福島第1原発の処理水の海洋放出計画の信頼性

1)放出計画の実態

 

福島第1原子力発電所の処理水海洋放出が8月24日に始まりました。

 

今まで、海洋放出計画と監視システムが明確にされていない状態で、放出は科学的であると主張されてきました。

 

筆者は、事故から10年経って、トリチウム濃度は半減していますので、基本的に問題はないと考えています。

 

しかしながら、希釈水を2倍にすれば、トリチウム濃度を半減させることも出来ます。

 

希釈水の量を2倍にすれば、7年前でも、放流が可能だったことになります。

 

こう考えると、どうして、処理水海洋放出に、10年以上かける必要があったのかという疑問がわきます。

 

つまり、「問題は、トリチウムではない」可能性があります。

 

「ALPS(アルプス)」ではトリチウムは除去できていませんので、トリチウムだけがが問題であれば、「ALPS(アルプス)」は不要だったことになります。

 

トリチウム以外に問題のある物質が存在していて、その除去のために、「ALPS(アルプス)」が必要であったと考えると「ALPS(アルプス)」の必要性は納得できます。この推論は、「ALPS(アルプス)」は必要であった(結果)に対する原因(トリチウム以外に問題のある物質が存在していた)を推定するアブダプションになります。

 

2023年8月22日の毎日新聞は、その情報の一部を伝えています。(筆者要約)

 

 

 処理水の海洋放出をいま始めても、完了するのは30~40年後の見通しだ。そこまで時間がかかる理由は以下のステップにある。

 

(S1)タンクごとにバラバラな放射性物質の濃度を、混ぜ合わせて均一化しトリチウム以外の放射性物質が基準値未満になっていることを改めて確認する作業に約2カ月かかる。

 

(S2)これをさらに大量の海水で薄め、トリチウムの濃度を国の基準値の40分の1(1リットルあたり1500ベクレル)未満にして沖合1キロに放出する。

 

(S3)アルプスで処理済みタンクの約7割は、トリチウム以外の放射性物質の濃度が基準値未満まで下がっていない「処理途上水」だ。放出にはアルプスでの再処理が必要だが、元のタンクは放射性物質に汚染されているので、再処理後の水をためる方法が決まっていない。

 

 環境省原子力規制委員会は、海洋放出の間、放出口近くや福島県沿岸で海水や魚をモニタリングし、トリチウムなど放射性物質の濃度を監視する。東電によると、放出設備やモニタリングに異常があれば、緊急遮断弁が作動してただちに放出を止めるとしている。

 

つまり、アルプスの処理タンクの7割は、トリチウム以外の放射性物質の濃度が基準値以上であることがわかります。

 

しかし、問題のトリチウム以外の放射性物質が何かは書かれていません。

 

なお、毎日新聞の記事は混乱しています。(S1)と(S3)では、トリチウム以外の放射性物質の濃度が問題になっていて、(S2)では、トリチウムの濃度が問題になっています。

 

トリチウム以外の放射性物質の濃度が問題であれば、(S2)でも、トリチウム以外の放射性物質の濃度を基準に希釈するべきです。

 

なお、トリチウムの濃度を基準に、希釈すれば、トリチウム以外の放射性物質の濃度は更に低くなり問題がなくなる可能性はあります。しかし、その場合には、「アルプスで処理済みタンクの約7割は、トリチウム以外の放射性物質の濃度が基準値未満まで下がっていない」ことは問題にならないと思われます。

 

結局、何が正しいのか不明ですが、疑惑を生む状態にあります。

 

マイナンバーカードの不信は、政府には、マイナンバーカードのシステムを制御できる能力がないことが明らかになった点に由来します。

 

政府は、「福島第1原子力発電所の処理水海洋放出」を制御できると主張する訳ですが、システムマネジメントが同じレベルであれば、マイナンバーカードと同様の事故が起こる可能性があります。

 

2)西村カリン氏の批判

 

西村カリン氏は、G7広島サミットの首脳コミュニケ(声明)の英語原文の処理水についての記載を次のように和訳しています。

 

「われわれは、多核種除去システム(ALPS)処理水の放出がIAEAの安全基準と国際法に合致して実施され、人体や環境に害を及ぼさないことを確実にするために、IAEAによる独立した審査を支持する。それは福島第一原発廃炉福島県の復興にとって不可欠だ」

 

一方、日本政府による日本語の仮訳は次です。

 

「我々は、同発電所廃炉及び福島の復興に不可欠である多核種除去システム(ALPS)処理水の放出が、IAEAの安全基準及び国際法に整合的に実施され、人体や環境にいかなる害も及ぼさないことを確保するためのIAEAによる独立したレビューを支持する」

 

西村カリン氏は、原文では、G7の国々の首脳は「処理水の放出」が「不可欠」と言っていないし、賛同していないとして、G7広島サミットの首脳コミュニケの原発処理水をめぐる部分で日本政府は「意図的な誤訳」をしているといいます。

 

これは、「which is essential 」のwhichが何を受けているかという問題です。

 

政府訳は、「同発電所廃炉及び福島の復興に不可欠」です。

 

Beingは、「廃炉及び福島の復興に不可欠な」で、DeepL翻訳は、「廃炉作業と福島の復興に不可欠な」です。

 

西村カリン氏は、「それは(which)」の内容を明示していませんが、「福島第一原発廃炉福島県の復興」を指すと思われます。

 

この政府訳は、誤訳ではなく、問題がないと思われます。

 

参考

 

G7広島サミットの首脳コミュニケ

 

原文

 

 We welcome the steady progress of decommissioning work at Tokyo Electric Power Company Holdings (TEPCO)’s Fukushima Daiichi Nuclear Power Station, and Japan’s transparent efforts with the International Atomic Energy Agency (IAEA) based on scientific evidence. 

 

We support the IAEA’s independent review to ensure that the discharge of Advanced Liquid Processing System (ALPS) treated water will be conducted consistent with IAEA safety standards and international law and that it will not cause any harm to humans and the environment, which is essential for the decommissioning of the site and the reconstruction of Fukushima.

 

Google翻訳



  我々は、東京電力ホールディングス(東京電力)の福島第一原子力発電所における廃炉作業の着実な進展と、国際原子力機関IAEA)との科学的根拠に基づく透明性のある日本の取り組みを歓迎する。

 

我々は、高度液体処理システム(ALPS)処理水の排出がIAEAの安全基準と国際法に従って行われ、廃炉と福島の復興ために人体や環境に害を及ぼさないことを保証するためのIAEAの独立審査を支持する。

 

Being 

 

我々は、東京電力ホールディングス(東京電力)福島第一原子力発電所における廃炉作業の着実な進展及び科学的根拠に基づく国際原子力機関(IAEA)との透明性のある取組を歓迎する。

 

我々は、多核種除去設備(ALPS)処理水の排出がIAEAの安全基準及び国際法に合致して実施され、廃炉及び福島の復興に不可欠な人及び環境に害を及ぼさないことを確保するためのIAEAの独立審査を支持する。



DeepL翻訳



 我々は、東京電力ホールディングス(TEPCO)の福島第一原子力発電所における廃炉作業の着実な進展と、科学的根拠に基づく国際原子力機関IAEA)との日本の透明性のある取り組みを歓迎する。

 

私たちは、先進液体処理システム(ALPS)処理水の排出がIAEAの安全基準と国際法に沿って行われ、廃炉作業と福島の復興に不可欠な人体や環境に害を及ぼさないことを確認するため、IAEAの独立審査を支持する。



引用文献

 

処理水放出「完了まで30~40年」 なぜそこまで時間がかかるのか 2023/08/22 毎日新聞 土谷純一

https://news.yahoo.co.jp/articles/caac17904e82ded3b3f7e03b6bc3551f6ed62c8f

 

原発処理水をめぐる日本政府の「意図的な誤訳」...G7首脳陣は「放出」が「不可欠」とは言っていない 2023/08/24 Newsweek 西村カリン

https://www.newsweekjapan.jp/tokyoeye/2023/08/post-166.php

 

G7広島首脳コミュニケ

https://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/ec/page1_001700.html