(27)トラブル・プロデューサー
(Q:トラブル・プロデューサーというビジネスを知っていますか?)
1)問題は解決しない方が良い
問題が解決しない方がよいビジネスがあります。
アルミサッシが出て来る前は、窓は、木か鉄の枠でできていました。
木の窓枠は、腐ります。鉄の窓枠は錆びますので、まめにペンキを塗り替える必要がありました。
アルミサッシは、メンテナンスが不要で、大変優れものです。
しかし、アルミサッシは壊れませんので、家を立て替えしない限り、需要が発生しません。
LEDが出てきた時に、LEDは電球より高価でしたが、電球より長持ちがするので、経済的であると言われていました。
その後、LEDの価格は下がりましたが、寿命は短くなり、電球と余り変わらなくなりました。
実は、電球の時代にも、電球を技術的に長持ちさせることは可能であるが、電球が売れなくなるので、寿命を短くして設計していると言われていました。
同じことが、LEDにも起こりました。
実際に、自動車のヘッドランプのように、寿命が短いと困る部分では、長寿命の電球やLEDが使われていますので、市販品の寿命は短く設計されていると言われれば、納得できる部分もあります。
一方では、SDGsのような企業の社会責任を問われれば、「寿命を短く設計する」ことが許されるのかという疑問もあります。
アルミサッシが壊れる(錆びる)、電球やLEDが切れるといったトラブルが継続することで、仕事ができるというビジネスモデルでは、トラブルはプロでユースされることになります。たとえば、LEDを製造している電機メーカーは、「電球やLEDが切れる」問題のトラブル・プロデューサーになっています。
2)レジームシフトの恐怖
デジタル社会へのレジームシフトが進むと、消失してしまうトラブルも多くあります。
30年くらい前まで、印刷は特殊な仕事で、活字を組んで、専用の印刷機をつかっていました。英文では、タイプライライターが普及していましたが、ギリシア文字は言うまでもなく、上付き、下付きの文字の印刷も容易ではありませんでした。
印刷所を使えない場合にいは、ガリ版で謄写印刷するか、コピー機をつかっていました。
パソコンが出てきて、プリンターが安価になりましたが、初期のプリンターは、ワイヤードットで、電光掲示板のような文字しか出せませんでした。
現在は、パソコンを購入している家庭では、インクジェットかレーザーのプリンターを使っています。書籍に使われている1600dpiまでの解像度はありせんが、720dpi以上の解像度があり、実用上は、カラー印刷を除いて問題はなくなっています。
つまり、印刷するという問題に対しては、トラブル・プロデューサーは存在せず、その結果、多くの印刷所、フイルムの現像所、家庭用の謄写版(プリントゴッコ)はなくなっています。つまり、問題は解決され、ビジネスチャンスは失われました。
「問題は解決され、ビジネスチャンスは失われる」過程で、労働生産性があがり、1人当たりGDPが増えて、所得が向上します。
つまり、デジタル社会へのレジームシフトは、多くの問題を解決してしまい、その結果、ビジネスチャンスが失われます。
これは、トラブル・プロデューサーが敗退する過程です。
この時に、敗退をさけるトラブル・プロデューサーがいると、レジームシフトに反対します。
トラブル・プロデューサーを排除できないと、レジームシフトに失敗して、日本は、発展途上国になってしまいます。
3)予想されるトラブル・プロデューサー
トラブル・プロデューサーを排除する方法は、できるだけ早く整備する必要があります。
一番望ましいのは、問題の解決が予想されている時点で、問題を温存させるトラブル・プロデューサーを生み出さないように、予防措置を講ずる方法です。
この機会を逃すと、トラブル・プロデューサーの排除は、困難になると思います。
ここでは、既にあるトラブル・プロデューサーや、今後、予想されるトラブル・プロデューサーをあげてみます。
3-1)納税処理
2023年から、消費税のインボイスの義務づけの範囲が広がります。しかし、エストニアのようにIDを使ったオンライン処理で、納税は完全自動化出来ます。
つまり、税務署、税理士は、トラブル・プロデューサーになっています。マニュアルによる納税作業は、労働生産性の向上を阻害します。
3-2)人事部
ジョブ型雇用に伴い人事部の廃止が問題になっています。
ジョブ型雇用を行っている欧米企業には、人事部がありません。
人事は、各事業部が必要な人材の種類と人数を確認して行います。募集したジョブが終れば解雇になります。企業がリスキリングすることはありません。労働者は、失業保険をもらいながら、リスキリンの補助金をもらって、学びなおしをします。
政府は、人事院のトップに民間企業の出身者を採用して、年功型雇用の改善を進めています。
しかし、企業の人事部も、人事院も、ジョブ型雇用では、不要な組織ですので、トラブル・プロデューサーになっています。
3-3)裁判官と弁護士、医師
チャットGPT4によって、弁護士の仕事に多くは、生成AIでできることがわかりました。
もちろん、全てを、生成AIで行うことは、リスクが伴いますので、メインは人間が処理をして、生成AIは人間をサポートするような使い方になると思われます。
それでも、労働生産性が劇的にあがり、裁判にかかる時間は圧縮可能になります。
そうなると、余剰の裁判官と弁護士が新しい仕事を見つけるか、トラブル・プロデューサーが暗躍するかの、どちらかになります。
同様の問題は、医師の病名診断でも起こりえます。
4)まとめ
デヴィッド・グレーバーの「ブルシット・ジョブ――クソどうでもいい仕事の理論」の和書は、2020年に出ています。
この本は、デジタル社会へのレジームシフト前の時点の話です。
デジタル社会でも、トラブル・プロデューサーが暗躍すると、「どうでもいい仕事」だらけになってしまいます。
トラブル・プロデューサーの典型的な手口は、効果の少ない、時間稼ぎになる解決方法を提案することです。
つまり、弱形式の問題が提示されたら、背景に、トラブル・プロデューサーはいないか、注意する必要があります。