予想されたことではありますが、アメリカのクラスター弾の供与が大きな問題になっています。
1)経緯
6月23日のロイター報道は以下です。(筆者の要約)
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米国防総省のクーパー副次官補は、議会の公聴会で、6月22日、ウクライナが米国に供与を要請しているクラスター爆弾について、議会での制約や同盟国からの懸念を踏まえ、ウクライナへの供与はまだ承認されていないと明らかにした。
ウクライナは155ミリ榴弾砲向けクラスター弾と無人機(ドローン)から投下するクラスター弾MKー20を要求している。
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この記事から、アメリカは、同盟国との調整をはかっていることがわかります。
6月22日のBBCの記事は次の様に伝えています。(筆者要約)
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ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は6月21日、ロシアに占領されたウクライナの地域を奪還するための反転攻勢について、戦場での進展が「望んでいたよりも遅い」と、BBCのインタビューで認めています。
アメリカ製のF-16戦闘機がウクライナに提供されると改めて主張しました。早ければ8月から戦闘機のパイロットが訓練を開始し、戦闘機の第一陣が6~7カ月後に到着する予定です。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は6月16日、ロシアの戦術核兵器の第一陣がすでに、隣国ベラルーシ領内に配備されていると述べた。アメリカのジョー・バイデン大統領は、プーチン氏による核兵器使用の脅威が現実のものとなったと警告しています。
6月6日には、ウクライナ南部ヘルソン州カホフカ水力発電所の巨大ダムが決壊しています。
遠藤誉氏は、「G7広島サミットは、第三次世界大戦への『進軍ラッパ』を鳴らしたに等しい」と指摘していました。5月21日の広島サミットの時期に、F-16戦闘機の供与があり、6月16日に、プーチン大統領の「ロシアの戦術核兵器の第一陣がすでに、隣国ベラルーシ領内に配備されている」発言があり、7月7日に、アメリカは、ウクライナにクラスター弾を供する決定をしていますので、状況は1か月単位で、激変しエスカレートしています。
仮に、ウクライナがクラスター弾を使って効果がでれば出るほど、ロシアが核兵器を使う確率は高くなります。
ロシアが占拠しているウクライナ南部のザポリージャ原子力発電所について、IAEA=国際原子力機関は7月4日、主要な外部電源への接続が切れたと明らかにしました。IAEAの声明によりますと、ザポリージャ原発では、主要な外部電源への接続が切れ、原子力の安全に必要な電力をバックアップの送電線のみに頼る状態になっているということです。
ミコライフ州の南ブグ川沿いの南ウクライナ原発が次の標的になる可能性もあります。
流れをみれば、1か月後(8月7日から14日の間)に、次のレスポンスがロシアからあると考えられます。あるいは、中国かインドが仲介に動く可能性もあります。ザポリージャ原子力発電所で、事故が発生する可能性もあります。
遠藤誉氏は、「広島ビジョン」を次の様に解釈しています。
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G7で出された「広島ビジョン」は「安全が損なわれない形で、現実的で実践的な責任あるアプローチ」という魔法のような言葉で、「核を持つことによる抑止力=核抑止力」を肯定している。
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この解釈が正しければ、日本政府は、クラスター弾反対の声明をだすことはありえません。
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは7月6日公表の報告書で、ウクライナ国内でロシア、ウクライナ双方の軍がクラスター爆弾を使用し、民間人の死者を出していると指摘した。両国に使用の中止を訴え、米国にはクラスター爆弾を供与しないよう求めています。
2)7月7日以降
7月7日に、アメリカは、ウクライナにクラスター弾を供与すると発表しました。
スナク英首相は8日「英国は製造や使用を禁止し、その使用をやめさせる条約に加盟している」と記者団に述べ、反対しています。
スペインのロブレス国防相は8日、「クラスター弾はノー、クラスター弾を用いないウクライナの正当防衛はイエスだ。クラスター弾を提供すると決めたのは米政府であり、スペインが加盟する北大西洋条約機構(NATO)の決定ではない」と異議を唱えています。
イタリアのメローニ首相とドイツも反対しています。
7日のCNNのインタビューで、バイデン大統領は次の様に述べています。
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バイデン氏は「私にとって非常に難しい決断だった」「同盟国や連邦議会の友人たちと協議した」と述べたうえで、「ウクライナは弾薬が底を突きかけている」と指摘した。
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しかし、上述のように、NATO諸国では、同盟国(NATO)との協議が済んでいないと反対している国があります。
なお、インタビューで言及されているのは、「155ミリ榴弾砲向けクラスター弾」のみで、「ドローンから投下するクラスター弾MKー20」は出ていません。今回は、MK-20は含まれないようです。
3)BBCの解説
日本の新聞の記事では情報不足ですが、BBCは詳細な説明をしています。
3-1)サリヴァン大統領補佐官(国家安全保障担当)の7日の記者説明
サリヴァン大統領補佐官(国家安全保障担当)の7日の記者説明は以下です。(筆者要約)
「クラスター弾の不発弾が民間人への危害リスクを作り出すことは、認識している。だからこそ可能な限り今回の決定を先延ばしにした。
ウクライナはクラスター弾を、どこかの外国で使うわけではない。自分たちの国を守ろうとしている。
ウクライナが砲弾不足に陥っており、アメリカが国内で兵器製造を急ぐ間、その『供与のつなぎ』となる兵器が必要である。
この紛争の期間中、ウクライナが無防備となる状態は一切つくらない」
クラスター弾は不発率が高く、不発で地上に残った小型爆弾が数年後に爆発する危険があります。
サリヴァン補佐官は、アメリカがウクライナに提供するクラスター弾は不発率が2.5%以下で、ロシアのクラスター弾の不発率よりもはるかに低いと話しました。
国防総省のコリン・カール報道官は記者会見で、アメリカはクラスター弾を「数十万個は提供可能だ」と話しました。
アメリカは2009年の国内法で不発率1%以上の国内製クラスター弾の輸出を禁止していますが、大統領は規制の適用を回避できます。なお、不発率1%未満のクラスター弾は、開発中ですが、実現していません。
反対派と賛成派の意見も、紹介されています。
(S1)ロシアがクラスター爆弾を使用しているとの情報について当時の米大統領報道官、ジェン・サキ氏は、情報が事実ならば「戦争犯罪」に相当すると答えた。
(S2)国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は7日、クラスター弾の使用中止を求める声明を出しました。OHCHRのマルタ・フルタド報道官は「クラスター弾によって、小型爆弾が広範囲に散らばり、多くは何年もたって人を殺害し、重傷を負わせる。だからこそクラスター弾の使用はただちに中止すべきだ」と述べました。
(S3)アメリカ議会でも一部の議員はバイデン政権に、戦場でのメリットよりも人道的な損失のほうが大きいと主張し、クラスター弾供与の中止求めています。
(S4)国防総省のローラ・クーパー国防次官補代理(ロシア・ウクライナ・ユーラシア担当)は6月、連邦下院外交委員会の公聴会で証言し、軍事アナリストによれば。クラスター弾は「特に地中に拠点を掘っているロシア軍部隊に対して有効」だと説明しました。
BBCのフランク・ガードナー氏は、「なぜウクライナはクラスター弾を要求しているのか」という記事を書いています。(筆者要約)
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ウクライナの砲弾不足が深刻化している。ロシア軍と同様、ウクライナ軍も非常に速いペースで砲弾を消費しており、西側の同盟諸国による補充が間に合わないからだ。
ウクライナ南部や東部の戦場では、両軍ともほとんど前進することなく膠着(こうちゃく)状態が続いている。そこでは、砲弾が最も重要な武器なのだ。
ロシア軍は全長1000キロに及ぶ前線のいたるところに塹壕や拠点を掘り、徹底的に守りを固めている。ウクライナ軍は現在、そこからロシア勢を追い出さなくてはならないという、大変な作業に取り組んでいる。
それにもかかわらず砲弾が足りていないという状況で、ウクライナはアメリカに、クラスター弾の補充を要求した。 前線の随所に掘られた塹壕で守備にあたるロシアの歩兵を狙い撃ちにするため。
アメリカ政府にとって、これは決して簡単な決定ではなかった。与党・民主党内からも、多くの人権活動家からも、厳しく非難されている。クラスター弾の供与をめぐる議論は少なくとも半年前から続いていたものだ。
アメリカの決定の影響は
ウクライナでの戦争についてアメリカ政府はこれまで、道義的な正当性は自分たちにあるという姿勢を堅持してきた。今回の決定の直接的な影響として、アメリカのその姿勢が大きく揺らぐことになる。
ロシアが数々の戦争犯罪を重ねてきたとされる内容は、数多く記録されている。しかし今回の動きは、アメリカの偽善を表すものだと批判されるだろう。
クラスター弾はおぞましく残酷な無差別兵器だ。世界の大半で禁止されているのは、それなりの理由があってのことだ。
今回の決定でアメリカの歩調は、他の西側諸国と多少ずれてしまうはずだ。そして、西側の同盟関係に多少なりともひびが入ったという、そういう見た目こそ、まさにロシアのウラジーミル・プーチン大統領が求め、必要としていることだ。
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4)まとめ
核兵器廃絶を訴えるのであれば、政府は、真っ先に、クラスター弾に反対すべきです。日本は、核兵器廃絶を訴えてはいません。安全保障のためには、核配備をすべきでしょうか。筆者には、どららがよいかわかりません。ただ、心配なことは、プランB(ここでは核配備)の検討をすることは認められない無謬主義があるように思われることです。
クラスター弾は、自衛隊も所有していますし、核兵器より、議論しやすい素材です。
であれば、クラスター弾を例に、あるべき、日本の軍備の課題が議論されてしかるべきであると考えます、
引用文献
ウクライナへのクラスター爆弾供与、まだ承認されず=米高官 2023/06/23 ロイター
https://jp.reuters.com/article/idJPL6N38E0D0
ウクライナ・ロシアともにクラスター弾使用停止を、人権団体が訴え 2023/07/06 ロイター
https://jp.reuters.com/article/idJPL6N38S03R
米国のクラスター弾供与、英独は提供否定 NATOで溝 2023/07/09 日経新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR083OP0Y3A700C2000000/
クラスター弾供与に反対 英首相 2023/07/08 時事通信
https://www.jiji.com/jc/p?id=20230708215739-0045787704
スペインも異議 クラスター弾供与 2023/07/08 時事通信
https://www.jijicom/jc/article?k=2023070800495&g=int
米、クラスター弾供与表明 ウクライナ反攻支援、批判も 2023/07/08 時事通信
https://www.jiji.com/jc/article?k=2023070800129&g=int
ゼレンスキー氏、反転攻勢の進展「望んだより遅い」 BBCインタビュー 2023/06/22 BBC ヤルダ・ハキム
https://www.bbc.com/japanese/65970201
アメリカ、ウクライナにクラスター弾供与へ 批判も多く 2023/07/08 BBC
https://www.bbc.com/japanese/66129856
クラスター弾とは何か、なぜアメリカはウクライナへ供与するのか 2023/07/08 BBC フランク・ガードナー、BBC安全保障担当編集委員
https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-66140907
ウクライナへのクラスター弾供与、「難しい決断」だった バイデン氏単独インタビュー 2023/07/08 CNN
https://www.cnn.co.jp/usa/35206299.html
G7広島サミットは第三次世界大戦への「進軍ラッパ」か 米国軍事安全保障シンクタンク公開書簡から 2023/05/24 遠藤 誉