注1:
「最近建設された地下水貯蔵場は、1時間当たり50mmの豪雨しか想定していないが、2018年、日本の多くの都市ではその4倍の雨が降っている」には事実誤認があります。
9月7日に香港で観測史上1位の158mm/hの降雨が降りました。
日本の1時間降水量の最大値は、1999年10月27日に、千葉県香取市で観測された153mm/hです。
つまり、「2018年、日本の多くの都市ではその4倍の雨が降っている」は明らかな間違いです。
気象庁は、豪雨の最大レベルを80mm/h以上に設定しています。
国土・交通省は、「また平成 20 年には愛知県岡崎市等、平成 24 年には大阪府寝屋川市等において時間雨量 100mm を大幅に超える短時間強雨により大規模な内水氾濫が発生している」と書いていますので、100㎜/hには、対応すべきと考えています。
従って、「その4倍の雨」は「その2倍の雨」に訂正すべきです。
この訂正によって、記事の主旨の変更が必要な部分はありません。
降雨の元は、空気中の水蒸気です。つまり、降雨の最大値は、空気中の水蒸気が全て雨になる場合です。これを、可能最大降水量(Probable Maximum Precipitation, PMP)と言います。
確率降雨ではなく、PMPを使って、洪水対策を立案している国もあります。
PMPは、推定方法によってバラツキます。
PMPの研究は興味深いものですが、成果が活用出来る場面は、ダムの予備放流などに限られており、洪水対策の効果は、Sponge Cityとは、オーダーが違います。
「その4倍の雨」は「その2倍の雨」に訂正されなかった理由には、次の2つが考えられます。
C1)掲載誌の東洋経済が見落とした。
C2)掲載誌の東洋経済が、最大時間降水量の観測値というエビデンスに基づく、チェックをしなかった。
今回が、どちらかは、不明です。
しかし、あるジャーナリストは、マスコミでは、「その4倍の雨」は間違いであっても、「カッツ氏が、(間違いである)『その4倍の雨』と書いた」ことには、間違いはないので訂正しないルールが採用されているといいます。つまり、一般に、C2)が採択されるといいます。
この方法と、誰の意見を記事するかというサンプリングバイアスを使えば、記事には、何でもかけるので、捏造と同じレベルになります。
NHKが、クローズアップ現代の4月19日の番組の一部に、捏造があったと謝罪しました。
記事や番組は、最初にシナリオを作り、シナリオに都合のよいデータだけをサンプリングして作成します。今回は、インタビューされた人が、番組のインタビューは、自分の発言と逆になっていると抗議して、謝罪に至りました。
しかし、通常は、シナリオに沿わない発言をする人はインタビューの対象から除外されます。つまり、シナリオに都合の悪い真実はすべて無視して、番組を作成します。
こうしたシナリオ・オリエンテッドの記事と番組の作成は、分かり易いフィクションの技法であり、ドラマのように視聴率を稼ぎやすいです。しかし、ドキュメンタリーが、エビデンスに基づかなければ、それは、フィクションになってしまいます。
シナリオ・オリエンテッドの記事と番組の作成手法は、1990年以降に普及しています。
エビデンス・ベースでは、サンプリング・バイアスは最大限回避することが原則です。
サンプリング・バイアスのあるデータからは、有意な結論は選られません。
つまり、シナリオ・オリエンテッドの記事と番組は、非科学的で、読んだり、見たりするには値しません。
人文科学の論文の中には、シナリオ・オリエンテッドで作成されたものもあります。
それらは、エビデンス革命の後では消滅するでしょう。
ライナス・ポーリングは、ノーベル賞を2度受賞した5人の1人です。初めてのキュリー夫人 に次いで2人目で、化学賞と平和賞という全く異なる分野に及ぶ唯一の受賞者です。しかし、ライナス・ポーリングの化学の論文に含まれる過去の論文のレビューは、都合の悪い論文が除外されているというサンプリング・バイアスを指摘する人もいます。
ポーリングが生きていたころに比べて、現在の科学は、サンプリング・バイアスに対して、厳正に対処するようになっています。その原因は、データサイエンスの普及にあると思います。
引用文献
香港で1884年の観測開始以降、最大の大雨記録 2人が死亡 証券取引所や学校にも影響 2023/09/08 TBS News
https://news.yahoo.co.jp/articles/9820a56844d3c4bfaec3e2ffaa30de321599c215
歴代全国ランキング 最大1時間降水量 気象庁
https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/view/rankall.php
リーフレット「雨と風(雨と風の階級表)」
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/books/amekaze/amekaze_index.html
気象条件の最大化による可能最大降水量(PMP)と可能最大洪水(PMF)の推定 橋本 健、矢島 啓、水文・水資源学会誌、Vol.20,No.6,2017
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjshwr/30/6/30_356/_pdf
浸水想定(洪水、内水)の作成等のための想定最大外力の設定手法 平成 27 年 7 月 国土交通省 水管理・国土保全局
https://www.mlit.go.jp/river/shishin_guideline/pdf/shinsuisoutei_honnbun_1507.pdf