版を使ったチャットGPTには勝てないと思われます。

 

ただし、そのためには、チャットGPTと英語で対話する必要があります。

 

3)A:チャットGPTと専門家の意見はどちらが正しいか

 

日本の人文的文化では、クリティカル・シンキングの議論が殆ど行われません。

 

これは、サンプリングバイアスを排除する上では、致命的な欠陥です。

 

これがある限り、上手く使ったチャットGPT意見は、専門家の意見に優ると思われます。

 

追記:3月11日

 

遠藤誉氏の予想通り、「日本人のための、日本人が喜ぶ、日本人だけに通じる中国論」が出ています。

3月6日に、遠藤誉氏は、3月5日の全人代で「李克強に握手を求めた習近平」の写真を掲載しています。

 

3月11日の朝日新聞の見出しは、3月11日の全人代で「習氏と握手も目合わず… 首相退任の李克強氏、すれ違いにじませ去る」です。

 

本文は、「李克強氏は習近平(シーチンピン)国家主席と握手こそ交わしたが、目が合うことはなく」と、見出しにあっていません。




引用文献



習氏と握手も目合わず… 首相退任の李克強氏、すれ違いにじませ去る 2023/03/11 朝日新聞

https://news.yahoo.co.jp/articles/6d6c4c8d6979684d5b9605546e7a085be6a694fb



「国務院機構改革」が示す習近平の「米国による中国潰し」回避戦略 2023/03/08 中国問題グローバル研究所 遠藤 誉

https://grici.or.jp/4125

 

李克強「最後の演説」と、李克強に握手を求めた習近平 2023/03/06 中国問題グローバル研究所 遠藤 誉

https://grici.or.jp/4097

 

大規模緩和は「成功」、日本経済の潜在力が十分発揮-日銀の黒田総裁 2023/03/10 Bloomberg 伊藤純夫

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-03-10/RRAAS8T0G1KW01?srnd=cojp-v2