2019年に、ウクライナとロシアとの戦争が不可避であることを予言した前ウクライナ大統領府長官顧問で安保問題専門家のアレストビッチ氏が、2023年7月半ばにネット上で行った発言が注目されています。
吉田 成之氏の解説を要約します。
<
アレストビッチ氏は、アメリカ製F16戦闘機や、長射程地対地ミサイル「ATACMS」の供与が遅れているの理由は、アメリカが、ロシアに対する軍事的な「決定的優位性」をウクライナ軍に与えたくないというバイデン政権の戦略が原因であると指摘しました。
アレストビッチ氏は、バイデン政権は侵攻してきたロシア軍に対し、ウクライナ軍が負けないよう軍事支援はするものの、圧倒的に勝つような軍事的優位性は与えないという戦略的目標を持っているいいます。
アレストビッチ氏は、今後、領土奪還のテンポが大きく上がらず、反攻作戦が膠着状態に陥った時期を見計らって、バイデン政権がウクライナとロシアに対し、戦争を凍結し、停戦協議を行う提案をするだろうと予言しました。
アレストビッチ氏は、その場合、「ウクライナ全領土をキーウ側とロシアの間でそれぞれの実効支配地域ごとに分割する」といった内容の停戦協定になるだろうと予言しています。
これは、ウクライナ政府側がほぼ現状のまま全土の約80%、ロシアが約20%を占有することになります。この案を受け入れる前提として、アレストビッチ氏はウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟が認められることを挙げています。ロシアに移譲される国土については、将来的に「非軍事的手段」で取り戻すことになるだろうと予言しています。
>
ロシア軍は、地雷帯を設置しており、これを通過することは容易ではありません。クラスター弾は、地雷帯を無効化する効果があるようですが、万能とは思われません。
ウクライナ軍は、6月から反転攻勢をかけていますが、今のところ、大きな面積の奪回に成功してはいません。一方、ロシアは、ワグネルの反乱があって、兵士不足になりつつあります。
しかし、ウクライナも、精鋭部隊が無尽蔵にある訳ではありません。
つまり、双方とも、人材が枯渇しつつあります。
アメリカは、大統領選挙に突入しつつあり、ウクライナへの支援の増額が、難しくなっています。
ロシアはもはや、ソ連時代のような経済大国ではありません。とはいえ、エマニュエル・トッド氏が指摘しているように、サービス業などを除いた実体経済の大きさでみれば、小国ではありません。
ウクライナの経済規模は、ロシアより小さいので、結局、アメリカが停戦を推奨(つまり、軍事支援を縮小)すれば、ウクライナは、それに応じる以外の対応はできません。
アレストビッチ氏の予言の不確定要素は、ウクライナのNATO加盟です。
そもそも、ロシアがウクライナのNATO加盟に反対していなければ、ウクライナ戦争は起こらなかった思われます。
2023年7月11、12日の両日にリトアニアの首都ビリニュスで開かれたNATO首脳会議で、ゼレンスキー政権は、NATO加盟の具体的な時期や道筋が示されることを期待していたと思われます。しかし、ロードマップはでませんでした。
この対応は、アメリカがロシアとの対決回避する停戦交渉による紛争凍結を、ウクライナのNATO加盟に優先したと解釈できます。
つまり、ロシアとしては、ウクライナのNATO加盟を阻止することが、戦争の大きな目的でした。そう考えると、ウクライナが停戦案を受け入れる条件として、ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟の承認を前提にできるかは、不透明に思われます。
ロシアとウクライナの双方が、兵士、武器、弾薬がなくなれば、停戦に近づきます。しかし、その条件は、単純ではないと思われます。
また、アレストビッチ氏は、言及していませんが、ロシアと中国、インドとの関係も影響があります。
例えば、ロシアが、停戦において、ウクライナのNATO加盟を認める可能性は、ロシアと中国の関係が、ウクライナ戦争の開始時期に比べて、大きく変化していれば、高くなっていると思われます。簡単にいえば、ウクライナのNATO加盟がロシアの戦略的なリスクになりにくい状況に変化していれば、停戦の可能性は高くなります。
引用文献