権威の方法の恐れるもの(1)

1)本の購入

 

ひさしぶりに、書籍を購入しました。

 

3年くらい前までは、毎週2冊くらい本を読まないと不安でした。

 

5年くらい前までは、毎日1冊以上本を読まないと不安でした。

 

本を読む数がへった理由は、次の3点です。

 

(S1) 和書の情報量が余りに少ないので、英語版のWEBや公開資料(パワポ)を読む方が、効率的であることがわかった。

 

(S2)WEBの和書の下書きや、出版された本の内容紹介で、7割程度の情報が入手できます。残りの3割のために、コストと時間を使う必要性をあまり感じなくなった。

 

(S3)エビデンスベースで考えると、あえて間違いだらけの本を読むこともないと分った。

 

今回は、野口悠紀雄著「日銀の責任」を購入しました。

 

この本は、2013年のアベノミクス以来の一連の野口氏の著書の総まとめになっていますので、頭の整理にはなりました。

 

2)権威の方法のめざすもの

 

野口氏は、2013年以来、金融緩和の問題点を指摘しています。

 

しかし、それに対する回答は一度も得られていません。

 

一度だけ、野口氏とアベノミクスのブレインの経済学者が、テレビの討論会で、議論したことがあり、その場では、野口氏の圧勝であったという伝説が残っています。



元日銀職員の熊野英生氏は、清滝信宏プリンストン大教授が、植田新総裁のまえで、空気を読まない批判的な発言をしたことに驚いています。

 

つまり、日銀の政策検討では、総裁の発言に権威があり、疑義や、反対意見は求められていないようです。

 

河村 小百合氏は、日銀の金融政策とFRBの金融政策を比較して、違いを述べています。FRBの政策は、プラグマティズムの世界で、エビデンスに基づいて政策を決定しています。これは、プラグマティズムが分っていれば、調べる前から予測できることです。

 

野口氏は、具体的に、FRBが、自然利子率を基準に政策を決定している方法を紹介しています。

 

要するには、日銀は、プランBを聞く耳は持ちませんし、熊野英生氏が言うように、空気を読まない発言をしそうな専門家は、事前に排除されていることになります。

 

野口氏は、日銀の金融政策は、円安を誘導して、家計から企業への所得移転によって、企業の利益を増やす目的で行われたと断じています。

 

その結果、日本企業では、技術革新と労働生産性の向上が30年間ストップしています。

 

しかし、企業にとっては、技術革新と労働生産性を向上させなければ、競争優位にはなれません。つまり、円安誘導による利益増大は、中期的には、全く不合理な方法になります。

これは、株主利益を損なう経営になります。

 

野口氏は、日銀が、「支離滅裂でよいから、時間稼ぎをすればよい」と考えた可能性を排除できないといいます。

 

これは、日銀が、合理的、あるいは、科学的でない意思決定をした可能性を指しています。

 

同様に、企業のCEOが、円安誘導という合理的、あるいは、科学的でない意思決定をした可能性が高いわけです。

 

つまり、「日銀と企業は合理的な意思決定をしてこなかった」ように見えます。

 

その場合には、日銀と企業は、問題解決(経済成長)をするつもりがないことになりますので、何を論じても無駄になります。

 

意思決定(fixation of belief)が、科学の方法で行われていれば、そのようなことはおこりません。

 

しかし、意思決定(fixation of belief)が、権威の方法で行われていれば、話は違ってきます。

 

権威の方法が、科学の方法と対立した場合、科学の方法を叩き潰さなければ、権威の方法は生き残れません。

 

2000年以降、金融機関では、金融工学の高度人材をやとって、金融商品を開発することが、労働生産性を上げる方法でした。

 

しかし、日本の金融機関はどこもそれを実施しませんでした。権威の方法によって、科学の方法の高度人材を排除し続けてきました。

 

ここで、日本の金融機関でも、欧米と同じように、科学の方法による意思決定(fixation of belief)を採用していれば、高度人材が働いていたはずです。

 

その場合を想定すれば、現在の金融機関のCEOの半数は入れ替わっていたはずです。

 

つまり、現在、金融機関のCEOや企業幹部になった人で、金融工学に詳しい人は皆無です。仮に、社内の金融工学のプロがいて、新しい金融商品で利益を上げていれば、現在のCEOの半分は、出世競争に負けて、CEOにはなっていないはずです。

 

つまり、現在のCEOには、科学の方法を封印して、競争相手となる金融工学の専門家を雇わないことで、ポストを得た疑惑があります。

 

現在のCEOが、数学が得意で、金融工学のプロ以上に金融消費の開発に秀でていれば、金融工学のプロを雇ったはずです。ところが、現在のCEOが、数学が得意であれば、権威の方法を使って、円安で利益を出すことが実現可能な唯一の出世のルートになります。

 

こうなれば、技術力は低下し、科学技術立国からはとおのいてしまいます。

 

この体制が変わらなければ、リスキリングしてもまともなポストはありません。

 

年功型雇用を維持して、スキルではなく、ポストに給与が連動している限りは、権威の方法が、科学の方法を押しつぶす状況は変わらないと思われます。

 

 

引用文献



河村 小百合 (著)日本銀行 我が国に迫る危機 (講談社現代新書) – 2023/3/16



野口 悠紀雄 (著) 日銀の責任 低金利日本からの脱却 (PHP新書)-2023/05



コラム:ノーベル賞に近い清滝氏の挑戦的発言、緩和長期化と低生産性を読み解く=熊野英生氏 2023/05/23 ロイター

https://jp.reuters.com/article/column-hideo-kumano-idJPKBN2XE0CR