アブダクションは唯一の仮説を作成する推論である

1)因果モデルと探求の方法

 

因果モデルで、原因(C)と結果(R)を考えます。

 

因果モデルは、C=>R

 

if C then R

 

と書けます。

 

この因果モデル(仮説)を作成する方法を「探求の方法」と呼ぶことにします。

 

推論とは、既知から未知を推定する方法です。

 

CとRのいずれかが既知で、残りが未知になります。

 

(1)Rが既知で、Cが未知の場合

 

アブダクション(Abduction)になります。

 

(2)Cが既知で、Rが未知の場合

 

一般の名称はありませんが、ここでは、逆アブダクションと呼ぶことにします。

 

2)既知と未知

 

既知とは、文字どおり知られていること、情報を得ていることになります。

 

問題は、未知です。全く未知なものは、因果モデルの構成要素にすることはできません。

 

数学で、未知変数と言う場合には、変数名はわかっていますが、その値がわからない場合を指します。

 

同様に、因果モデルの未知の意味は、原因または、結果の要素名は既知だが、値が未知である場合と考えます。

 

ここで、原因集合(n要素)と結果集合(m要素)を考えます。

 

仮説の候補を作成することは簡単です。

 

以下では、最も単純な、1原因、1結果モデルを対象にします。

 

(1)総当たり法

 

原因集合と結果集合から1要素ずつをピックアップします。

 

組合せは、mxn通りあります。

 

(2)逆アブダクション

 

原因が既知で、結果が未知の場合です。

 

原因集合の要素を固定して、結果集合から

 

1要素ずつをピックアップします。

 

組合せは、m通りあります。

 

(3)アブダクション

 

結果が既知で、原因が未知の場合です。

 

結果集合の要素を固定して、原因集合から

 

1要素ずつをピックアップします。

 

組合せは、n通りあります。

 

>

 

推論では、原因と結果の片方が既知で、残りが未知を前提にしています。

 

したがって、「総当たり法」は、対象外になります。

 

そうすると、仮説をまとめることができるのは、「逆アブダクション」か「アブダクション」になります。

 

「総当たり法」に見られるように、仮説の候補を作ることは容易です。

 

問題は、候補を絞り込むことです。

 

ちょっと考えれば、わかりますが、「逆アブダクション」では、仮説の候補を絞り込むことはできません。絞り込む判定基準がありません。

 

アブダクション」の場合には、ある程度絞り込むことが可能です。

 

「探求の方法」には、「アブダクション」だけが使えます。

 

3)よくある間違い

 

パースは、帰納法と仮説を混乱していたと述べています。

 

帰納法は、仮説を一般化する推論です。

 

帰納法では、仮説を作ることはできません。

 

帰納法演繹法は、仮説があれば、仮説を一般化したり、仮説を実装することが出来ますが、仮説をつくることはできません。

 

現地調査で、データを集めて、そこから、仮説を導き出そうとする人がいます。

 

仮説を導き出す作業は、帰納法ではありません。

 

推論の既知と未知の区別を考えずに、集めたデータから、総当たり法で、仮説をまとまられると考えている人も多くいますが、全くの無駄です。

 

研究費と時間の浪費にしかなりません。

 

サンマの漁獲量が減っています。

 

ここで、結果は、サンマの漁獲量の減少です。

 

集めたデータから、その原因を探しますが、原因は容易には見つかりません。

 

温暖化の影響、中国の漁船の乱獲など、データを集めた後で、「アブダクション」をしても、原因候補のデータが入手できるものは殆どありません。

 

これは、仮説をつくる唯一の方法が、「アブダクション」であることを無視しているためです。

 

中には、計測結果を並べるだけで、仮説を提示しないゴミ研究も多くみられます。

 

仮説に関与しないデータはゴミにすぎません。

 

生態学のモデルのような複雑なモデル(仮説)では、仮説に含まれないデータは少なく、多くのデータが必要です。しかし、に使うデータに要求される属性値は多く、正確な位置と時間のないデータは、使えないゴミになります、

 

4)応用例

 

少子化対策が問題になっています。

 

ここでは、出生数が少ないが結果です。

 

アブダクション」では、未知変数の原因を評価します。

 

生産年齢人口の女性数は、直ぐには増えません。

 

出生数を増やすためには、婚姻率をあげるしかありません。

 

子育て支援は、婚姻率に比べれば、2次的な影響しかないことは直ぐにわかります。

 

子育て予算を増やすことと、出生率には直接的な関係はありません。

 

不妊治療に保険適用をしても、増加する出生率はわずかで、効果は限定的です。

 

これは、減少する人口速度に追いつかない弱形式の(時間稼ぎの)問題解決にすぎません。

 

婚姻率をあげるためには、若年層の所得をあげる必要があります。

 

若年層の所得は、労働生産性と配分率で決まります。

 

DXをしないで非正規雇用を増やせば、労働生産性は下がり続けます。

 

年功型雇用で、若年層への配分率を下げれば、所得は更に減少します。

 

子ども予算増の財源を社会保険料にとれば、更に所得は減少します。

 

婚姻率が下がっていることは、社会構造が崩壊していることを意味しています。

 

アブダクション」を使えば、仮説をかなり絞りこむことができます。

 

もちろん、最終的には、科学的な検証によって、仮説(ブリーフ)の固定をする必要があります。しかし、重要な仮説の候補を見落とす可能性は低くなります。

 

子ども予算では、「アブダクション」が使われていないことがわかります。

 

雇用形態を変えなければ、婚姻率は上がりません。

 

問題があった時に、「アブダクション」を使えば、無駄を大きく減らすことができます。



アブダクション」を特殊な推論のように説明してる例も多いですが、その説明者は因果モデルが理解できてないことになります。



重要なブリーフを見落として、重要でないブリーフ(政策)を実行しても、効果はあがりません。

 

それは、The fixation of beliefのテーマです。