(出来ないことはするべきではありません)
1)イチゴの話
上海在住の山田珠世氏は、上海で売られるイチゴで一番多いのは「奶油草莓」(静岡生まれの「章姫」(あきひめ))という名前のイチゴだといいます。中国は世界一のイチゴ生産国で、生産量は日本の22倍あるそうです。
山田珠世氏は、「章姫」の流出を止めるべきだったという論調ですが、園芸店で手にはいる品種の流出を止めることが不可能です。
販売時に苗のIDをつけて、販売先を全登録しても、株分けで増やせますので、意味がありません。
同じことはシャインマスカットなどについても言えます。
品種を開発する場合には、苗を登録農家以外に販売しないようなクローズドシステムを使わない限り、流出は止められません。企業が品種開発をする場合には、クローズドシステムを採用することも可能ですが、公的機関が開発した品種では、これはできません。
できることは、流出を織り込むか、相手政府に賠償を求めるしかありません。
2)半導体産業の話
2012年にソニーと東芝、日立のディスプレー事業が統合した「日の丸連合」の液晶パネルメーカーの「ジャパンディスプレイ」は、中国メーカーとの価格競争で8年連続の最終赤字になり、2023年3月9日、中国企業に有機EL量産技術の供与を発表しました。
これは、出来ないことを無理にした結果ではないでしょうか。
半導体の日の丸連合「エルピーダメモリ」は、2012年に経営破綻し、10年を経て、2022年11月に、新会社ラピダスを立ち上げています。
ラピダスには、トヨタ自動車やソニーグループなど日本企業8社が共同出資で設立しています。旗振り役の経済産業省は700億円を支援しています。
ラピダスの東哲郎会長は、「日の丸連合では勝てない」といい、最先端技術はアメリカ・IBMを頼って、加工線幅2ナノメートルの微細な最先端ロジック半導体を開発し、2020年代後半に日本国内の試作ラインで生産を始める計画です。
2023年12月21日の現代メディアで、加谷 珪一は次のように言っています。(筆者要約)
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2ナノメートル以下の最先端の製造プロセスの技術が実現できる確実な見通しを描けるのは、2022年時点では米インテル、台湾TSMC、韓国サムスンの3社だけです。
2ナノメートルの量産体制を確立するためには、最低でも5兆円程度の先行投資が必要で、3社はこの水準の巨額投資を行う方針を明らかにしています。
ラピダスは、(5兆円の)資金のメドが立っていません。政府も(5兆円の)資金の全面支援を表明していません。
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ゴロー氏によると、同じころ、半導体材料や装置のコンサルティングを手掛ける米AZ Supply Chain Solutions(AZサプライチェーン・ソリューションズ)の亀和田忠司氏は、「2nmは手段であって目的ではない。具体的な顧客や製品は何か、コスト競争力をどう担保するのか、お金を稼げなければ産業として成り立たない」と分析しています。
ラピダスの東哲郎会長は2023年2月2日に、ロイターのインタビューに応じ、2020年代後半にも目指す生産ライン立ち上げには7兆円程度の投資が必要になるとの見方を示しています。
つまり、資金調達の裏づけのない5兆円が7兆円に膨らんでいます。
亀和田忠司氏、開発資金は、「具体的な顧客や製品を絞って、コスト競争力を担保して、お金を稼いで、利益を投資に回さなければ、2nmは実現できない」という趣旨でした。
また、亀和田忠司氏、「2nmは手段であって目的ではない」といっています。
つまり、儲かる半導体産業が目的であって、「2nmは手段」でなければ、実現不可能という判断です。
ラピダスのスタート前ですが、2021年に、 湯之上隆氏は次のように言っています。(筆者要約)
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1980年中旬から2010年頃までは、政府や経産省は、半導体企業対策を行ったが、全部失敗した。(「エルピーダメモリ」が事実上破綻した)2011年以降、半導体事業は、放置され、空白の10年間が過ぎた。
空白の10年間に、優秀な半導体技術者は、海外企業や装置および材料メーカーに転職して、日本には、半導体の設計技術者も、プロセス技術者も、いなくなった。
日本の半導体産業を再生させるには、小中高の教育改革から着手する必要がある。半導体技術者を育てなければ、再生はない。改革には20から30年の歳月を要する。
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イチゴの流出と同じように、出来ないことは、認める必要があります。
それから、東哲郎氏は、74歳です。天下りもそうですが、高齢の人をトップに据えるべきではありません。
若年の人であれば、企業が傾けば、次の転職先に行き詰ります。
なので、真剣に経営を考えます。
資金の目途もなく「7兆円程度の投資が必要になる」という若年のCEOはいません。
こんなことを言えば、次の転職先がなくなるからです。
首相が、半導体産業のために、7兆円増税しますと言えば、選挙には勝てないと思います。
つまり、政府が負担できる可能性は低いです。
これは、東氏の資質の問題ではなく、一般論として、高齢の人がトップにいれば、いつ退職してもかまわないので、利益をあげるインセンティブが低くなり、起こりうる事例です。
高齢の人のノウハウが必要ならCEO以外のポストで処遇すべきです。
もっとも、日本の半導体産業は、連戦連敗ですから、ノウハウを求めて人を連れてくるのであれば、御雇外国人の方が役に立つと思われます。
ラピダスの東哲郎会長は、「日の丸連合では勝てない」と言いましたが、皮肉なことに、その言葉は、CEOにも当てはまるように聞こえます。
東哲郎は、日本の立役者ですが、TSMCのモリス・チャン(Morris Chang、張忠謀)には、勝てませんでした。
東哲郎氏は、東京エレクトロンを育てた大変な実績に持ち主です。その経歴には、敬服するしかありません。なので、以上は、トンデモ発言と言われると思います。
しかし、欧米の企業のCEOの年齢はもっと若いです。
「どうして、欧米では、若い人がCEOになるのか」は大変重要な疑問です。
少なくとも、欧米では、CEOは、経歴の実績で選ばれていないことは確かです。
CEOになるまでの期間は10年程度ですので、みているのは。最近の実績だけかも知れません。
今回は、この話題はここまでにしますが、この疑問を持つ限り、ものすごい経歴の東哲郎氏が、ベストなCEOである考えることには、疑問符がつきます。
話が脱線しましたが、出来ないことははっきり認めるべきです。
スポーツであれば、予選を勝ち抜かなければ、本選には進めません。
湯之上隆氏の指摘が本当であれば、日本の半導体産業は、予選に出場することもままならない選手層の厚さになっています。
引用文献
中国市場を席巻、「日本から導入」と喧伝される疑惑のイチゴ 2023/04/04 JBPress 山田珠世
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/74617
“日の丸連合”液晶パネル「ジャパンディスプレイ」が中国企業と連携 半導体も…海外勢に頼らざる得ない窮状 2023/04/11 TBS NEWS DIG
https://news.yahoo.co.jp/articles/10944c2ae452ed99472ba032689299a1d9c14389
インタビュー:最先端半導体ラインに7兆円必要、政府と民間で=東・ラピダス会長 2023/02/02 ロイター
https://jp.reuters.com/article/interview-rapidus-idJPKBN2UC0TJ
岸田政権・日本政府が主導して「半導体会社」を設立したが…「戦略不在」でまったく「成功を期待できない」ワケ 2023/12/21 現代メディア 加谷 珪一
https://gendai.media/articles/-/103634
日本の半導体ブームは“偽物”、本気の再生には学校教育の改革が必要だ 2021/06/22 EETimes 湯之上隆
https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/2106/22/news042.html
半導体新会社ラピダス 2022/11/24 ゴロー