(エビデンス革命の基本は、正しい推論と検証です)
1)基本的な誤解
エビデンス革命について、余りに誤解が多いので、整理しておきます。
なお、この説明は、パーシアンの立場で整理しています。
したがって、この説明は、他では見られないものです。
2)2つの推論と検証
正しい推論と検証の手順は次の2つだけです。
(1)アブダプションで仮説命題を作成して、RCT等を使ってエビデンスを得て演繹法で検証する
(2)帰納で、仮説命題を作成して、実験を行い演繹法で検証する
2番目の手法と混同される次の手法は間違いです。
(3)帰納で仮説命題を作成すれば、検証の必要はない。
ウィキペディアの帰納(Induction、英語版)には次のように書かれています。
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帰納的一般化
一般化 (より正確には、帰納的一般化) は、サンプルに関する前提から母集団に関する結論に進みます。このサンプルから得られた観察結果は、より広範な母集団に投影されます。
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ここで書かれているように、帰納と帰納的一般化は、別ものです。「一般化」は、「サンプルから得られた観察結果を、より広範な母集団に投影」することです。
命題(サンプルに関する前提)と命題(母集団に関する結論)は、異なった命題です。
これは、ヒュームの因果律の問題で、命題は、ある母集団とセットでなければ、反事実になってしまいます。サンプルは、命題を導きだす第1の母集団になっています。
より広範な母集団(母集団2,母集団3、、、母集団n)のどの母集団をとるべきかについては、帰納は何も情報を与えません。
「どの母集団をとるべきか」は決定的に重要な問題ですが、この問題は、演繹を使わないと情報が得られません。
ですから、一般化を帰納に含めるべきではありません。
この分析は、ここで止めますが、ポイントは、帰納は、母集団について何も言わないので、検証は含まれていないということです。
2021年までのロシアは、ウクライナと戦争をしていませんでした。実際は、ウクライナ位の一部を占有していますが、専門家は、その事実を戦争とは見なしていませんでした。
ここで、サンプルは、{2021年のロシア、2020年のロシア、2019年のロシア、、}になります。この母集団1に、「2022年のロシア」追加した母集団2を考えるします。母集団1から、ロシアは戦争をしないという命題が、得られます。これを、より広範な母集団2に、投影すべきかが、課題の中心になりますが、帰納ではなにも言えません。検証法も不明確になります。
命題を帰納で作らず、(1)のアブダプションを使った因果モデルにすれば、検証法は、原因のwith-withoutを比較すればよいことになります。
3)歴史的概観
物理学は、(2)の方法を採用して成功しています。
混乱は、ここから始まります。
帰納では、適切な因果モデルの仮説を作ることができない分野があります。
実験ができない、つまり、演繹による検証ができない分野があります。
つまり、(2)を使うことができない分野があります。
こうした分野では、エビデンスなしに、不完全であっても、(2)を準用すれば、科学的な研究が可能であると信じられてきました。
(1)は、この間違った(3)の手法を否定しています。
(1)は、過去20年の間に理論整備された分野で、今のところ道半ばです。
例えば、医療に使う薬の選択では、エビデンスに基づく検証がなされた薬の割合は10%程度です。90%の薬は、今まで使ってきて効果があったという経験的な知見((3)の方法)に依存しています。
とはいえ、(1)の方法で、EBMの結果が出れば、(3)は否定されます。
データサイエンスの理論では、(1)は正しく、検証のない(3)は、間違いです。
巷にある書籍、マスコミの記事の9割は、(3)に依存していて、手法が間違っています。