科学的方法の進化論(8)

(8)4つの方法からわかること

(4つの方法からわかることをまとめておきます)

 

1)反証可能性

 

 「反証可能性」(falsifiability)はオーストリア出身の哲学者であるカール・ポパーによって提唱された概念です。「科学的な命題は,経験によって反証可能でなければならない」ということを主張します。

 

類似の考えに、ブリーフが、間違っていることを証明するためには、反例を一つ挙げればいいがあります。

 

この科学と非科学の線引き問題には、膨大な文献があり、とても読み切れませんので、生成AIの助けをかりないと、サマリーすらつくれないと思われます。

 

一方、パースのアプローチは、単純です。

 

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数世代にわたって記憶されるほど偉大な科学の作品はすべて、それが書かれた当時の推論技術の欠陥の状態を示すいくつかの例証を提示しています。ラヴォアジエとその同世代の人々が化学の研究に取り組んだときもそうでした。昔の化学者は、「読んで、読んで、読んで、働いて、祈って、また読んで」という言葉を信条としていました。ラヴォアジエの方法は、本を読んで祈ることではなく、長く複雑な化学的プロセスがある効果をもたらすと夢想し、鈍い忍耐でそれを実践し、必然的に失敗した後、何らかの修正によって別の結果をもたらすと夢想し、最後の夢を事実として公表して終わることでした。彼の方法は、自分の心を実験室に持ち込み、文字通り、蒸留器(alembics)と蒸留瓶( cucurbits i)を思考の道具にすることで、推論を、言葉や空想の代わりに現実のものを操作して、目を開いて行うものという新しい概念を与えました。

 

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モノに対する科学的方法bは、実際に使ってみて、調整します。その方法の妥当性は、論理的にアプリオリに証明はできません。

 

同様に、コトに対する科学的方法aも、実際に使ってみて、調整します。その方法の妥当性も、論理的にアプリオリには証明できないと考えます。

 

つまり、エビデンスが論理より優先するという科学の立場を逸脱することはありません。

 

これが、プラグマティズムが、哲学ではなく、哲学的伝統と呼ばれる由来です。

 

4つの方法からわかることは、非科学的な方法でも、ブリーフが成立する場合があるということです。

 

ビジネスでは、開発した商品がヒットした、購入した株の価格が上昇したといった実績があれば、その人は成功者とみなされ、出生して、幹部になったアドバイスをするようになります。

 

高度経済成長期には、年功型雇用がなされていましたので、年功型雇用は、経済成長に寄与したと考えられてます。

 

しかし、科学的に固定化されたものでないブリーフでも、まぐれ(強運)で成立する可能性を排除できません。

 

優秀なビジネスマンがヒット商品を連発したり、トレーダーが、継続的に利益を出す場合には、まぐれ(強運)である確率は低くなります。

 

しかし、実績で、「ブリーフを固定化する」ことを評価するには、複数のブリーフを実際に運用してみる必要があります。ブリーフが有効であればよいですが、ブリーフが失敗である場合には、大きな損失を生じてしまいます。

 

つまり、実績評価方式を採用する限り、ブリーフが失敗した場合に、大きな損失を生ずる大胆な革新的なブリーフは排除されて、ブリーフが失敗した場合でも、小さなな損失しか生じない改良型のブリーフが固定化(選択)されます。

 

4つの方法は、実績評価方式ではなく、プロセス評価方式です。

 

この方法は、プロセスを評価するため、実績が生ずる(利益または、損失が生ずる)前に、評価が出来る点です。

 

ベンチャー企業などのハイリスクのブリーフに挑戦するには、プロセス評価方式は必須です。

 

なお、4つの方法では、ブリーフの中身は検討されていません。

 

これは、科学的方法以外のブリーフの中身は、検討するに値しないと思われているからです。

 

プロセス評価方式では、ブリーフの中身も問題になります。

 

あるブリーフが他のブリーフの部分集合で、内包関係にあれば、根源的なブリーフが選択できます。

 

2)議論の余地

 

2023年4月3日のNewsweekで、六辻彰二氏は、少子化対策の問題点を論じています。

同様な、政策の問題点が論じられる場合も多くあります。

 

こうした論者は、問題点を指摘することで、政策が改善されると期待しています。

 

しかし、問題点の指摘が効果をあげられるのは、ブリーフの固定化が、科学的方法によっている場合だけです。

 

首相や大臣が政策(ブリーフ)に、最初に名前をつけて、あとから中身を検討する場合があります。

 

これは、政策(ブリーフ)の中身が使えるから選択されたのではなく、権威者が、政策(ブリーフ)を提案したから、固定化しています。

 

つまり、政策(ブリーフ)がよい(効果が見込める)から実施する(固定化する)のではなく、内容は何でもよいので、権威者の提案(ブリーフ)だから、実施される訳です。

 

パースの4つの方法によれば、この場合には、議論の余地はありませんし、政策の効果もひくいことが最初からわかっています。

 

権威者は、「最少に、政策に名前をつけてから、後で、内容を決定する」場合と、「先に内容の検討をしてから、後で、名前をつける」場合は、同じだと考えている可能性があります。

 

しかし、パースの4つの方法によれば、この2つは、固定化の方法が全く異なるので、別ものです。

 

権威の方法を使えば、固定化されたブリーフが効果を発揮する確率は各段に低くなります。

 

軍隊や行政組織では、上からの命令は絶対であると思われているフシがあります。

 

しかし、エビデンスを無視した権威の方法は、惨事を招きます。

 

例えば、福島第1原事故の時、東京電力の幹部は、権威の方法によるブリーフの固定化を試みました。これに対して、所長の吉田氏は、幹部のブリーフを無視して、自分で作ったブリーフを固定化しました。これは、幹部の権威の方法によるブリーフが、原発事故現場のエビデンスを無視していたからです。吉田氏は権威の方法を退けて、科学的方法でブリーフを固定化しました。

 

もし、科学的方法が使われていなければ、大惨事になっていました。

 

権威の方法は、科学的方法ではないので、科学と対立します。

 

パースの4つの方法は、権威の方法に対する注意にもなっています。



年功型雇用は、年齢とポストで、権威と給与が決まります。

 

CEOが科学的文化を理解していないと、人文的文化でブリーフが固定化されます。

 

ブリーフは教養や哲学(形而上学)で決めるべきだと考えている幹部が大勢います。

 

この場合、科学的方法が理解できないので、話し合いは不可能です。



引用文献




少子化対策「加速化プラン」がまさに異次元である3つの理由──社会との隔絶 2023/04/03 Newsweek 六辻彰二

https://www.newsweekjapan.jp/mutsuji/2023/04/3-6.php